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人形はこたつで推理する (講談社文庫)

人形はこたつで推理する (講談社文庫)

鞠小路鞠夫―私が密かに思いを寄せる内気な腹話術師・朝永嘉夫が操る人形の名前です。出会ったのは幼稚園のクリスマス会。園で飼っている兎が死んだ事件を見事な推理で解決してくれました。そう、「彼」は実は頭脳明晰な名探偵だったのです。異色の人形探偵コンビが大活躍する青春ユーモア・ミステリー。


本シリーズ最大の特徴といえばやはり探偵像、そして探偵の存在場所だろう。古今東西でトリックのバリエーションとともに考えられてきた探偵のキャラクタ。しかし本書の探偵役は人であって人でない、人の形をした人在らざる物だった。
この探偵役・鞠夫の存在は睦月以外には秘密なので事件が起きてからは登場しない(事件前には登場する)。そして事件の概要を把握した後に二人っきり(三人っきり?)になってから登場する。こうして「探偵は遅れて登場する」という本格ミステリの鉄則は守られ、しかもその存在場所によって事件の観察者と同一の視点を持つため状況説明などの重複する描写が少なくなりテンポよく読める。鞠夫は短編向きの探偵であろう。そういえば鞠夫の由来ってマリオネットのマリオ?
「おむつ」という呼称、鞠夫との不思議な関係がとても好ましかった。所謂「新本格」の作家さんの中でも我孫子さんの作品はミステリとユーモアの混じった作風が多い。アイデア重視の力技だけに走らなくて、それでいて盲点を突く真相を用意してくれる。この柔軟な作風のお蔭で何年経っても面白く読める。
余談:1990年の時点で深津絵里さんに注目する我孫子さんの先見の明は凄い。

  • 「人形はこたつで推理する」…妹尾睦月が保母(現在なら保育士)をしている幼稚園のうさぎ小屋で次々と異変が起きる。そして遂にうさぎが…。腹話術や幼稚園という温かいイメージが一転する真相は心が冷える。ラストを丸く収めているが、エゴイストな人間だ。全体の8割のほのぼのと2割の鋭さがこのシリーズのひねくれた面白さ。それは睦月にとっての朝永さん&鞠夫の関係と似ているのかも。
  • 「人形はテントで推理する」…朝永さんが出演するカーニバルの会場テント内で死体が発見される。しかし現場のテント内の楽屋は視線による密室になっており…。これは設定が利いている。謎の不可解さ、そして聞けば納得する簡潔な推理・真相。これぞ本格推理小説と唸らせてくれた。この回から警察内部の協力者、そして恋の好敵手が登場。次回以降の波乱を期待(?)させてくれる。
  • 「人形は劇場で推理する」…ゴミ捨て場で発見された会社社長の刺殺体。故人の日記には自分がオペラの「ジークフリート」に刺殺される夢を見たと27回にも亘り書かれており…。この短編は被害者の心の中を調べる心理ミステリなので牽強付会に感じるといえば全ての箇所がそうなんだけど、この真相だと前提から覆してしまっているような…。長々、講釈を聞かされたという不満が残った。
  • 「人形をなくした腹話術師」…テレビ番組の収録中、出演者の楽屋から鞠夫が誘拐された。やがて地下駐車場から発見されたのは変わり果てた鞠夫の姿だった…。早くも最終回のような展開。事件・推理部分よりも朝永さんと鞠夫の関係を心配してしまう。このシリーズの結末を作者はこの関係をどうするのか今から気になる。鞠夫とおむつの関係が好きな私としては現状維持も良いのだが…。

人形はこたつで推理するにんぎょうはこたつですいりする   読了日:2007年05月16日