《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

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薔薇を拒む

薔薇を拒む

施設で育った内気な少年・博人は、進学への援助を得るため、同い年の樋野と陸の孤島にある屋敷で働き始めた。整った容姿の樋野には壮絶な過去が。博人は令嬢の小夜に恋心を抱くが、陰惨な事件で穏やかだった生活は一変する。それは悪意が渦巻く屋敷で始まる、悲劇の序章に過ぎなかった…。


雰囲気重視のミステリ。全編に通底する『こわれそうなものばかり 集めてしまう』ガラスの十代的な痛々しさと、そして確実にカタストロフを迎える事が分かっている物語を怯えながらも楽しんでいた。季節は秋から冬の静かな物語で、音も無く人の命は奪われ、音も無く世界は少しずつ崩壊していった。主人公のただ一つの願いと自戒を嘲笑うかのように世界は彼に無慈悲だった…。
主人公・博人が働き始めた、さる事業家の別荘は一見平和で、施設で育った彼は人生で初めて自分だけの安息の地を手に入れたかと思われた。彼はその幸運に感謝し、二度と施設に戻らぬよう、屋敷における様々な規則、複雑な人間関係を前にしても沈黙を守り続ける事を心に決める。屋敷の令嬢・小夜への抑え切れない慕情も抑えて、自分を殺し続ける。だが同時に余りにも寛大で、余りにも無防備な待遇は、大いなる罠を予感させるのだった…。
本書は全体的に音がない気がした。それは現実感の無さかもしれない。湖を漂うボート上の他殺体という第一の事件は詩的であり絵画的であり、とてもグロテスクだ。本書は陸の孤島、愛憎劇、そして最初の死者、と本格ミステリにピッタリの舞台を用意しながら、即座に警察が登場したりと、そのコードを簡単に破る。まぁ、警察の捜査が後手後手で大事な情報がいつも遅きに失するのは本格同様だったが…。終盤の、刑事の悪意のない、この屋敷の役目の説明だけは恐ろしいほどにタイミングが良かったけどね(泣) 私まで顔が引き攣ったよ。
真犯人も本格のコードから少々外れていて多少拍子抜けするものの誰もが怪しく思える、その疑惑の配分の上手さには舌を巻いた。ただ屋敷の仕掛けた「罠」は、相手が傷付かないのならば代償行為として成立してないのじゃないかと思う。むしろ傷付くのは罪のない人々。無益で残酷な行為だけ繰り返される。
更にあのラスト10ページの超展開はどうなんだろうか…。これこそ最後の大どんでん返しではあるけど、天下無敵のご都合主義の気もする。樋野と同様の境遇でありながら彼以上に内気で世界が壊れる事に怯えていた博人には実に相応しいエンディングだとは思う。書名やテーマともマッチしている。しかし一方で簡単に世界を壊し過ぎた感もある。登場人物に余りにも無慈悲な破壊に嫌悪を感じた。あとあの人は気付いてないのだろうか。何となく分かっている気もするなぁ。それこそ「薄倖の美少年」の博人には相応しい気もするし。また「心が壊れる」人の多さにも辟易。特殊な動機、便利な口封じの道具としてだけ利用されている。
また作品は及第点だと思うが、どうも序盤の伏線が十分に機能しているとは思えない箇所が幾つかあった(カメラとかフランス語とか)。人の心の動きや深淵を覗かせる手法は相変わらず上手いが、全体的に粗雑な印象が残る。
余談:「薔薇」や「屋敷の新参者」というキーワードから、今邑彩さんの『ブラディ・ローズ』を連想。どこのお屋敷でもお金持ちは人が悪いのです。

薔薇を拒むばらをこばむ   読了日:2010年07月29日