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絶叫城殺人事件 (新潮文庫)

絶叫城殺人事件 (新潮文庫)

黒鳥亭、それがすべての始まりだった。壷中庵、月宮殿、雪華楼、紅雨荘…。殺人事件の現場はそれぞれ、独特のアウラを放つ館であった。臨床犯罪学者・火村英生と作家・有栖川有栖のふたりが突きとめた、真相とは。そして、大都市を恐怖で覆い尽くした、猟奇的な連続殺人!影なき殺人鬼=ナイト・プローラーは、あの"絶叫城"の住人なのか!?本格推理小説の旗手が、存分に腕を振るった、傑作短編集。


国名シリーズではない火村探偵の短編集。短篇集の縛りは「館」と「殺人事件」と「夜」らしい。「館」は事件現場から架空のモノまで多用な使われ方をしています。そして意外にもタイトルに「殺人事件」が付いた本は初めてらしい。「夜」は言われてみれば、という感じ。イメージしていた世界は暗かったですが、気づかなかった…。短編なのでアイデア先行の作品が多いですが、最後の2編が出色の出来ではないでしょうか。トリックの使われ方が凝っていて読み応えがありました。

  • 「黒鳥亭殺人事件」…妻を殺し自殺したはずの元・家主が裏庭の井戸の中で死んでいた。彼はなぜ戻り、なぜ死んだのか?論理は美しいけど何とも嫌な推理。結末はロマンチック。変に甘いぞ。それにしても本当に5歳か?この子。
  • 「壺中庵殺人事件」…地下室の中で壺をかぶって死んでいた男。撥ね上げ式の出入り口は閉められていて…ちょっと変わった密室モノ。滑稽とグロテスクの中間。こんな堂々とした犯人は推理ではなく、地道な捜査で分かったんじゃ…?
  • 「月宮殿殺人事件」…川原に建てられた奇妙な館、通称「月宮殿」。放火により燃えている館に、主はなぜ飛び込んだのか…?知らなきゃ分からない謎。いい名前があったものですね。知った時の有栖川さんの喜びはいかばかりか。
  • 「雪華楼殺人事件」…屋上から飛び降りたと思われる男性。しかし致命傷となったのは別の傷。だが屋上に彼以外の足跡は無く…これは、ある一つの可能性、として考えましょう。でも本音は「もやっと」である。スッキリしない〜!!
  • 「紅雨荘殺人事件」…映画のロケに使われた「紅雨荘」と同じ名前を持つもう一つの家で主が死んだ。自殺に偽装された事件を火村はどう解決するのか…?これはなかなか見事な作品。犯人や動機よりも事件の背景が面白かった。解決するまでの道順がスムーズで美しい。指紋のくだりなんて、いい伏線だと思う。
  • 「絶叫城殺人事件」…表題作の中編。「絶叫城」というゲームの内容に酷似した事件が連続して発生する。ナイト・プローラーと名乗る犯人を火村は追い詰めることが出来るのか…?これは面白かった。まさに逆転の発想。ゲームや漫画をモチーフとした事件という昨今、流行り(流行っちゃいけませんが…)の社会問題を内包した作品でもある。これで犯罪者の思考が分かるわけではありませんが、事実も遠くないのだろうとも思う。あまり関係ないけれど、アリスの皮肉って好きじゃない。

絶叫城殺人事件ぜっきょうじょうさつじんじけん   読了日:2003年12月10日