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魔法飛行 (創元推理文庫)

魔法飛行 (創元推理文庫)

もっと気楽に考えればいいじゃないか。手紙で近況報告するくらいの気持ちでね…、という言葉に後押しされ、物語を書き始めた駒子。妙な振る舞いをする“茜さん”のこと、噂の幽霊を実地検証した顛末、受付嬢に売り子に奮闘した学園祭、クリスマス・イブの迷える仔羊…身近な出来事を掬いあげていく駒子の許へ届いた便りには、感想と共に、物語が投げかける「?」への明快な答えが。デビュー作『ななつのこ』に続く会心の連作長編ミステリ。


シリーズ2作目。今回も主人公の駒子が大好きな作家へ「問題編」となる日常の謎を添えた手紙(今回は駒子の書いた小説)を送付し、それに対して作家が駒子に「解答編」を返信するという往復書簡形式のミステリになっている。
本書ではまず著書2作目にして早くも作者の加納さんは作品内を自由に飛び回る能力を身に付けてしまったのか、と驚いた。例えば1編目の「秋、りん・りん・りん」。1編目の「問題編」を読書中、「あれっ、このシリーズの文章ってこんなに甘ったるかったっけ?」と首を捻っていたら、それこそが作者の狙い。「問題編」の書き手は駒子であり、この文体は『小説のようなもの』を書き始めた駒子の書き手としての力みや未熟さの表れであった。この後にも駒子の文章には彼女の心境がつぶさに表されている。更にその上にミステリの伏線まで巧妙に隠されている手の込んだ作品。また短編と短編に挿まれる駒子の元に送られてくる「誰かからの手紙」は駒子を当惑させ、そして読者をも幻惑させる。駒子をまるで物語の登場人物として捉える手紙に、読者は物語の内外を行き来する不思議な感覚に襲われる。そして迎える最終話「ハロー、エンデバー、ここで読者はその「謎の手紙」解明への手掛かり、連作短編としての伏線も各短編の中に二重三重にさらりと忍ばせる作者の技量の高さに感服するに違いない。これは謎や真相よりも驚いたかも。また洞察力と愛に溢れた「有栖川有栖」さんの解説も良かったなぁ。

  • 「秋、りん・りん・りん」…駒子が大学構内で出会った謎の人物<茜さん>。彼女の言動は非常にエキセントリックで駒子は戸惑い、傷付く…。<茜さん>の正体は分かりやすいが、伏線・証拠の張り巡らせ方が大好き。駒子は文学少女と言うよりも薀蓄王っぽいですね。「クドリャフカ」と言えば私は「コチラ」の作品を連想。
  • 「クロス・ロード」…交通事故で亡くなった子供の霊が出るという幽霊交差点。その交差点の壁には子供の絵が描かれていたが、その絵は段々と白骨化し…。排気ガスが充満しているような息苦しい短編。真相よりも短編終了後の「謎の手紙」の送り主がこの事故の事実を知り苦悩している様子にドキリとする。
  • 「魔法飛行」…学園祭の日に駒子も立ち会った双子のテレパシー実験。果たしてその結果は…。UFOや超能力の可能性はミステリでは否定される運命。しかし前編と打って変わって、人と人の想いを伝えるロマンティックな作品。学園祭特有の大学全体の高揚感や秋空の高さや美しさが伝わってきて読んでいて楽しい。
  • 「ハロー、エンデバー」…クリスマス・イヴ、駒子の手に届く最後の手紙、それは遺書であった。その死を回避したい駒子は作家の元に助けを求める…。これまでの短編の中に隠されたもう一つの伏線から真実が明らかになる構成は素晴らしい。…が、手紙の送り主の行動は理解し難い。性格付けはされているが手段が迂遠過ぎる。率直に言って気持ち悪いなぁ。ラストシーンは好きなんだけど…。

魔法飛行まほうひこう   読了日:2009年01月30日