葉鳥 ビスコ（はとり びすこ）
桜蘭高校ホスト部（おうらんこうこうほすとくらぶ）
第14巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★☆（7点）
スキー旅行中、ハルヒに告白をした光。その宣戦布告を受けた環、そしてハルヒの返答は? 更に皆で向かった初詣でハルヒ誘拐事件が発生!? 一方、部活動中の事故で環が助けた転入生・鹿谷愛は環の脳内ハルヒにそっくりな女の子で!? 環の心が大きく動き出す！
簡潔完結感想文
閉塞、失速、蛇足、そんなネガティブな感触を残す 14巻。
多分、作者の予定する結末は主人公・ハルヒが恋をし始めた相手、
環（たまき）の身辺が整理された後の、恋愛成就なのだろう。
私が提唱する「少女漫画４分類」で言えば「Ⅳ類 恋愛成就型」だろう。
物語としてはそれが美しい結末なのは分かる。
全ての障害が取り払われて正々堂々と交際を開始する環境が整われる。
悪いことじゃない。
だけど問題は その障害の創出の仕方だ。
これが『ホスト部』の作風と合わな過ぎる。
巻数が2桁を超えたあたりからだろうか、
白泉社的な、あまりにも白泉社的な文法が展開している。
『1巻』で教えがあった「乙女は美男の『トラウマ』に弱いもの!!」
という少女漫画の鉄則に『ホスト部』も呑み込まれてしまいました。
これが非常に残念。
ずっとハチャメチャだった『ホスト部』に
手癖がついた白泉社的展開を持ち込まなくても、と残念に思った読者も多いだろう。
トラウマを持ち出す前から爆売れしていた本書ぐらい
それを回避した結末に持って行って欲しかった。
じゃないと大ヒット作『ホスト部』も使った設定として、
白泉社が再度トラウマを重宝する理由になってしまう。
白泉社にはトラウマのノルマでもあるのだろうか。
乙女はトラウマが出てくる少女漫画が嫌い、ぐらいの常識が生まれることを祈る。
思うに環に何もかも背負い込ませすぎている気がする。
恋愛問題、トラウマ、環の実家・須王（すおう）への出入り、祖母との対立、将来の進路、
これらが絡まり合って大きな障壁になりすぎていることが、
読者に閉塞感と、これからの先の長さを感じさせ、楽しさを減じさせているのではないか。
須王家の出入りの前から、環が須王グループの中で自分の進みたい将来像を描くことは
真っ当な志だとは思うだが、順序が逆のような気がする。
現時点では環のサービス分野への興味を伏線として、動く必要はなかったのではないか。
環が真面目過ぎることが作品の雰囲気を大いに変えてしまっている。
そして せめて恋愛と環のトラウマは分離させて欲しかった。
ようやく お互い恋心を自覚し始めたハルヒと環が近づくかと思ったが、
それが環側のトラウマによって恋愛のブレーキとなる理論は残念でならない。
ここは最終回付近での恋愛成就ではなくて、交際を通して成長する形態でも良かったのではないか。
2人で手に手を取って問題解決に臨むという展開も見てみたかった。
トラウマ理論や『14巻』後半の鹿谷（かのや）嬢の存在など、
作風を変えてまで採り入れなければならない要素なのか甚だ疑問である。
鹿谷嬢など最終盤での転校生でいかにも後付けの設定である。
もはや恋愛においてハルヒたちに障害がないのに、あるように描くことがもどかし過ぎる。
謎の環の「家族設定」以外で2人の恋の障害となっていたのが、
同じくホスト部員の光（ひかる）がハルヒを好きだと告白した問題。
光はハルヒの性格を熟知しているため、何度も念押しをされたことで、
生まれて初めて異性から好きだと言われたことを悟ったハルヒ。
ハルヒなりに悩み、出した結論は、即刻のお断り。
それでも光は まだまだ食らいつくことを宣言し、
環にも叱咤激励を込めてハルヒに玉砕したことを伝える。
この場面、今更だけど光は少し自分勝手すぎないか？
スキー旅行の際など環を牽制してまで告白したのに現状維持を望み、諦めない。
「部の雰囲気を壊して環を不安にさせ」たのに、
「でも僕らはそんな事で壊れる仲じゃないだろう？」と反論を封じる。
これもまた環に意識の変革を促す言葉なんだけど、表面上の言葉は少し勝手が過ぎるなぁ…。
まぁ、ショックを受けてホスト部内がギクシャクするよりも、
諦めないと一方的に宣言することで雰囲気は保たれるんだろうけど。
環のトラウマ設定の中で起こるのは、ハルヒの誘拐騒動。
この話の序盤で環が宝石ではなく「大トロ」ではあるものの、
ハルヒと お揃いの指輪を買ったのは、無意識か それとも特別な意味があるのか。
そして少女漫画においては貰ったアクセサリは失くすためにあるようなものなのです。
アクセサリは2人の愛の象徴。
それを落とすということは2人の間に事件が起こることを意味する。
…のだが、交際前の二人なので誘拐の証拠として現場に指輪が残される。
しつこいようだが、この一大事件で環がハルヒへの気持ちに気づいて告白 → 両想いでも良かったなぁ。
今更、桜蘭学院のお金持ちの子息たちは誘拐などの犯罪に巻き込まれやすいという設定を持ち出して、
大きな事件を演出したんだから、あたかも最終回のように抱擁後の告白で良かったのに。
私には2人の間に何の障害があるのか全く分かりません
ちなみにハルヒは初めてもらった指輪を後日、大事にしている場面がある。
暗躍する「大人」たちもまた『ホスト部』の従来の雰囲気とは相いれない。
環の祖母はいつかは対峙しなければならないのは分かるが、
高坂（こうさか）弁護士など登場させる必要があったのか疑問である。
お金持ちの坊っちゃんたちが、私立の高校の中で治外法権的な享楽に耽っているのが楽しかったのに、
家柄や権力などを持ち出されると、一気に夢が覚める。
現実から乖離した少女漫画の世界が多くの読者に受け入れられていたのに、
現実の、大人の理論を振りかざし始めるのは一種の裏切りのようにも感じられる。
こちらはトラウマのない世界を望んでいたというのに。
そしてホスト部の活動がもはや前座でしかない。
扉を開けても、ワクワク感がない。
それは他のホスト部員たちも同じ。
最初にテンプレみたいな役割を果たしたら そこで出番終了。
ホスト部全員が協力するような大型企画は次巻、見られるのか…⁉
- 作者:葉鳥 ビスコ
- 発売日: 2009/05/01
- メディア: コミック
