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湖底のまつり (創元推理文庫)

湖底のまつり (創元推理文庫)

傷ついた心を癒す旅に出た香島紀子は、山間の村で急に増水した川に流されてしまう。ロープを投げ、救いあげてくれた埴田晃二という青年とその夜結ばれるが、翌朝晃二の姿は消えていた。村祭で賑わう神社で、紀子は晃二がひと月前に殺されたと知らされる。では昨日、晃二と名乗っていた人物はだれか。読む者に強烈な眩暈感を与えずにはおかない泡坂妻夫の華麗な騙し絵の世界。


これまでの泡坂作品とはちょっと作風が違う。だけど解説の「綾辻行人」さんも述べているように読者を「騙そう」という作者の並々ならぬ情熱は変わらない作品。
読了してすぐ思わず読み返させる「使役」の力が読者が作家の策にハマった証しとするならば、きっと誰もが読み返してしまうであろう作品。まぁ、これは本格ミステリを読んで受ける驚きとは、ちょっと異質なのかもしれないが…。けれど泡坂さんの情熱に騙されると思えば喜んで詐欺にかかろう。もう寄付やお布施に近い。
謎が謎と判明するまで、やや長い。そして判明してからも謎は混迷を深める。一章では単なる男女の出逢いを描いただけで事件は起こらない。特筆すべきは過剰なほど濃密な濡れ場の描写ぐらいだ。本書は一章ごとに視点が変わる構成で、更に各章の終わりには必ず衝撃的な展開がある。一章でも最後になって事件は起こる、いや既に起こっていた。昨日、出逢ったはずの人物は一月前に死んでいた。混乱する一章の主人公・紀子、そして読者。長く続く眩暈の始まりである…。
二章以降で何回も、↑のあらすじにある「強烈な眩暈」を感じる事になる。しかし眩暈を感じながらも、一歩一歩注意しながら読み進めればきっと真相に近づく事が出来る気がする。でもダメだった。どうしても真相にたどり着く前に足が止まってしまう。どう考えても辻褄が合わない。そのもどかしさに焦れながら読んだ四章には、全ての辻褄の合った真相がちゃんと用意されていた。
ある意味でどんなアリバイトリックや密室トリックよりも衝撃的な真相かもしれない。また読了すると『湖底のまつり』以外の題名はないという気がしてくる。愛した人を失う事と、沈みゆく村のうら寂しさがよく合っていた作品。
(ネタバレ:反転→)ちなみにエロスの描写といい、トリックといい(端的にいえば百合的な関係)西澤保彦さんが書きそうな感じだと思った。濡れ場の描写の中に伏線が張られているなんて、本書は相当「オトナの小説」である。ミステリだけどエロスで、エロスだけどミステリ。その妖しい両立も不思議な作品だった。(←)

湖底のまつりこていのまつり   読了日:2007年06月21日