- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: 文庫
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歌舞伎座での公演の最中、毎日決まった部分で必ず桜の花びらが散る。しかもたったの一枚。誰が、どうやって、何のために花びらを降らせているのか?師匠の命令でこの小さな謎を解くために調査を開始した新米女形・小菊の前に、歌舞伎の世界で三十年にわたって隠されてきた哀しい真実が、姿を現しはじめる…。歌舞伎座を舞台に繰り広げられる、妖艶な書き下ろし本格推理。
近藤さんの文章、特にこのシリーズの作品は美しさと残酷さが表裏一体となっていて胸を締めつけられます。今回の謎は公演中に花びらが散るという幻想的な謎。しかし、その裏に見え隠れする、歌舞伎界の華やかさを生むための努力と苦悩、そして閉鎖された世界と空間の息苦しさ。短い作品ながらも、人の情念や業など様々な感情が入り乱れています。読後感はとても重いです。
今回の面白さは、「歌舞伎」という特殊な世界のルールやしきたりを巧みに使っている所でしょう。ミステリとしてフェアであるかと問われたならばそうではないのですが、物語として、モノの見え方が違ってくるという点で非常によく出来ていると思います。それに伏線の不十分さも歌舞伎の題材を上手く使って説明されており、読み手は自然と、その状況について理解が深まっているという構造になっている。
一般の考えでは考えられない特殊な思考に、二重三重にも盲点をつかれた感じです。今回は結末を知った上で2回3回と読み直すことによって、初読時とは全く違う印象を残します。読めば読むほど残酷な物語です。何気ないプロローグも途中の登場人物の心理描写も、全てが痛いほどの棘となって降り注ぎます。 ただ何回読んでも今泉がすぐに手を引こうと考えたのは、よく分かりません。もしや、かの直観探偵の仲間なの?今回から今泉の探偵事務所に探偵犬になりそこない雑巾犬・ハチが登場。文章だけでも可愛い事が分かる憎いヤツです。