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茨姫はたたかう (祥伝社文庫)

茨姫はたたかう (祥伝社文庫)

「童話の眠れる茨姫は、王子様のキスによって百年の呪いが解け、幸福になった。もしそれが、ストーカーのキスだったら?」対人関係に臆病で頑なに心を閉ざす梨花子は、ストーカーの影に怯えていた。だが、心と身体を癒す整体師合田力に出会ったのをきっかけに、初めて自分の意志で立ち上がる! 若者たちに贈る繊細で限りなく優しい異色のサイコ・ミステリー。


合田力シリーズ第2弾。女性の抱える悩みや謎、現代病理を解きほぐす本シリーズの今回の病理はストーカー。前回は買物依存症に悩む女性が主人公だったが、本書の主人公・梨花子はストーカーの被害者。今回は梨花子自身が病んでいる訳ではないので、合田力先生による整体が事件の深部を探り当てる役割は担っていない。けれど合田の施術により事件とは別の梨花子自身が抱える「硬さ」が解きほぐされる。私個人としてはストーカー事件の解決よりも梨花子の生き方を端的に指摘した合田の言葉に目から鱗が落ちる思いだった。
冒頭から梨花子は不条理な現実にストレスを感じる。弟の出来ちゃった結婚による止むを得ない一人暮らし。新しい環境は梨花子の仕事・恋愛・プライベート全ての面において悪影響を及ぼした。そんな彼女を更に追い詰めるストーカーの影。弱りきった彼女を助けてくれる白馬の王子様は一体いつ現れるのか…。
今回は梨花子と隣人たちの他、シリーズのレギュラーメンバーである恵・歩の姉妹を含め女性であること、女性の生き方・考え方・自立が語られていた。前述の通り今回は梨花子に病理はないのだが、合田の施術によって自分が囚われた世界から解き放たれ、世界の光景が一転するという展開は前作と同様である。また合田は女性たちに助言を与えるだけで、飽くまで問題が解決したのは彼女たちが前を向いて自分で歩き出したからだというスタンスが良い。
梨花子自身の問題は生真面目だが身持ちが硬く、その頑なな性格が新しい環境への適応を遅らせたり、周囲との軋轢を生んだりしてしまう所だった。しかし梨花子は最初ストレスの一因だった隣人たちのそれぞれの職業・生き方・考え方に触れる事でその視野を広げていく。そして整体の施術中、合田に自分でも気付かずに侵されていた現代女性に特有の洗脳(大袈裟に言えば)を指摘される。梨花子に考え方が似ている私としては、この合田の指摘にカタルシスを得た。「少女漫画脳」と言っては悪く言いすぎかもしれないが、女性は、自分は庇護されるべき存在だと自意識が拡大し過ぎている人は多いのではないか。世界でたった一人の、特別な私の、特別な人。その出現をどこかで信じている。
ミステリとしては短い作品の中にストーカー容疑者候補を上手く配置したな、とそこに感心した。犯人は一番怪しくない人と相場が決まっているので意外性は少なかった。このストーカーの凝り固まった思考こそ合田に解してもらうべきだ。
余談:本書の解説文はあまり誉めているように思えない。むしろ暗に…。

茨姫はたたかういばらひめはたたかう   読了日:2009年09月15日