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卍の殺人 (創元推理文庫)

卍の殺人 (創元推理文庫)

その邸はふたつの長い棟が卍形に組み合っていた。住人も建物同様にふたつの家族に分かれて、微妙な関係を保つ。亮子はこの邸を恋人の安東と共に訪れた。安東はここに住む従妹との結婚を断わり独立を宣告するという。だが第一夜に早くも惨劇が起きた。続いてまた事件が。旧家はなぜ呪われているのか。衝撃が続く展開、意外な結末が読者を魅了する本格推理。著者のデビュー作品。


本書は「鮎川哲也と十三の謎」の十三冊目となるべく公募によって選出された作品。しかし横の並びの、北村薫さんの『空飛ぶ馬』宮部みゆきさんの『パーフェクト・ブルー』山口雅也さんの『生ける屍の死』などの作品と比べると、小粒な印象は否めない。ミステリとしては前代未聞のトリックというよりも、可もなく不可もなくといった及第点の作品。しかし「本格推理」に真正面から挑んでいて、無駄のない端正な内容の、清く正しいミステリ、という感じで好感を持てた。
「卍形の屋敷」と聞いて多くのミステリ読者が連想するのは、やはり綾辻行人さんの「館シリーズ」だろう。さすがに書名は「卍館の殺人」ではないけれど。実は本書は「館シリーズ」よりも「館モノ」らしい作品だと思う。「館シリーズ」が館そのものよりもミステリのバリエーションに凝ったシリーズに対して、本書は「館そのもの」を扱っている作品である。この「館」に真っ向から勝負を挑んだ事が本書を端正にしている反面、ミステリ(トリック)を単純にしている。そこは一長一短だろう。
無駄な薀蓄や、「キャラ立ち」のためのシーンがないので止まることなくと読める。ただ、デビュー作で本格というジャンルに真摯であろうと力んだからか、伏線が伏線になり過ぎている。後々考えても伏線にならない伏線も問題だが、存在感があり過ぎる伏線は読者に手掛かりを与えすぎて、真相を早く露見させてしまう。トリックの単純さと相俟って、最後の真相は想定の範囲内だった。それにしても、真相を聞かされると、作品全体が演劇めいて見える。しかも屋敷が舞台での公演だから、演技が大げさ。 勝手にアドリブをかます役者までいて大変だ…(笑)
作者が女性だからか、女性らしい視点がいくつも見受けられた。服装や化粧の様子・変化から考察する人の心理の変化などは男性作家では見られない女性特有の描写だろう。しかし、一方でミステリ作品としてはキャラクタに頼り切ってはいない。トリックで魅せようとする真っ向勝負がここでも垣間見られる。

卍の殺人まんじのさつじん   読了日:2006年10月18日