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バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

ヴィクトル・ユゴー街のアパルトマンの広間で、血の池の中央に外出用の服を着け、うつぶせに横たわっていた女の死体は、あるべき場所に首がなかった。こうして幕を開けたラルース家を巡る連続殺人事件。司法警察の警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件の謎を追う。ヴァン・ダインを彷彿とさせる重厚な本格推理の傑作、いよいよ登場。


読んでる最中にぐっすり寝てしまいました(笑) もう探偵役・矢吹駆の言うことが何がなんだか分からなくて…。直観が大事だという現象学の理は、作中にも紹介されているので少しは分かった気がしますが、結局は普通の推理小説の形態になってる。警察の地道だけれども進展のない捜査と、思わせぶりでペダンチックな探偵に焦れる。けれど首無し死体の真相も焦らせた割りに普通。別に現象学を持ち出さなくても、首を切った理由の候補を考えてみれば当たるんじゃない?と思ってしまう。ミステリとしては精巧にできているのですが、どうも哲学や「赤」のイメージを前面に押し出す割りに、盛り上がりやダイナミックさが足りなかったような。
パリが舞台ということもあり、当然、名前がカタカナ。もう誰が誰だか判別が付きません。しかも人物描写が少ないので、もう直感で読んでたかも(笑) ある意味、私が矢吹駆です。その矢吹駆という人物も掴みかねる。私は天地がひっくり返っても、矢吹駆のような生き方も考え方もしない人なので、無駄に考える暗い青年という印象です。思索好きが読めば楽しいのだろうか? 好みの問題だろうが、長髪もいかん。ナディアもいかん。あの年代特有の自己顕示欲や周囲への反感というのは分かるが、単なるお調子者としか見えない。矢吹駆の引き立て役です。彼女がこれからのシリーズの相棒となるのかと思うと次作に手が伸びません…。
さて、事件の真相は理解できるのですが、その後の動機の告白はどうでしょうか。本書では「生物的な殺人」「観念的な殺人」という2つの殺人の違いが多く語られてます。が、その一方を語るために最後にアレとは! ああいう、いきなり話が極大化するのって好きではありません。今まで何にも言ってないじゃん!! アンフェアです。いきなり話が「逆襲のシャア」のシャアみたくなっちゃって。あの後「人を覚醒させるためには…」云々言われても驚きません。高尚な哲学談義とトリックの凡庸さが乖離していた印象を受ける作品でした。

バイバイ、エンジェル   読了日:2004年10月03日