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失踪症候群 (双葉文庫)

失踪症候群 (双葉文庫)

「若者たちの失踪の背後にあるものを探って欲しい」。依頼に応えて、環敬吾はチームのメンバーに召集をかけた。私立探偵・原田柾一郎、托鉢僧・武藤隆、肉体労働者・倉持真栄。三人のプロフェッショナルが静かに行動を開始する。暴かれる謎、葬り去られる悪。ページを捲る手が止まらない『症候群』三部作第一弾。


いきなり閑話から。読書中、脳内に流れていた曲は「バビル二世」の主題歌でした。環敬吾と三人の部下(仲間)からの連想でしょうか。という事で(?)あらすじ紹介代わりの「バビル二世」の替え歌を。『退屈な業務に隠された 特殊な任務を受けている 警務部二課長 環敬吾〜♪ 無理難題をこなすため 3つのしもべに命令だ 私立探偵 妻子持ち 托鉢僧は無愛想 倉持お前は 力持ち〜♪』う〜ん…。
閑話休題。この感想文は下らない閑話から始まったけれど、本書は前置きもなく唐突に始まる。冒頭から環敬吾は上司から任務を受け、3人のプロフェッショナルを招集する。徹頭徹尾、主役は「事件」そのものらしく、環と3人の部下たちの関係性や、原田以外の3人の描写は外見以外には僅かしか書かれていない。最後まで彼らの内面を窺い知る事は叶わなかった(三部作なので今後少しずつ人間性が見えてくるのかも)。登場キャラクタに重点を置いた小説も面白いけれど、事件の顛末だけを描いた本書は純粋なエンターテインメントだという気がした。
あらすじ紹介(↑)の通り、私も『ページを捲る手が止まらな』かった作品。本書の魅力の一つは間違いなく構成の巧みさだろう。事件の内容を冒頭から読者に知らしめ、続いて3人のプロたちが無駄なく調査する。しかしプロの調査も真相にはあと一歩届かない。この絶妙なもどかしさも読者にページを捲らせる理由だろう。また素姓の分からない登場人物たちも読者の興味を惹く一要素かもしれない。ちょっとした描写から彼らの内面を読み取ろうと努力もしました。
95年発表の作品なので作中に登場する道具がやや古く、作中の調査方法も現在は行えないだろう。道具に関してはポケベルを携帯電話に変更すれば良いだろうが、調査方法に関しては今は個人情報保護法の壁にぶつかるだろう。
若者の失踪という点が本書の謎。紋切り型の表現になるが若者にとって「失踪」はリセットボタンなのだろう。そして若いからこそ断ち切る鎖が少なく、気軽にリセットが出来る。本書で若者たちが失踪する理由とは違うけれど、失踪のトリックとしては(ネタバレ:反転→)現代のカード社会問題を扱った宮部みゆきさんの『火車』に似ている(『火車』以外にも戸籍を取り扱ったミステリは多数あるのだろうが)(←)。なので私の読書順が原因でトリックとしては驚きは少なかったけれど、関係者にあの業界の人を置いたのは良い目の付け所だと感心した。
しかし残念なのは解説がドイヒーである点。これまでの貫井徳郎論を書きたいのは分かるが、本書への言及は少なく、ネタバレの連続。そして他作品、しかもこのシリーズ2作目のネタバレまでしている。貫井さんのデビュー作や次作を読んでいない人には読み飛ばされる運命が定められた解説。う〜ん…。

失踪症候群しっそうしょうこうぐん   読了日:2008年02月08日