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館島 (創元推理文庫)

館島 (創元推理文庫)

天才建築家・十文字和臣の突然の死から半年が過ぎ、未亡人の意向により死の舞台となった異形の別荘に再び事件関係者が集められたとき、新たに連続殺人が勃発する。嵐が警察の到着を阻むなか、館に滞在していた女探偵と若手刑事は敢然と謎に立ち向かう! 瀬戸内の孤島に屹立する、銀色の館で起きた殺人劇をコミカルな筆致で描いた意欲作。驚愕のトリックが炸裂する本格ミステリ


ジャンルは嵐の孤島+館モノ。孤島で殺人事件が発生すると、急に太平洋上に台風が発生する驚天動地の展開(笑) そんなミステリのお決まりの展開の中で枠にはまらないのが主人公とトリック。事件によって互いが互いに疑心暗鬼になっている中、主人公の男刑事と女探偵と美少女は毎夜、酒盛りを繰り返す豪胆な変わり者揃い。更に男刑事は真相より深窓の令嬢に目を奪われ…!?
出版が東京創元社なので流石の作者も今回は真面目路線で行くのかと思いきや、相変わらずの脱力ユーモアミステリ。事件調査の描写が続いたかと思うと、作者はまるで真面目に筆を進めていた自分を羞じるように主役たち(多くは相馬刑事)を暴走させる。休暇中にも関わらず事件捜査をしている自分に気付いて真摯で紳士な態度を一変させる相馬刑事の姿は作者の内面とダブる。
何と言っても読み易い。10人以上の登場人物を混乱する事なく覚えられたのは実は語りが上手いから。ミステリとしてもスラップスティックな展開ながらちゃんと基本を抑えているから安心して読める。更にこれだけ滅茶苦茶な展開なのにラストシーンは美しくジンと胸に迫るものがあるから、これはお買い得(笑)
「驚愕のトリック」には驚いたものの、作者の持ち札がこれ一枚なのが残念。謎としては連続殺人よりも、建築家の死体消失ならぬ死亡現場の消失の謎が斬新で魅力的だった。本書が読み易いのは展開が非常にスピーディーだったからではあるが、謎の見せ方には疑問が残る。また探偵が披露する真相は論理的に組み立ててるとは言え、犯人の決め手となる証拠が地味過ぎやしないだろうか。
更に最大の不満は、中盤に推理合戦がが全く無かった事である。事件発生後、探偵たちが調査するのはアリバイ探しと動機探しのみ。要するに全員が容疑者となり得るという確認がされているだけ。ミステリの楽しみの一つである中盤の(時には眠くなるような)推理合戦が丸々省略されているのは残念である。事件の不可思議性を高めるためにも数々の間違った推理を繰り出して欲しかった。推理・捜査の描写が足りないので、真相がやや唐突に明かされた印象を受けた。
(ネタバレ感想:反転→)やはり推理部分の不足と、3つの事件ともトリックが同じというのはミステリファンとしては物足りなさが残る。2回目の殺人ぐらいは違うトリックも用意して欲しかった。また御都合主義だな、と思ったのは深夜にも関わらず階段内に人がいる僅かな間に限って、それが動かされている事。推理の手掛かりになるとはいえ、そんな偶然が重なるとは…。そういえば犯人(医師)はどうして第1の事件(信一郎)の検死の時、あんなに正直に死亡推定時刻を答えたのだろうか。警察は到着しないし専門医ではないのだから嘘言ってもいいのに。(←)

館島やかたじま   読了日:2009年09月13日