- 作者: 倉知淳
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2003/07
- メディア: 文庫
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亡き妻に謝罪したい…。引退した不動産業者・方城兵馬の願いを叶えるため、長男の直嗣が連れてきたのは霊媒だった。インチキを暴こうとする超常現象の研究者までが方城家を訪れ騒然とする中、密室状況下で兵馬が撲殺される。霊媒は悪霊の仕業と主張、かくて行なわれた調伏のための降霊会で第二の惨劇が勃発する。名探偵・猫丸先輩が全ての謎を解き明かす、本格探偵小説の雄編。
なにはなくとも猫丸先輩。猫丸先輩に会うのはこれが2作目だというのに、もう既に好感や親近感を持っている。これが猫丸先輩の魅力・求心力の表れかもしれない。本書でも「探偵役は遅れて登場する」という本格ミステリの鉄則がきっちり守られているのだが、その理由が非常に猫丸先輩らしくてユニーク。
本書でミステリ作家・倉知淳と、「先輩探偵」の猫丸先輩を非常に好きになった。倉知さんの発想力や文章の柔軟性を堪能出来る作品だった。本格ミステリへの変な力みを感じさせない所も私好み。それが他では読んだ事のない独創的なトリックに繋がっているのかもしれない。 展開が流れるように進むので、「ある事実」にはアッと驚かされた。そこで驚く準備はまるでしていなかったから余計に。
容疑者全員のアリバイが成立した第一の殺人、そして密室で関係者一同が手を繋いだまま起こる第二の殺人。連続殺人が起っているのにどこか牧歌的な一族。きっと成一の住む方城家の庭がそんな落ち着いた風景なのだろう。
実は真相披露までは、成一と左枝子、交互の視点で描かれる物語の構成はちょっと冗長かなと感じていた。が、真相を読んでトリックを支える物語に最適の長さだと知る。何気ない一文が伏線に変わる。再読するとまた楽しいだろう。「物事を一側面だけで捉えちゃいけない」という猫丸の言葉が後になってどんどん効いてくる。素敵だ、猫丸先輩☆ 本書も猫丸先輩もかなりお薦めです。
今回のワトソン役・成一はこれっきりにしておくには惜しい良い人物。またどこかで出会いたい。霊媒師の穴山は『占い師はお昼寝中』の辰寅叔父の成れの果てか(笑) 霊能者としてきちんと相談者を「救済」してしまう所も辰寅叔父に似ている。出版順は本書→『占い師〜』なので辰寅叔父の原型は穴山だったのかも…!?
(ネタバレ反転→)交霊会のトリックと殺人のトリックは明るい場所で見たら、マヌケな姿をしているだろうなぁ…(笑) 殺人の方法までも何となくユーモラスなのは、このシリーズの特性か? 私はてっきり成一の父・勝行が裏口から帰った事が伏線で、彼が犯人だと思っていました。しかし最後の展開は辛いなぁ。それでも最後にみどり色の風を一陣吹かせて終わらせるのは倉知さんらしい。もしも左枝子が好きな人に猛烈にアタックする性格だったら全く成立しないミステリ(笑)(←)