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七度狐 (創元推理文庫)

七度狐 (創元推理文庫)

静岡に行ってくれないかな―北海道出張中の牧編集長から電話を受け、緑は単身杵槌村へ取材に赴く。ここで名跡の後継者を決める口演会が開かれるのである。ところが到着早々村は豪雨で孤立無援になり、関係者一同の緊張はいやが上にも高まる。やがて後継者候補が一人ずつ見立て殺人の犠牲に…。あらゆる事象が真相に奉仕する全き本格のテイスト、著者初長編の傑作ミステリ。


またまたシリーズ名を勝手に命名。このシリーズは落語&日常ミステリだと思ってたのですが、今回はこれでもかという程のド本格殺人事件。横溝正史かこれは!と思うほどの事件と雰囲気(読んだ事ないので飽くまでイメージ)。豪雨によって閉ざされた村での落語「七度狐」に見立てた連続殺人(和歌付き)と、どこか狂気を孕んだ人々、そして「名探偵は事件が込み入るまで登場しない。作者はあれやこれやの理由をつけて、探偵を現場に登場させない」の原則(これは喜国雅彦さんの「本棚探偵の回想」で読んで納得したお言葉)まで入っていて本格テイストはバッチリ。…なんですが、話の展開はどうも好きではありませんでした。
というのも、題名にも見立ての元になっている落語「七度狐」は7回狐に騙される人間を笑うという噺。落語では7回も騙される話を聞かされては噺も冗長になり客も退屈するだろうという事で今では2回騙される話に短縮された、という経緯がある。しかしそれを、この作品では7回騙される噺に作り変えて、更にそれに見立てた殺人が起こるミステリを作ろう、というのが壮大なテーマ(と解説に書いてあった)。けれども冗長になるから短縮された話を元に戻し、更に見立てとして事件が起こるという設定が冗長にならない訳がないではないか(少なくとも飽きる展開にはなる)。解決の糸口も犯人に対する手立ても(緑には)ないまま事件が続くので人が死ぬのが当たり前になってくる。それに十数人の登場人物が次々と殺されたら犯人の目星も付いてしまう。「ハウダニット(どうやって)」よりも「フーダニット(誰が)」に焦点が当てられているため、本当に犯人が犯行を行えたのかが疑問に残る。終盤のどんでん返しも事件そのものよりも事件の背景や動機に在るのだ。確かにどんでん返しには驚くのだが、私の望む方向と違った…。最後の見立てとラストも怖いけれど、やり過ぎかな?とも思った。
「シリーズ前作」の感想でも書いたが、やっぱり緑の感情の推移が分かりづらい。唐突に怒ったり、人物評が急に変わってたりで、どうも掴めない。何かに腹を立ててて、いつもプリプリ怒ってるだけの印象だ。

七度狐しちどぎつね   読了日:2005年04月23日