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月の扉 (光文社文庫)

月の扉 (光文社文庫)

週明けに国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港で、ハイジャック事件が発生した。3人の犯行グループが、乳幼児を人質にとって乗客の自由を奪ったのだ。彼らの要求はただひとつ、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」石嶺孝志を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。緊迫した状況の中、機内のトイレで、乗客の死体が発見された。誰が、なぜ、どのようにして。スリリングな展開とロジカルな推理!デビュー作『アイルランドの薔薇』をしのぐ「閉鎖状況」ミステリーの荒業が、いま炸裂する!


まず指摘したいこと。カッパノベルス12ページに「和子は(中略)自閉症が高じて…(後略)」と書いてあるが「自閉症」と「自閉的な子供」は根本的に違う。自閉症は、現在では先天性の脳の機能障害と考えられている。間違えられやすい事だからこそ、間違った知識を流布するのは危険だ。編集に関わった人の誰も知らなかったのだろうか? あとアベック⇔カップルの表記の不統一も気になる。アベック…。


他にも、ハイジャック犯側の他の乗客への無関心・無対応や、抵抗もせず従順に座っているだけの乗客側(一応、乗客の行動を封じさせる描写はありましたが)などに疑問を感じました。しかし、それ以上に2つ事件(ハイジャックの成否と死体の謎)が気になり、その結末がどうなるか知りたくてドキドキしながら読み進めたのも事実。今回は意外な探偵役が面白かった。普通に考えたらハイジャック側の真壁が探偵役になると思うが、ただ同乗しただけのサラリーマン座間味くん(仮名)が探偵役に任命される。サラリーマン探偵はデビュー作『アイルランドの薔薇』と同様です。そういえば最後まで座間味くんの本名が出てこなかった。事件の推理を披露するの裏で、ハイジャック犯側を内部分裂させようという魂胆には恐れ入ります。ただ、彼の推論の連続のせいで、序盤のハイジャック・女性の死体の謎という2本立て同時進行の緊迫した雰囲気が、ただの(?)死体の出現の謎の話になってしまったような気もする。序盤は飛行機の中という空間が思い浮かんだけれど、後半は背景がなくなって彼らのみの気配しか感じられなかった。
真相が分かると全部が呆気なく思えてしまうのがミステリ小説の宿命ですが、本書は登場人物の行動原理が面白かった。他の人からは怪しさ満点の師匠の力と「飛ぶ」という行為が、私好みの奇妙な論理を生み出す一因となったのに面白さを感じた。物理的なトリックは誰もが薄々ながら予感したものだけれど、この精神的な論理はお見事。しかし、この結末には納得がいかないなぁ…。

月の扉つきのとびら   読了日:2006年03月09日