- 作者: さくらももこ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1999/06/30
- メディア: 文庫
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この腹の中に、何かがいるのである。大便以外の何かがいる…!テスターによるショーゲキの妊娠発覚、どん底でバカバカしいギャグを考えてた悪阻期、悪魔の封印石のような強情な便との壮絶な戦い、と、期待にたがわぬスッタモンダの十月十日。そして、とうとう生まれたよ。あたしゃ、おかあさんになっちゃったよ。そう、まる子も人間、人間も宇宙の生命体、そういうふうにできている、のです。
さくらももこさんの妊娠・出産体験記。妊娠・出産という特別な体験も、さくらさんの極めて日常的な視点と平易な文章を通す事によって、気楽に共感できる内容になっている。さくらさん本人はこの本は個人的な動機によるものと書いていたが、これから出産を臨む人にとっては良い参考書に、現時点で妊娠とは無関係の人にとっても、妊娠を体験した者の体験記として面白くも新しい発見を多く知れるのではないだろうか。男性には男性側の視点から出産を書いた松久淳さんの『男の出産』が参考になるかも(未読ですが…)。併せて読んでみると男女それぞれが直面する「妊娠」が分かって面白いのかもしれない。
にしても、ホルモン恐るべし。たった少しのホルモンの変調で心も身体もこんなにも変わっていくのか、とさくらさんの変化を読んで恐れ戦いた。他にもさくらさんは妊娠中に、私たち人間がどういうふうにできているのか、「生きている」という事の不思議に直面する。さくらさんのように当たり前の事として片付けてしまっている物事をもう一度見直し、更には新しい境地にまで連れてってくれるなんて、やはりなんだかんだ言って妊娠・出産は人間にとって大イベントなのだなー。そういう大局的な視点が出来るって、生きていく上でとても心強い事だと思う。
驚たのは作中に出てくるさくらももこの交遊録。あれだけ一世を風靡した漫画・アニメの作者なのだから顔が広いのは当たり前かもしれないが、まさか引退した伝説の歌手まで出てくるとは…。他にも女優・コピーライターなどが登場し、文庫版の巻末対談はビートたけし氏である。さくらさんの対談は自分の話ばかりに終始してしまう傾向が見られるが、今回は昔からのファンのたけしさんとあって、たけしさんの過去の著作・エピソードから話題を広げている。さくらさんとたけしさんが感じた肉体と魂と心と脳の関係は、私は体験した事のない境地で怖いながらも興味を惹かれる。宗教とはまた違った安心を得られる気がする。お二人の体験が酷似しているという事は、やはり人間、そういうふうにできている、のかもしれない…。