- 作者: 松尾由美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/07/30
- メディア: 文庫
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独特な価値観を持つ近未来の妊婦の町、東京都第七特別区、通称バルーン・タウン。国家的機密情報の行方、誰もいないアリーナでからくり人形師を襲ったのは誰か、オリエント急行内での犯人消失、そしてバルーン・タウンをめぐる秘密とは…。前作に引き続き、バルーン・タウンで起こる数々の奇妙な事件に挑む妊婦探偵・暮林美央の名推理。松尾由美がおくる人気シリーズ第二弾。
人工子宮の普及により妊娠という現象が珍しくなった世界を描く近未来SFミステリの第二弾。前巻に比べるとSF要素が薄くなり、ミステリ要素も犯罪というよりは「日常の謎」系になった。今回もシリーズの特徴である「妊娠」をどの短編でも扱っているが、事件と「妊娠」の関連性が前回よりも低くなっったような気がする。事件も単純と紙一重の分かりやすい謎が多かったような…。
面白いのはシリーズを2作も読んでいると、この世界でも現実でも妊娠が珍しい現象だと思わなくなってくる。どの短編でも出てくる妊婦妊婦妊婦! お腹が膨らんでいて当たり前、ぐらいに思える。そういう意味でも妊娠が普通の状態に思えてきてしまい、このシリーズの目新しさを感じにくくなるのかもしれない。
しかし一方でシリーズモノの強みであるキャラクタに愛着が湧いてきている。美央や茉莉奈はもちろん、玲央や千秋といった想像するだけでニヤけてしまう可愛い登場人物。そして美央と佐伯淳の将来について。などなど本筋を外れた読み所も満載。特に美央の強情が崩れるシーンがお気に入りです。
- 「バルーン・タウンの手品師」…出産間近の夏乃の部屋から夏乃が夫から送られたディスクが紛失する。部屋の外には持ち出せない状況の中、一体どこへ消えたのか…。このシリーズの真相としては面白いが、これは推理の方が牽強付会だと言わざるを得ない。面白い推理を並べているが、こんなにややこしく考える人もいないだろう。予想していた通りに美央に変化があってシリーズは続く。
- 「バルーン・タウンの自動人形」…人の出入りがほぼ不可能なスタジアムのステージで、からくり人形師が石で頭を打たれ所持していた現金も消える事件が起きた…。少々露骨な伏線を張り過ぎているようにも思うが、小道具の使い方が面白い作品。ただ、あの小道具以外はバルーン・タウンでなくても成立してしまう。これぞこのシリーズに相応しい、というトリック・真相ではなかった。
- 「オリエント急行十五時四十分の謎」…作家にトマトを投げつけた人物が逃亡したのは「オリエント急行」の車両だった。車内の部屋を捜索するも犯人は発見できず…。このトリックはこのシリーズならではのもの。元ネタのミステリを未読で電車の構造をいまいち理解できなかったのだが(反転→)一人が通路側から楕円形にくり貫かれた扉にお腹を突っ込めば二人擦れ違える(←)と思った。どうだろうか。
- 「埴原博士の異常な愛情」…バルーン・タウンで精神科のクリニックを開業した埴原博士には黒い噂が絶えない。上司の命令でその博士の真の姿を探る茉莉奈、そして美央が調査するこの町の秘密とは…。まず埴原(はにばる)博士というのが笑える。ラストの展開も微笑ましい。だが事の真相は重かった社会派の作品。 前巻と同じく4話目の美央はツンデレのデレに突入するらしい(笑) お幸せに。