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青空の卵 (創元推理文庫)

青空の卵 (創元推理文庫)

僕、坂木司には一風変わった友人がいる。自称ひきこもりの鳥井真一だ。複雑な生い立ちから心を閉ざしがちな彼を外の世界に連れ出そうと、僕は日夜頑張っている。料理が趣味の鳥井の食卓で、僕は身近に起こった様々な謎を問いかける。鋭い観察眼を持つ鳥井は、どんな真実を描き出すのか。謎を解き、人と出会うことによってもたらされる二人の成長を描いた感動の著者デビュー作。連作推理短編集。


「ひきこもり探偵」という新ジャンル探偵なので、絶対に安楽椅子型探偵の美しい推理だ!と期待したんですが、ちょっと違いました。アレレ、椅子から立ち上がって現場に直行しちゃったよ…。この作品は登場人物が一話ごとに増えるという形式なのですが、どの話も新しいパズルのピースが少なすぎて、いささか話が短絡的にみえる。全3作なので、今後に期待します。 巻末の対談には、デビュー時に経歴を明らかにしなかった作者の性別が分からなかったとありますが、私は作者が女性だと直感。だって作者が男性だったら、坂木くんを始め男性陣をあんなにキレイに書かないもの。普通、初対面の男同士は顔をマジマジ見ないよ、坂木くん…。10歳足らずの男の子にまで将来格好よくなるだろうって感想はどうかな、坂木くん…。ハンサムって言葉はどうかね、坂木くん…。石原裕次郎加山雄三を連想しちゃったよ、坂木くん…。各編のタイトルは四季になっていて1冊で1年巡る。登場人物が一話限りだけでなく、その後も登場して、彼らのその後が分かるのは良い。人と人の繋がりが心地良い。

  • 「夏の終わりの三重奏」…坂木たちの住む町で、男性を狙う通り魔・ストーカーが現れる。何故、誰がこんな事をするのか…?これは推理というより物語。話は一直線。鳥井の突出した能力も垣間見れず。これは全体の前奏曲なのでしょう。後半の説教はいらない。この作品、社会問題の提示はいいのですが、どうも全部、社会の一部をクローズアップして、それが全体であるが如き結論を導きがち。
  • 「秋の足音」…ある日、坂木が手を貸した盲目の塚田。彼は毎日、交互に自分を追う双子に悩まされている…。この推理も驚愕の指摘には程遠く。鳥井が非凡な訳ではなく、坂木くんが平均以下なのでは…?歌舞伎の女形(おんながた)の人を「おやま」と呼称するのは失礼だ、と近藤史恵さんの著書で読んだような…。歌舞伎の世界に偏見を起こすような描写です。配慮が足りない気がする。
  • 「冬の贈りもの」…歌舞伎役者の元に届くファンからの不可解なプレゼント。 その目的は…?鳥井の考える推理の過程は分からないが、今回はなるほど、と思った。人の呼称の問題は納得、けど説教臭さが消えないなぁ。ワトソンに心の安定を求めるホームズを理解してるのなら、坂木くんはもっと行動に注意すべきだ。鳥井より坂木くんが20代後半とは思えない精神構造・発言だ…。
  • 「春の子供」…坂木が声をかけた男の子は言葉をあまり喋らない子であった。親も不在の彼を預かる坂木、鳥井が推理する彼の親とは…?今回は鳥井・父も登場。長年の問題が一気に氷解するとは思えないけど、一歩前進。相変わらず推理は納得できるような、牽強付会なような。子供の絵を理解するのは推理の連続だろうな、とは思った。坂木くんのジレンマが徐々に明確に。
  • 「初夏のひよこ」…すべての話の後日談。穿った見方をすると、今後の話に登場させにくい中川夫妻を登場させただけ、とも言えるが。しかし、作者の意図どおり坂木くんと鳥井の周囲の世界が広がっていく感覚を覚えて良かった。一番好きな話。今後の展開が楽しみな作品ではあります。

青空の卵あおぞらのたまご   読了日:2004年10月15日