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おまけのこ しゃばけシリーズ 4 (新潮文庫)

おまけのこ しゃばけシリーズ 4 (新潮文庫)

一人が寂しくて泣きますか? あの人に、あなたの素顔を見せられますか? 心優しき若だんなと妖たちが思案を巡らす、ちょっと訳ありの難事件。「しゃばけ」シリーズ第4弾は、ますます味わい深く登場です。鼻つまみ者の哀しみが胸に迫る「こわい」、滑稽なまでの厚化粧をやめられない微妙な娘心を描く「畳紙」、鳴家の冒険が愛らしい表題作など全5編。


シリーズ4作目。私は若だんなと約2年振りの再会だったけど、変わらずに病弱な彼の姿を見て一安心(笑) しかし再会も束の間、一編目の内容には驚かされた。若だんなは親友・栄吉と慣れない喧嘩中だし、『妄念と執着の塊』の妖が登場するし、その影響で人間は一足飛びに願望を叶えるために「娑婆気」を丸出しなのだ。更にその結末はシリーズの中でも特異で、一件落着と思いきや、若だんなの想いは妖には理解されなかった。最後まで妖と反発する状態は非常に珍しい。若だんな同様、私も遣る瀬無さを感じ呆然としてしまった。
本書の特徴としては、仁吉と佐助以外の妖(あやかし)も皆、堂々と主役を張っていくスピンオフに近い作品が多い事だろう。どの短編でも変わらず探偵役は一太郎に据えられているが、それ以上に訳あって本来の居場所の長崎屋の離れから遠出した妖たちの活躍が前面に出ていた。中でも鳴家(やなり)の冒険を描いた5編目「おまけのこ」は「はじめてのおつかい」を見ている気分になった。その感動のラストシーンでは鳴家の健気さに、「頑張ったね、頑張ったね」と胸が熱くなった。
しかし久し振りの読書で、このシリーズって時代小説としてもミステリとしても正直、ここまで中途半端だったか、と首を何度も傾げてしまった。今回のような上辺をなぞっただけの作品でなく、もっと複雑な心の内を読ませる名文を、この設定ならではのミステリを期待したい。このシリーズが単なるキャラクタ小説だけで終わって欲しくない。きちんと配合すれば良薬になるはずだから。

  • 「こわい」…仏すら厭い、恐れる妖・狐者異(こわい)が職人の腕が上がる秘薬を持ってきた。喧嘩中の菓子職人・栄吉の為に薬を欲する一太郎だったが…。本来、シリーズはその名の通り「娑婆気」が満載である。上述の通り、シリーズでも異質な結末に驚く。狐者異問題は今後に持ち越しか。若だんなの心を傷つける存在だが、彼をより成長させる要素な気もする。それは人間関係でも同じ。
  • 「畳紙(たとうがみ)」…どうしても厚化粧を止められないお雛は、“夢”の中で出会った派手な着物の男に心情を吐露する…。スピンオフ「変質者 屏風のぞき」。これも現代人に通じる悩みかも。うーん、ミステリではないし人情噺としても浅すぎないか…。もうちょっと人間の機微を描いて欲しいものです。屏風のぞきの不器用な優しさ、彼なりの若だんなへの慕情や信頼が読み取れる。
  • 「動く影」…妖たちと出会う前の一太郎5つの春、近所の子供たちの間で、動く影が人を障子に引きずり込むという噂が飛び交い…。こちらは一太郎の「はじめてのたんてい」。江戸の少年少女探偵団の結成と活躍が微笑ましい。逆説的だが、この話は一太郎は妖たちが居なかったとしてもしっかりと生きていける証明でもある。しかし害は無いとは言え、影が動くのを目撃するって結構怖いよね…。
  • 「ありんすこく」…『ねえ仁吉、佐助、私はこの月の終わりに、吉原の禿(かむろ)を足抜けさせて、一緒に逃げることにしたよ』。衝撃発言で始まる極秘計画の結末は…。病床探偵の若だんな主導の話なら、もう少し頭脳戦を願う。窮地に追い込まれたら、妖に頼んで丸投げ(笑)なんて、話として美しくない。しかし一太郎にも欠如している知識はあるのね。でも今後、落語「明烏」にならないように…。
  • 「おまけのこ」…長崎屋の中庭で職人の殴打事件と盗難事件が起こる。一方、その事件を目撃した一匹の鳴家(やなり)は災難に巻き込まれて…。状況は本格のフーダニットなのに推理じゃなくて捜査によって犯人特定してしまうのが非常に残念。若だんなは探偵じゃなく捜査の筋道を立てるボス? しかし鳴家の「はじめてのおつかい」と、一太郎の愛の証によりそんなモヤモヤは全部吹き飛ぶ。

おまけのこ   読了日:2010年08月03日