- 作者: 石田衣良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2001/07/10
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 102回
- この商品を含むブログ (315件) を見る
ミステリーの「今」を読みたければ、池袋を読め。刺す少年、消える少女、潰しあうギャング団……命がけのストリートを軽やかに疾走する若者たちの現在を、クールに鮮烈に描く大人気シリーズ第一作。青春小説の爽快さとクライムノヴェルの危険さをハイブリッドした連続ドラマ化話題作にして、日本ミステリー連作の傑作。
池袋で育った主人公・マコトの視点で語られる池袋の1年の物語。都市では季節を感じにくいものだが、石田衣良の文章は池袋に季節をもたらす。服装、天候(当たり前か…)、マコトの果物屋の店頭に並ぶ果物などで、だ。また夏の解放感、秋の寂寥感、冬の緊張感、春の躍動感がこちらに伝染してくるような感触のある文章だった。そして再び池袋に解放の夏が訪れ、物語はカラッと終わる。
一本、裏の道に入れば暴力と狂気が見え隠れするこの街を主人公・マコトは知恵と機転を以って自由自在に疾走する。だが、ただ一人で突っ走るのではなく池袋で知り合った友人・知人たちの力を借りて、適材適所に解決手段を探り当てる。その連携プレーと手法が広義のミステリーとしてのカタルシスを生み出すとともに、そこはかとなく青春の匂いを発する。物語で血が出てもどこか爽やかなのだ。
不意打ちでヤラれた文章は『これでシンセをひくT.K.を見なくて済む。それくらいなら、うちでJ.S.B.のキーボード作品でも聴いていたほうがいい』。そのキーボード作品の名は『イギリス組曲』(笑)! このユーモアセンス大好きだなぁ。どうやらこの回(「内戦」の時)のマコトはJ.S.B.に凝っているみたい。
- 「池袋ウエストゲートパーク」…売春少女の首を絞める「ストラングラー」が池袋の街を暗躍する。仲間のリカが殺された事でマコトは事件の調査を始めるが…。警察でも出来ない捜査を自分たちでする、というのが何とも爽快(反権力という訳ではなく)。展開に加え、マコトの語り口、断章構成が疾走感を倍増させている。
- 「エキサイタブルボーイ」…池袋の暴力団・羽沢組の娘が突然失踪した。マコトは中学の同級生で現・羽沢組のサルと共に動く。そこで浮かび上がる一台の車…。物語はただ乱暴なだけでなく、情によって動く人たちがいるから深い。彼らの友情・愛情・人情。反対に欲情・薄情、そして人情もまた人を傷つける。
- 「オアシスの恋人」…覚醒剤の売人グループから追われている恋人のイラン人を助けて欲しい、と中学の同級生で現・風俗嬢の千秋から依頼され…。カシーフの真っ直ぐな性格が良い。ハイテクが暴力に勝るのも爽快。この調査方法は警察には出来ません。また石田衣良が注目する、もう一つの街・秋葉原も登場。
- 「サンシャイン通り内戦(シヴィルウォー)」…マコトが「初恋」に浮かれている時、池袋は2つの色に塗り分けられていた。マコトは池袋の「ピースメーカー」として立ち上がる…。今回からマコトは警察に更なる強力な協力者を得る。早くもマコトがオールマイティ過ぎる気もしなくもないが…。「カラーギャング」という単語は小説では出てこないのか。本読みとしては、マコトの読書時間延長の件はとても共感。