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銀杏坂 (光文社文庫)

銀杏坂 (光文社文庫)

築三十年のアパート・さつき荘には、ひとりの幽霊が住み着いていた。そのアパートの一室で、二百万円のダイヤのブローチが盗まれた! ところが容疑者は全員シロ。犯人は幽霊? 中央署の刑事・木崎と吉村は、幽霊に事情聴取をすることになるが…(「横縞町綺譚」)。北陸の古都・香坂市を舞台に繰り広げられる、不可思議で切ない連作ミステリー。


幽霊・予知夢・生霊に超能力、刑事・木崎が犯罪の捜査中に出会ったのは常識的には信じ難い様々な超常現象。若き同僚・吉村と共にすっかりオカルト担当になってしまった木崎が各現象に対して導き出す真相とは…、という内容。
小説としては各短編ともラストに言い知れぬ余韻を残す。オカルト的な要素に目が行きがちだが、事件の根底にあるのは関係者の行き場のない心の叫び。主人公の木崎も妻に先立たれ一人息子も独立し街を出て、独り寂しく生活を送っている。若い吉村までも自宅に誘って飲み交わす辺りに人恋しさが出ている。だから読み進めていく内に、どんどん静かに物悲しくなるような印象を受けた。その辺り、静かな北陸の古都・香坂という舞台と雰囲気が合っていた。
しかしミステリとしては短編が進む毎にどんどんカタルシスは減っていく。言い知れぬ余韻も味の一つであろうが、私としてはもう少しミステリ的な切れ味が欲しかった。連作短編集の最後には切れ味の衰えの理由が説明されてはいるのだが、いまいち腑に落ちない。1話目で予想したのと方向性が違ったのが残念。

  • 「横縞町綺譚」…あらすじ参照。超能力や霊魂にも一定のルールが存在する、という「特殊設定ミステリ」パターン。単純な事件だけにその不可思議性がよく分かる。もっとも木崎たちにとっては一番不可思議なのは幽霊の存在が実証された、という事だろうが。ユーモラスかつミステリアス、そしてちょっとシリアスな話。
  • 「銀杏坂」…表題作。夢を見た3日後に夢の内容が現実に起こるという新婚の女性が今回見たのは夫を殺す夢だった…。今回、木崎は事件を未然に防ごうと奔走する。予知夢が実証され続ける中で浮かび上がる齟齬という構成が面白い。この短編では特に北陸の古都という舞台が不思議な空間として扱われている。
  • 「雨月夜」…雨の夜の殴打事件の容疑者は犯行時間前後に自宅周辺で数人に目撃されている。が、容疑者の家族はそれは「生霊」だという…。不思議な現象を扱うが本書の特性だけど、今回の真相はなぁ…。余韻というより遺恨を残してます。また、回が進む度に私の中で木崎がどんどん年老いてく印象を受ける。
  • 「香爐峰の雪」…住宅の離れで起こった殺人事件。入口の鍵は掛けられ唯一開いていた窓の外は一面の雪。果たして犯人の脱出方法は…。今回も「特殊能力」には制限がある。そして、それにより一層深まる謎。超能力の実験方法が面白かった。今回は更に木崎のうら寂しさが増してる。それは気のせいでなく…。
  • 「山上記」…搭乗したはずの飛行機から煙のように姿を消した男と、その謎を解く手掛かりを与えてくれる「アパートの幽霊」。幽霊は木崎に何を伝えたいのか…。普通のアリバイ事件の前半。そしてこれまでの疑問を逆手に取った後半。が、やはりしっくりこない…。物語は眠りから覚めて始まり、眠りに落ちて終わる。

銀杏坂いちょうざか   読了日:2007年10月20日