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人形は遠足で推理する (講談社文庫)

人形は遠足で推理する (講談社文庫)

「スピードをもってあげろ!ぶっ飛ばせ」私、めぐみ幼稚園の妹尾睦月です。今朝、園児たちと乗り込んだ遠足バスが警察が追っている殺人犯(しかも拳銃所持!)に乗っ取られるという事件に巻き込まれて、もう大変。同行の腹話術師・朝永さんと、彼が操る人形の鞠夫も大ピンチ!好評の人形探偵シリーズ第2弾。


『前巻』の感想で短編向きの探偵像だと書いた鞠夫だったけれど、シリーズ第2弾は長編作品。事件の状況把握、即、解決といった安楽椅子型の探偵・鞠夫を、どうやって長編に組み込むのかと思っていたら、なるほどこういう手段か。遠足とバスジャックと私、この奇妙なコントラストが緊張と緩和の波を生み小説世界に読者を没入させる。ただ、おむつや鞠夫といった好きな登場人物たちがいなければかなり凡庸な物語になっていただろうと思える内容でした…。
ミステリとしての評価は厳しい。取り上げられる事件そのものは単純で、謎としては長編に仕立て上げるのには小さい。鞠夫のピンチや犯人の短絡的な行動によって物語という布地を伸ばしているが、それでも結構キツい。体の大きさに服が合っていないのだ。最後のサプライズもちょっと疑り深い読者ならば登場から目を付けていただろうし、偶然にも程がある…。今回ばかりは鞠夫がいなくても事件は時間の経過、現場の検証、事態の判明とともに解決しただろうし、何より事件の終結の仕方がアレでは本当に鞠夫の存在意義は少ない。むしろ黙って全てを警察に任せてた方が解決は早かったのでは!?、と思ってしまった。
話としては2作目でお馴染みになったキャラクタと、バスジャックというリアルタイムの緊迫感でグイグイ引き込まれた。バスジャック犯のコロコロ変わる性格はちょっと考えの足りない直情型の表れなのだろうけど、バスジャックや拳銃というシリーズにそぐわない異物をどうやって物語に織り込むのか、という作者の苦悩の結果に読めなくもなかった。しかし、犯人の愚行を読むにつけ短気は損気、「浅慮」の千失という気がしてならない。よく考えてから行動しましょう…。事件後の犯人の処罰も意図的に割愛されているが、きっとこの小説の雰囲気とは違う厳しい現実が待っているのだろう。今回はとにかく我孫子さんらしい、ユーモラスかつ知的なトリックや犯行の意外な展開がなかったのが残念。せめてバスジャックの決着ぐらい鞠夫たちの機転で迎えて欲しかった…。

人形は遠足で推理するにんぎょうはえんそくですいりする   読了日:2007年07月04日