
酒井 まゆ(さかい まゆ)
MOMO(モモ)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
代表者の交代をめぐる騒動も解決し、つかの間の平和を楽しむ夢たち。しかし、またもやピコが現れて、今度はナナギに接近し……!? 混乱する状況の中、ついにナナギの秘められた過去が明かされる――!
簡潔完結感想文
- 大魔王 はじめてのおつかい。大切な人は何をすれば喜んでもらえるのか、立場逆転。
- 少女漫画において同居は恋愛フラグ。そして男性の過去のトラウマの発表もフラグ。
- ナナギに続いて叶歌も夢への好意を示し始め 三角関係の準備は やはり『3巻』で整う。
破壊神・モモは、夢たちにとっての救世主でもある、の 3巻。
『3巻』もまたイレギュラーな内容を用意して読者を楽しませる工夫に満ちていた。特にモモと心を通わせた者はモモから(間接的に)祝福を受けるという構造が面白かった。
この『3巻』では主に2つのエピソードが描かれている。1つは大家の廃業によってアパートを退去を余儀なくされる赤貧ヒロイン・夢(ゆめ)の話。そして もう一つは大魔王・モモに対して含むところのあったナナギの過去編。
全く違う2つのエピソードだが、実は どちらもモモが彼らの「居場所」を守ったという共通点があるように思えた。
1つ目の夢の家の話は、彼女にとって家は、母親の蒸発後に父親に請われて一緒に助け合って暮らしてきた大切な場所。そして今は家を出ている父親が帰って来る場所で、ここを失うことは夢にとって父親との関係の断絶、すなわち本当の天涯孤独を意味していたように思う。
今回、モモは無自覚とはいえ夢の居場所を守ったという構成が面白かった。モモがした行動は間接的に夢を守っていて、夢はモモの功績を知らないし、モモ自身も自分の行動は自分の望まない結末を招いたと思っている。だが読者にはモモは夢の人生を助けた救世主になっていることが分かる。これまで星の破壊者だったモモだが、心を通わせた夢には自分の「願い」のために行動をしている。自分の使命のために無感情で星を破壊するのではなく、誰かのために動くモモは人間的な感情を学んでいるのではないか。
ここがモモにとって一つのターニングポイントのように思えた。


2つ目のナナギの話も同じ。一見するとモモの存在がナナギの居場所を奪っている。彼を失意のどん底に陥れたのはモモという破壊神が目の前に現れたからで、モモと行動を共にした後もナナギが彼女を恨むのは当然のように思う。
けれどナナギの人生は遅かれ早かれ狂い出す運命だったことが、一連の騒動の後でナナギ本人の口から語られる。ナナギの居場所を奪ったのは、周囲の思惑や欲望だけでなく、ナナギ自身の中途半端な行動にも理由があった。
モモと共に行動することを選択しなければ、ナナギは本当に絶望の中、誰かを恨んで死んだかもしれない。しかし その彼に もう一つの選択肢をモモが与えることで、彼は新しい人生を歩み始めた。そして億年単位の長い年月は かかったが、彼は自分の不幸の原因がモモにないことを認める。それは彼が守った親族たちの誰よりも成熟した考えである。
モモが守ったのはナナギの尊厳と居場所だったのではないか。そしてモモは自分が出会った者の中で気に入った人の人生に介入している。
また少女漫画的にはナナギの過去編は彼のトラウマの発表と克服と捉えることが出来るだろう。これによりナナギは夢との恋愛ルートが開通したといえ、実際にラストでは いい感じになっている。
※ここから特にネタバレ感想
ただし少女漫画的には、男性側のトラウマの発表と克服が早すぎる。これは通常なら最終盤のクライマックスに用意されているものである。この構成から考えると、ナナギは本書におけるヒーローではないということが。ここで判明する。
そして一種のナナギの脱落を前にして頭角を現すのが叶歌(かなか)である。1話から登場しているにもかかわらず、登場がランダムで準レギュラー扱いになっている彼だが、ナナギの次は叶歌も腹に一物 抱えていることが匂わされていく。
ナナギの願いが明かされた今、残された個人の願いは夢・叶歌・沙成(さなり)だろうか。ここから彼らの個人的な願いが明かされて、物語に一層 厚みが出てくるのだろう。
美結と一緒初詣に向かう夢。前回、悪役令嬢になった美結(みゆう)だから てっきり作品から追放されるとばかり思っていたが健在。これは、美結は窃盗したし暴言も吐いたけど、夢の恋愛面で害を加えたり、ライバルになった訳ではないから追放を免れたのかな。
その帰り道、夢は自宅前に このアパートの大家の息子を発見する。ここで母が高齢のためアパート経営を止めると告げられる。引き払いは1か月後。夢は新年早々の爆弾発言に途方に暮れるが、モモは夢と一緒に暮らせると思い、3ポイント目を加算する。
この回ではモモが夢と暮らせる喜びを伝えるために、モモがプレゼント=喜ばせる物を用意することになる。
プレゼントを探す道中で出会ったのが大家本人。この高齢女性は まだ現役で働き、この町に住みたいと思っているが、一方で70年間 好きに生きてきたから これからは息子家族が望む形で自分の生活や人生を変えるべきだと思っている。それに対しモモは「たかだか80年の人生なのだから、好きなように生きればいい」と98億歳の年長者としての意見を述べる。そしてモモは大家の余命を1年9か月だと予見する。大家自身は あと10年の人生があると思っているだろうから、シビアな数字だ。


そして この大家との会話でモモは夢にとって実家が無くなることの意味も考える。
その通りで夢は父親の帰宅の可能性を信じているからこそ、あの家を離れたくない。だが てっきり夢の転居を快く思わないだろうと推測していたナナギが、それを勧める。彼は他者に対して冷淡で、今回は夢を放置した父親に情をかける必要はない。他者は裏切るものだと言う。
モモとの会話で大家が自分の意見を通したようで、アパートの取り壊しは中止になった。モモは自分の名言が自分の首を絞めたことを知り、ポイントの返還を求める。モモが人生で初めて空回りした話、なのかもしれない。
ただし、モモは自分では気がついていないが、自分の行動がモモから「家」を奪うという不幸を除去している。これまで破壊ばかりだったモモが珍しく何かを守った事例になるだろう。そして家を守ることは夢と父親の再会を守るということ。ここでモモがしたことの意味は小さくない。代表者と大魔王の立場が逆転しているのなら、モモにポイントが与えられるところだろう。
改修工事のため1週間は同居するらしいが、少女漫画的には男女が同じ屋根の下で暮らせば、それはハッピーエンドのフラグ。ここからモモが気づくぐらい、2人の仲は急接近する。
ナナギが夢に対して穏やかに笑うのを見たモモは、彼が自分に笑わないことに改めて気づく。確かに これまでの言動からナナギはモモを最重要視していないどころか、命を狙うような素振りさえ見える。ナナギの態度の違いに落ち込むモモに対して夢は、バレンタインのチョコを一緒に作ってナナギにあげようと提案する。
そのナナギはピコから、ナナギとモモの過去の因縁を持ち出され、モモを殺す剣を渡される。ピコに暗殺への協力の回答を少し待って欲しいと言った割に、即座に実行するナナギ。寝込みを襲うのだが、誤算はモモのベッドに夢が一緒に寝ていたこと。その夢に気づかれて暗殺は失敗。そしてナナギは自分が過去に ある星の代表者であったことを夢に伝える。
モモはナナギに殺されることを許容しているようで殺害を勧める。ナナギは その通りにしてモモの身体を剣で刺す。夢の妨害に遭い、暗殺は未遂に終わる。傷を負ったモモは沙成(さなり)によって治療された。沙成の到着が遅れたのはピコによるバリアの妨害工作があったから。
自分の大切な人同士の刃傷沙汰に夢は涙し、2人の過去を知るとする。
沙成の催眠によって夢が見るのは、ナナギのいた星の顛末。ナナギは この星の次期王位継承者。長髪で「ケモ耳」があるけれど外見的には今のナナギと大きく変わらない。身体も完全に人間を基本にしているし。これは作者の画力の限界との相談で こうなったのだろう。発表媒体が小説だったら もっと奇妙な外見になっていたことだろう。
モモと出会ったナナギは自ら立候補して代表者となる。モモの外見は この星の成人女性といった感じになっている。地球では幼女の姿をしているのも何か意味があると後々 説明されるのだろうか。ちなみに沙成は鳥型で喋らないという設定らしい。
この国の王子としてナナギは この星を守ろうとする。そしてモモにも畏怖ではなく親愛をもって接している。それは幼い頃に亡くなった自分の妹とモモを重ねているかららしい。モモは そこまで分かって、妹が成長した姿を模しているのかもしれない(そう設定したのは沙成のようだ)。
しかしモモが女性の姿をしていて、ナナギと いつも行動を共にし、この星の あらゆる場所に出向いたため、ナナギの婚約者は不安が募る。そしてナナギの獲得したポイントは6ポイントから一向に増えず機嫌が迫る。
そして この星ではモモの役割と機嫌が周知されているため、段々と民の混乱も大きくなる。それに加えて婚約者と弟の不義が発覚し、ナナギは追い詰められる。しかも父である国王も、絶望から この混乱の責任を全てナナギに押し付け、彼を王族から追放する。
この どん底の中でモモはナナギを星の破壊の随行者としてスカウトする。ナナギの同意で、モモは最後のポイントを加算するという。これはモモが情で動いている証拠でもあろう。しかし今のナナギには救いたい人がいない。寿命があるはずの自分が永遠の旅をすることが一種の罰にも感じられる。だが無垢な子供の優しさに触れ、ナナギは自分の運命と引き換えに この星を守る。
沙成の説明では、王位継承者を失った この種族の人心は離れ、何代もかけて滅亡したという。星自体は破壊されていないが、文明が壊れたということらしい。ナナギの中で何億年かぶりにモモへの復讐心が顔を出したのは、地球でのモモが夢に対して笑顔を見せることで、自分の代表者だった頃の感情を思い出したから、というのが沙成の分析である。
ナナギの事情を知った夢に、目を覚ましたモモがナナギが消滅しようとしている事実を伝える。彼は生きることに疲れ、ピコに存在を消してもらおうとした。だが それを夢は許さない。自分がモモに親愛の情を抱いたように、ナナギも代表者としてモモに接した時、幸福を覚えたのではないか、そう夢は訴える。
モモは必死の抵抗でピコの術は解けるが、モモが万全ではないと知ったピコはモモの抹殺を狙う。それを夢が庇い、その彼女をナナギが守ることで、彼はモモへの逆恨みを止める。自分の父親や種族の大半が、不幸を自分に押し付けたように、ナナギはモモを全ての元凶にして楽をしていたことに気づく。それが、あの星の住人とは違うナナギの成長だろう。
そして夢はピコとモモの和解も望むが、ピコは そうは出来ない事情を匂わせて撤退していく。
ナナギの事情を知った夢は、これまでの彼の苦労と優しさを涙ながらに感謝する。
ここでナナギが国王から追放されたのは、自分が国王の甥にあたる存在で、国王は自分の本当の子であるナナギの弟(血縁的にはイトコ)に王位を継がせたかった。婚約者の心変わりはモモの登場前から知っており、モモの登場が それを表に出しただけ。これはナナギのモモへの恨みの完全消去のためにも必要な要素なのだろう。ナナギ自身が何も失いたくなく、何も選べないから全員が傷ついてしまった、というのがナナギの見解。
大切な人に去られたのは、実母が家を出た夢にも経験があること。それでも父に請われて残された夢は父親と一緒にいることを選んだ。ただし その父親が自分の都合でいなくなったから夢の中に怒りと悲しみが蓄積しているのだけど。こうしてモモ一行の問題は解決する。
続いてはバレンタイン回。ナナギは女子生徒からチョコを たくさん貰う。そして しばらく登場が無かった叶歌も告白されたのだが、好きな人がいて一生好きだと思うといって お断りをする。名前を聞かれ叶歌は夢だと答える。登場が少ないから掴みどころのない叶歌だが、ちゃんと夢が好きらしい。
そしてケーキ屋の息子である叶歌の指導のもと、夢とモモはチョコ作りを開始。夢はナナギ、そしてピコにもチョコをあげようとするが、ピコは出現しない。そんな夢の様子を見たナナギは、その心こそモモの心を動かすのだと分析する。
そして いよいよ夢も、かつては王位継承者だったナナギへの恋心を自覚する。叶歌に好きと言われながら取り合わないで、人外のナナギを選ぶのか。しかも美結の気持ちも知っているのだから、夢はサークルクラッシャーの素養があるのかもしれない。
