パズル崩壊 WHODUNIT SURVIVAL 1992-95 (集英社文庫)
- 作者: 法月綸太郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1999/09/25
- メディア: 文庫
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ホテルの客室で発見された、女の上半身と男の下半身がつながれた惨殺死体。それぞれの半身をめぐる密室殺人の謎(「重ねて二つ」)。誘拐犯からの間違い電話のせいで事件の片棒を担ぐ羽目になった推理作家の不思議な経験(「トランスミッション」)。気鋭の前衛画家はなぜ妻の遺体に絵を描いたのか?会心の中編「カット・アウト」など、著者の新境地を切り拓いた傑作短編集。
法月作品で初めての法月綸太郎シリーズ以外体験。短篇でも長編でもいつも探偵役は法月綸太郎だったから、つい、いつ法月綸太郎が出てくるのかと思ってしまいます。その代わりといってはなんですが、法月綸太郎シリーズに登場する警視庁捜査一課の葛城警部が最初から3作目まで登場します。それ以外は純粋な短篇です。短篇だけあって、トリックや物語重視の作品が多い。その反面、トリックに頼りすぎてたり、上手くまとまっていなかったりもします。パロディ物は原作を知らなかったりと楽しめるべく箇所で楽しめなかった原因は、私なのか作品なのか。全体に力技ですね。読者がどんな反応をするのか過剰に意識してるような、無視しているような。最後の作品なんて書く予定だった長編小説の冒頭ですからね。どうも消化不良の多い、胃もたれ気味の作品群でした。
- 「重ねて二つ」…ホテルの一室で上半身は女性、下半身は男性の死体が見つかる。通報したのは発見された女性の年上の夫・車椅子の映画監督。これは好き。短篇ミステリとしてパーフェクト。濃い情報に驚愕の真相、のりりんスゴイ。
- 「懐中電灯」…一蓮托生で銀行強盗をした即興の相棒を殺した男。1年間は警察から逃れていた男が簡単に逮捕される。倒叙ミステリ。あとがきの通り「古畑任三郎」の形式。直接逮捕の証拠が見所。思っていた物とは違ってビックリ。
- 「黒のマリア」…美術品売買のオフィスの一室で一夜にして2人が命を落とした。関係者の姉が警察を訪れて事件のあらましを聞く…ラストの章はいらない。読んだ分が徒労に変わってしまった。呪われた絵は雰囲気作りにぴったし。
- 「トランスミッション」…作家のもとにかかってきた間違い電話。しかし内容は本来の電話先の息子を誘拐した、という内容だった。オチがねぇ。これがまとまったら天才だと思ったのに。作家は読者の気持ちがホント分かっていない…
- 「シャドウ・プレイ」…殺したいほど憎んでいた相手が死んだ時に、遠く離れた場所で自分は事故で死んだ!?劇中劇。中〜長篇を短く簡潔にまとめられた作品。主題はドッペルゲンガー。長編にしたら面白いかと言えば、微妙ですけど。
- 「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」…薬物中毒のSF作家が拳銃で死んだ。自殺かそれとも他殺が可能か?長いタイトル。パロディ物って苦手。今回は元を知らないし、この結末はちょっと…アメリカン・ジョーク?
- 「カット・アウト」…共にアドレッセンス(作中引用)を過ごした男女3人。美術界に身を置く3人だったが、1人の女性死によって別離する。夫であった男が妻の遺体に絵を描いたからである…イメージとして村上春樹っぽいかな?ペダンチックの最高峰とも思った。読みにくい。ミステリよりも小説として上質な作品だと思う。
- 「……GALLONS OF RUBBING ALCOHOL FLOW THROUGH THE STRIP」…法月綸太郎はある夜バーで不思議な男に出会う…未完の小説の冒頭。内容はこれだけ。のりりんのノイローゼっぷりが分かるという点においてファンには面白いのでは?短編集に載せるかお蔵入りかしか活用法がない作品。