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笑う警官 (ハルキ文庫)

笑う警官 (ハルキ文庫)

札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜査を始めたのだったが…。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。


まずは一言。文庫化改題の意図が全く分からない。上からの御達しは例え意味不明の妄言でも唯々諾々と服従する宮仕え、という本書の内容をその身で体現したのか…? 本書の主人公・佐伯さんの様に信念持ちなよ、佐々木さん。
舞台は組織内の不祥事から人事異動の嵐が吹き荒れる北海道警。石の上にも三年とは言うが、その尻の温もりが不祥事の芽が育つ温床に変わると考えた組織は、適材適所という言葉を忘却する。そして組織は新たな不祥事の芽が顔を出す事を過度に恐れる。そんな時、婦人警官の変死体が発見され…。
まず読者の引き込み方に熟練の技量を感じた。「秘密の部屋」での美人婦警の死、主導権を奪われる捜査、かつての相棒の窮地、独自の捜査チームの結成、タイムリミットなど序盤の展開の速さや駒の配置で読者の視線を他に向かせない。そして事件の捜査描写も、各エキスパートが辿り着く新事実・新展開が用意され、初速のまま緊張感を保たせる。更にはクライマックスでの再加速も凄い。圧倒的な数量を誇る相手の裏の裏をかく頭脳戦に決着が付いた時には緊張が途切れ、一気に疲れが押し寄せてくる気すらした。
が、その一方で読了後は勢いに流されていた部分の多さに気付く。最初に疑問なのは津久井の射殺命令。かつての相棒のまさに絶体絶命ピンチというやんごとなき状況が創出されてはいるが、不祥事の再発を過度に恐れる道警も腐っても警察だ。この命令はどうにもおかしく、それ故に作為的に思えてならなかった。現実の道警の不祥事をベースとした堅実な社会派と思いきや、義理人情に厚い警官の必殺仕事人という印象を受けた。自称『警察小説の金字塔』らしいが、本書は警察小説といってもショーアップされた「エンタメ警察小説」かな、と思った(他には『犯人に告ぐ』など)。重いようで軽快なリズムに身体が当惑していた。
また悪役が分かりやすいのもサスペンスとしての欠点か。最初から真犯人の指す方向性が明白だし…。だから参考人の確保もチームの面々みたいには浮かれなかった(残りページの問題もあって(苦笑))。犯人の造形や犯行が露見した後の言動も典型的。組織内の混乱があるにせよ、勧善懲悪の明快な物語だったのも見込み違いだった。その中では容疑者としての津久井の重要性をマスコミすら掴んでいないという、何とも怖い内外の温度差、そして佐伯の奮闘を見下す視線という終幕が印象的だった。またチーム佐伯も一枚岩ではない点が作品内の雰囲気を引き締めていた。有志であるから自分の倫理観や信念に基づいて離反する者も、序盤から登場している。今後も扱いづらい事件に直面した時に、結束の固さや各人の信念が試されるのかな。
純粋な警察小説なのに恋愛における主導権や性癖の話などの男女の話が妙に生々しかった。美人婦警の乱れた私生活、というのも俗物的興味を抱かせるポイント。このへんオヤジたちが好きそうな小説だ、と勝手に思った。

笑う警官わらうけいかん   読了日:2011年01月08日