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三人目の幽霊 (創元推理文庫)

三人目の幽霊 (創元推理文庫)

衝撃の辞令を受けて泣く泣く「季刊落語」編集部の一員となった間宮緑は、牧編集長の洞察力に感嘆しきり。風采は上がらず食べ物に執着しない牧だが、長年の経験で培った観察眼に物を言わせ、しばしば名探偵の横顔を見せるのだ。寄席の騒動や緑の友人が発したSOS、山荘の奇天烈も劇的な幕切れはご覧の通り。意表を衝く展開を経て鮮やかに収斂する、妙趣あふれるデビュー連作集。


落語を取り扱ったミステリでどうしても連想してしまうのは、解説にも書かれている通り、北村薫さんの「円紫さんと私シリーズ」であろう。しかし、これも解説に書かれているが、前述のシリーズは落語家の円紫さんが探偵であるというだけでそれほどミステリと落語は深く関連していないが、このシリーズは半歩、落語界に足を踏み入れている。5編の短編のうち3編が落語家の周辺で起きる怪事件を扱っている(残りの2編はいわゆる「日常ミステリ」)。さて感想としては、新人らしからぬ短編集だな、と唸った。落語との関連も膝を打つものばかりだったし、牧の推理も非常に感心する。ただ、主人公の緑の姿が見えてこない。何度も比べるのは悪いが、前述のシリーズなら髪型や姿かたち・性格が1冊で見えて非常に魅かれたのに対し、緑はいい子である事は以外見えない。家族までも覇気がないのは、ちょっとガッカリ(祖母は別)。新人社員の成長劇であろうから、これからの展開で緑の魅力が出てくるかもしれないので、そこは楽しみに待ってみます。先に読んだ者からの注意としては、同じ一門の落語家の名前は一文字しか違わないので、ちゃんと覚えましょうって事かしら。じゃないと真相が明かされる時、これ誰だっけ!?という事になりかねませんよ(私はなった…)。

  • 「三人目の幽霊」…表題作。師匠同士が対立する一門の各弟子が寄席でトラブルに次々と見舞われる。各師匠は牧に事件の解決を依頼する…。落語の噺と舞台上に現れる三人目の幽霊と現実の幽霊(妙な言い方ですが…)の組み合わせが素晴らしい。違う種類の嫌がらせというのが胸を打った。悪意なき悪意。
  • 「不機嫌なソムリエ」…緑の親友が勤めるホテルのバーのソムリエ・篠崎。彼はホテル内で、親友の前から忽然と姿を消す。困った親友は緑を頼り…。ソムリエと探偵が似ているって事が新鮮だった。確かに目の前に提示されている材料から最良の一つを選び出すという作業は似ているかも。篠崎さんは好きじゃないです。
  • 「三鶯荘奇談」…落語家の子供と「三鶯荘」に旅行する事になった緑。都会から遠く離れた地で眠れぬ夜を過ごす緑。しかも怪しい物音がして…。怪談話が得意な落語家の息子との旅行の途中から、怪談話にも負けない展開になったのは面白かった。最後の展開は現実離れしているが、噺を上手く内包してるのでいい。
  • 「崩壊する喫茶店」…ある時期から毎日、白紙の絵を見て過ごす様になってしまった目の見えない緑の祖母。緑は彼女が惚けたのではないかと疑う…。パズルとしては非常に面白かったが、目の見えない人は、他の感覚が研がれると思うので露見するのではないだろうか?牧の、緑との出会いはストーカー的(笑)
  • 「患う時計」…大きな一門の会で、故意に階段から転落させられる事件や時計を狂わされ時間読みを間違えさせられるという事件が立て続けに起こる。逆転の発想の一編。人物関係図がしっかり出来ていれば、かなり楽しい。事件の根底にあるものは「三人目の幽霊」と同じ。愛だろ愛。タイトルがいまいちだと思う。

三人目の幽霊さんにんめのゆうれい   読了日:2003年06月11日