- 作者: 倉知淳
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2000/07
- メディア: 文庫
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渋谷のおんぼろビルにある「霊感占い所」には、今日も怪異な現象に悩むお客さんがやって来る。彼らの相談に応えて占い師の口から飛び出すのは、三度狐に水溶霊と、珍奇な妖怪の名前ばかり。それらは全部インチキだが、しかし彼の「ご託宣」はいつも見事に怪異の裏に隠された真実を突く。霊感は無いが推理は鋭い辰寅叔父の、昼寝と謎解きの日常を描いた心優しき安楽椅子探偵連作集。
文庫版の解説にも書かれていたが、過ぎた・起こった過去の出来事に批評を加えるだけの一般の探偵(役)とは違い、占い師の辰寅叔父は相談者に明るい未来まで与えているのが際立った特徴。しかも人間関係には波風を立てず、自分はまるで存在を信じていない妖怪にその責を負わせるフォローまで忘れない。霊感はインチキだがお客さんは救われて帰る。バレなければ、お客さんにとっては辰寅叔父には霊感が「ある」事になって、「ご宣託」も「妖怪」も「本当」になるのだ。インチキカラクリここに完成(笑) 「京極堂」が知ったら怒るシステムだろうか…。
ミステリとしては辰寅叔父は安楽椅子探偵という設定。ただ、ほとんどの作品(特に最初の何作か)は悩みを聞いて立ち所に解決してしまうので、謎と真相が直結していて謎の不思議さをあまり吟味できないのが残念。また、短編の前半部分は定型文という感じも受ける。パターンの面白さ、という楽しみ方もあるだろうけれど、短編の隅々にまでもっと情報・伏線を散りばめてもらいたかった。
- 「三度狐」…昇進を控えた大事な時期に身の回りの物が消え失せていくサラリーマンが相談者。辰寅叔父は狐の仕業というが…。人を責めずに人を諭す。そのための妖怪という「システム」。これが面白い。妖怪も悪いヤツばかりではない。
- 「水溶霊」…帰宅すると家の中が荒れている。強盗かと思うが、その時は家族が在宅中で…。ポルターガイスト現象? 別名・昼ドラ妖怪か。謎の解釈に納得はするが、驚きは全くない。身の上話を聞いてもらうのも占いの一つの役割か。
- 「写りたがりの幽霊」…大学のサークルの旅行先で撮影した写真には何枚も幽霊が写っていた…。なんとも姑息な幽霊もいたものだ。これはバカミスというより馬鹿者だ。てっきりカメラに仕掛けが施されていると思ったのだが違った。
- 「ゆきだるまロンド」…行った事のない場所で忘れ物をし、言った覚えのない会話をしているという主婦。まさかドッペルゲンガー…!? 「日曜の夜は出たくない」のある作品に通じる作品。毒を食らわば皿まで(?)、 完遂が感動に変わるのだ。
- 「占い師は外出中」…辰寅叔父が外出中に、お客さんが来訪。困った美衣子だが、行き掛かり上、霊能者の振りをする破目に。相談内容は、古い家での血塗られた幽霊の退治だったが…。アンチミステリと言えなくもない作品。かの有名な「黒い仏」とまではいきませんが、人を食ったような作品である。
- 「壁抜け大入道」…今回の相談者は小学生。父親の泥棒の嫌疑を解き、目撃した大入道の正体を明かして欲しいという…。大入道の正体は、ねぇ…。幽霊の正体見たり、とはいえミステリとしては呆気なさ過ぎるのではないか。ラストの辰寅叔父の行動は「ひきこもり探偵」が外出した時のような感動すら覚えた(笑)