- 作者: 我孫子武丸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/06
- メディア: 文庫
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京都で探偵事務所を開設したばかりの私に依頼人が2名。「失踪した父を探してほしい」という大学教授の娘と、「カンガルーのマチルダさんを見つけて!」とわけのわからないことを叫ぶ美少女だった。捜査を始めた途端、私は暴漢に襲われる。すでに巨大な陰謀の渦中にいたのだ。先の読めない我孫子流ハードボイルド。
看板に偽りなし。あらすじの通り、『先の読めない我孫子流ハードボイルド』であった事は確かだ。それは前半と中盤以降では全く別の本を読んでいるのではないかと思うぐらいに…。ねえ、誰がこんな展開を望んだというの。
本書最大の売りは『先が読めない』事に間違いない。なので物語が急展開を見せる中盤以降の内容は歯痒いけれどここでは全く触れられません。だから、本書に少しでも興味のある方への助言としてはただ一言、『読め。いいから読め』です。それぐらいしか言えません。もしくは未読の方へ先輩から助言するならば『読書中は心を大らかに保ちましょう』でしょうか。色々とトンデモナイ本です。
作者のあとがきによると作者が学生時代の頃から、その原型はあったらしい。なるほど、これで得心が行った。本書はとっても若さ溢れる作品だからだ(特にハチャメチャな展開が)。映画で言えばB級映画。まぁしかし作者はこの作品がエンターテインメントに寄った作品だと自覚的であったはず。けれど困るのは、そんな作者の心の内など知らない読者だろう。あの『殺戮にいたる病』の作者の作品が、非ミステリなだけではなくこんな展開を見せるなんて誰も予想出来ない。そして勝手にではあるが裏切られたと思う。本書は作者の心の内と、読者の心の内の悲しき擦れ違いが運命付けれられた作品かもしれない。
本書は確かにハードボイルド小説だろう。その定義は私の見た辞書には『行動的な私立探偵を主人公に、謎解きよりも登場人物の人間的側面を描く』とある。本書はどれも当てはまる。和製ハードボイルド小説に散見されるハードボイルドになりきれない人情型探偵を主人公に据え、彼の清貧な生活・空回り気味の性格を中心に描き、事件の幕切れや謎解きは全速力の駆け足で語られるのみである。事件の内容の着眼点は先進的で面白いのが、専門家から誤解の上に成り立っていると指摘されるような点も多いそう。やはり本書最大売りは『先が見えない』事に尽きる。私も主人公の行く末には息を呑みました。
ネタバレになるかもしれないですが、ホンの少しだけ『(類似作品名→)アルジャーノンに花束を(←)』っぽいんですよね。主人公たちの境遇、奇妙な意思疎通がそれに近い。ホンの少しだけですし、本書にはそこまでの深い感銘もないのですが。我孫子さんはオマージュとして意図していたのだろうか。気になります。