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アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

北アイルランドの統一を謳う武装勢力NCFの副議長が、スライゴーの宿屋で何者かに殺された!宿泊客は8人。そこには正体不明の殺し屋が紛れ込んでいた。やはり犯人は殺し屋なのか?それとも……。宿泊客の一人、日本人科学者・フジの推理が、「隠されていた殺意」をあぶり出してゆく。本格推理界に衝撃を走らせた期待の超新星の処女長編。


うーん、物足りない…。メイントリックははっきり言ってしょぼいし、サブトリックもメインの呆気なさに飲み込まれてしまって驚けなかった。トリックの書き方や全体の構成に工夫が足りなかったのが残念。ただ、題材に南北アイルランドの統一という政治問題を置いて、人の動きを制限する事と科学的捜査の介入を許さない密閉された空間を作り上げたのは、なかなかお目にかかれない発想。しかし、その全てを活かして謎と共存させているかというとそうではない。思想や政治的駆け引きをミステリに混入させた事は感心する点だけど、その背景を上手く使った心情的に訴えるものが結局なかったのが惜しい。だって、あれなら最初から…ねぇ。ちなみに無知な私としてはアイルランドの社会状況のフィクションとノンフィクションの境界が分かりません…。そして、いつものように外国人カタカナ名には四苦八苦。更には愛称と本名の違いも茨の道でした。書名が薔薇だけにね(笑)
作風や雰囲気は古き良き本格というべく、どことなくレトロな感じ。しかし、これを本格といえるのか?というぐらい状況が曖昧過ぎる。死体の位置、死体の周辺の様子、建物の構造はどうなっているのかが分からないまま進んで、やっと説明された時には真相である。そんな事は書いてなかったじゃん、と思うことしばしば。物語全体がエレガントな論理ではないんだよなぁ。だって(ネタバレ:反転→)なぜ洗濯なんて分かりやすい行為をしたのか。隠蔽すればいいんじゃないの?(←)と思わずにいられないし…。そして日本人研究者のフジは格好良すぎ…。矢吹駆に並ぶすかしっぷりである。

アイルランドの薔薇アイルランドのばら   読了日:2005年10月30日