《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

腹話術師・朝永(ともなが)の前に強力な恋敵が出現!? そして、ついに明かされる人形探偵・鞠夫(まりお)の誕生秘話。お久しぶりです!妹尾睦月です。今回は、私の住む街で起きた連続放火事件に腹話術師の朝永さんと人形の鞠夫が果敢に挑戦します。その最中、なんと私に言い寄ってくる好青年が現れて、もう大変。と、とにかくときめいて、そしてちょっぴり切ないひと夏の出来事の御報告です。<人形探偵シリーズ>好評第3弾。


あとがきによると本書は「短編の面白さを兼ね備えた長編」を目指した作品らしい。なるほど、そう言われれば確かにそうだ。「おむつ」と「おむつ」の前に現れた好青年(しかも「おむつ」に好意的)、そして一応の交際相手である朝永さんの三角関係を縦軸に、横軸に複数の謎とトリックを配置している。この2つの軸の存在で、短編でも長編でもない「短編 in 長編」という変わった形態のミステリが誕生した。
…のだが、先に「短編の面白さを兼ね備えた長編」と言ってくれないと、その構成の面白さが分からないのも事実。読み手側としては長編ミステリとして読んでしまい、今までのエピソードが一つに収斂するような結末を勝手に期待してしまった。正直、ラストの放火魔の正体には落胆してしまった。伏線らしい伏線も、アチラの容疑者の方がよっぽど用意されていたじゃないか、と思ったほど。
そして更に一方的な思い込みによって生じた落胆も。ミステリのシリーズ作品には3部作が多いので、3作目となる本書では鞠夫の誕生の謎や朝永さんと鞠夫の関係性の決着が語られるかと意気込んでいた。しかし結局は前者しか明かされず…。今回は朝永さんの精神世界の奥の奥まで入り込むような事件になると思っていたが割と軽い事件で終わった。「おむつ」の恋の行方=結論なのかな?
そう、朝永さんと「おむつ」の関係性には決着が付いた。あの一行空いた一文には気恥ずかしさと、我孫子さんの容貌が同時に浮かんじゃって私の頭脳では処理不可能となりました…。好きですけど、こういう甘〜い文章。これで鞠夫は名実ともにおむつと朝永さんの子供、というスタンスになったのか。
作中で起こる主だった事件は5つ。1つ目は数年前に朝永さんの学生時代の同級生が遭遇した同棲女性の死。2つ目は現在、近隣の地域で多発する放火。3つ目は連続放火犯とは犯行の手口が違う密室状況での発火の謎。そして4つ目が「おむつ」の電話に掛かってくる嫌がらせの電話、そして「おむつ」を巡る恋の行方。どの事件も派手さは無い。しかし小さな謎・トリックを強引に引き延ばして長編に仕立てるのではなく、小さなトリックを組み合わせて長編に仕上げる手法はなかなか面白く、前述の通り「短編 in 長編」の完成である。ただ、その制作意図はやっぱり先に言って欲しかったけど…。小説としては「おむつ」のひと夏の経験が核になるが、ミステリとしては構造を支える一本太い大黒柱の欠如が弱点か。

人形は眠れないにんぎょうはねむれない   読了日:2007年10月29日