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紙魚家崩壊 九つの謎 (講談社文庫)

紙魚家崩壊 九つの謎 (講談社文庫)

日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、秘められた想いのたどり着く場所、ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理、オトギ国を震撼させた「カチカチ山」の“おばあさん殺害事件”の真相とは?優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集。


北村さんが過去に発表した短編をまとめた短編集。初出で一番古いのは1990年、新しいのは2005年と、一冊の本の中で流れるのは15年以上の歳月である。しかし時を経ても変わらない北村さんの文章って、本当にいいなぁ、としみじみと思った。さらりと読みやすいのだけれども、簡単な語句でもこんな表現方法があるのかと驚き、言葉遊びに洒落までも効いてる。いつも、文章を読むことの幸せを感じる。
短編の内容は、とてもバラエティに富んでいる。怖い話から心優しい話、ミステリからメタミステリ・アンチミステリまで。しかし、どんな時でも北村さんの文章は、北村さんらしい。9つの短編の中でも、私は「白い朝」がとても好き。ロマンチックな物語と相俟って、その文章に柔らかく包み込まれるようだった。

  • 「溶けていく」…何かに熱中しながら、静かに壊れていく姿がひんやり怖い。でも短編集の顔にもなる1作目にこの作品を持ってくるのは、ちょっと疑問。
  • 紙魚家崩壊」…メタミステリ。でもトリックとしては似たようなトリック見たことあるなぁ…。分割できないモノのという概念が美しい。私も絶対に嫌だな。
  • 「死と密室」…メタミステリ。ページ数という限定に急転直下で解決(?)する事件。前作はトリックがあって、明かされたからスッキリしたけど、これはちょっと抽象的過ぎるなぁ。先生が過去に解決した事件の方が面白そうだったりする…。
  • 「白い朝」…一人語りなのに、その場面が浮かぶ。雪景色がまた純愛っぽい。なるほど、だから落語なのね。北村さんは運命の愛・出会いをよく書く作家さん。彼女が自分の運命に気づく瞬間がとても綺麗。神様、私にも運命ありますよね?
  • 「サイコロ、コロコロ」…日常の謎。短い中に謎とユーモアが詰まっていて好き。誰でも経験したことのあるエピソードというのが、また良い。
  • 「おにぎり、ぎりぎり」…全ての推理が完璧な訳ではない、というアンチミステリにも解釈できる。もしくは男が見栄を張ろうとすると失敗する、という教訓。推理は推理でしかなく、事実は小説よりも奇、になる事がままあるのが普通だ。
  • 「蝶」…シュレーディンガーの猫」を連想した。箱の中で何が起きていたのかは観察者には結果しか分からない。でも彼女の試みたことは、とっても美しいと思う。
  • 「俺の席」…なるほど、だから子供がない、との断りがあるのね。これは日常の謎ではなく、非日常の不可思議、といった所。自分が一生知ることのなかった世界に一歩足を踏みいえれてしまった話。この後の展開を考えるのが怖い。
  • 「新釈おとぎばなし」…『謎物語』などのエッセイのような文章の導入部からすんなり読者を引き込ませて、「カチカチ山」を新解釈して本格ミステリにする、という構成が上手い。ただ、ちょっと長い。パロディ・本歌取りなんだから、もうちょっと物語を端折っても良かったんじゃないかな。特にタヌキとウサギの場面に無駄が多いかな。探偵によって化けの皮が剥がれた昔話は、私欲に塗れた今話であった。

紙魚家崩壊しみけほうかい   読了日:2006年07月23日