《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

失敗すら楽しいと言う/自分を過剰に褒める その言葉は貴方の本心だから素直に届く

ふしぎの国の有栖川さん 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
オザキ アキラ
ふしぎの国の有栖川さん(ふしぎのくにのありすがわさん)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

女子高育ちのピュア女子×優しく紳士な完ペキ男子(でもちょっといじわる!) 文化祭で事件が起きる… 有栖川鈴、16才。趣味は落語で門限は6時。恋愛とは無縁の人生でしたが、ひょんなことからとなり町の男子校に通う野宮くんと、お近づきに! 鈴いわく、「どこかの物語に出てくる王子様」のような野宮くんですが、文化祭でのドキドキ行動に鈴はすっかりキャパオーバーしてしまい…!?

簡潔完結感想文

  • 予想された風邪回は野宮ではなく菅谷。ここも男性宅だと思うけど人数の問題なの?
  • 球技大会は男子生徒も無断で入れたのに、文化祭は招待制。会場の違いの問題なの?
  • 彼にされた「いたずら」を やり返してみて、その行動が多大な緊張を伴うことを知る。

うやくスタートラインに立った 3巻。

持論だけれど少女漫画の『3巻』は三角関係の始まりである。1巻で出会い、2巻で良い感じになった2人に3巻で第三者が介入して波乱が起こる。その時点で両想いか それとも片想いかは作品によるけれど、読者を飽きさせないためにも3巻は起承転結の転に利用される。

けれど本書における『3巻』は よくて承、もしかすると起かもしれない。この巻で ようやくヒーロー・野宮(のみや)が鈴(すず)への気持ちを明確にし始める。これまではナチュラルにイケメン台詞を吐いてきた野宮だけど、ここから ようやく鈴に自分を好きになってもらおうと、鈴にどれだけ自分が好きかを伝えようとする意志が見え隠れする。やっと野宮のターンが始まった。
しかし恋を自覚した野宮は動かない。彼は これまでの数か月の交流の中で鈴が恋愛に不慣れで不得手なことを熟知している。だから少しずつ粘り強く鈴の気持ちが変わっていくように言葉に少しだけ好意を忍ばせる。その奥ゆかしさが良い。

『3巻』で印象的だったのは、鈴が野宮を王子様と表現するシーン。おそらく その言葉は鈴以外の人から発せられたら野宮は空虚さを感じただろう。鈴は外見には言及しなかったけれど、外見も含めてスマートに生きているように見える野宮の表面上の評価のように思えたはずだ。けれど今の野宮は鈴に好感を持ち、そして鈴の言葉は嘘のないことを知っているから その言葉が素直に届く。鈴にとって自分が そう見えているのなら、そうなりたいとすら思うのだ。下手をすると落胆しかねない言葉なのに、野宮は その言葉を誉め言葉として受け取っているのが強く印象に残った。

鈴の言葉が自己評価とズレているのなら、その言葉に自分を合わせにいく野宮

また2人が交互に行う ある行為も忘れ難い。これは野宮の初めての鈴へのアプローチで、彼が一線を越えた瞬間である。鈴は それを自分を困らせるための いたずら だと受け取るけれど、野宮に隙が出来た時、自分で その行動をしてみて、それがいかに心臓を高鳴らせる行為なのかを思い知った。恋を知らない鈴が、自分の行動で恋を自覚する。いよいよ次は鈴のターンになるのだろうか。

恋心が動き続ける限り少女漫画は死なないから、まだまだ本書の鮮度は保たれている。『3巻』では三角関係どころか新キャラも出てこないのに ここまで面白いのは異常だ。そういえば新キャラで思い出したけれど、『2巻』で登場した律(りつ)は全く出てきていない。野宮たちの学校が舞台になることは少ないから仕方ないし、律がいると騒がしくなりすぎて2人の微妙な空気が壊れてしまうのだろうけれど、もう少しフォロー出来ないものか。どうにも律は いらない子状態で、彼の個性を引き出せてあげられてないように思えて不憫だ。


2学期が始まり、野宮と再び通学電車で会うようになった鈴。野宮の横にいつもいる菅谷(すがや)がいないことを尋ねると彼は野宮経由で風邪を引いたことが判明。そもそも野宮が風邪を引いたのは買い物デート回で彼が自分のケアを優先したからだと責任を感じた鈴は お見舞いに行くことを決意する。
『2巻』ラストで風邪回は予想されていたけれど、患者は菅谷でした。これは野宮が風邪を引くと気を遣って友人たちは同行しないし、単独で野宮の部屋に入る勇気や覚悟は鈴には まだないからだろう。菅谷だからグループで押しかけられる。

菅谷は案外 元気にしていたが、鈴は彼の健康回復を目的とした手料理を作る。鈴は運動並みに料理も下手。箱入り娘だけど家事手伝いを厳しく叩きこまれた訳ではないらしい。逆に野宮は料理も出来る。野宮には こういうセンスの良さがあるが、何でも出来る一方的なイメージは少し心外のようだ。


の後、菅谷が秘蔵していた中学1年生当時の野宮の姿が収められた映像を全員で鑑賞。野宮は中1で転校してきたが人見知りでクールキャラで友達がいなかったようだ。格好良くてモテるというより小学生の延長線上の可愛さである。作者は この年代の男子を描くのも上手い。年代別の男子が描けることが「弟ども」に繋がったのだろうか。

野宮は人に(主に鈴に)自分の過去を見られるのが嫌で中座する。野宮を追う鈴だったけれど、鈴は これまで見られなかった野宮の表情が嬉しいとズレたリアクションをしてしまう。しかし野宮は怒らず、料理が下手でも笑われても ありのままの鈴を肯定してくれる。そんな野宮の「とくべつなお友達」になりたいと鈴は願い、野宮に既になっていると言われる。この時点で野宮は鈴への気持ちが恋であることに気づいているようだけど、鈴と歩幅を合わせている。それが野宮の優しい愛情である。


2学期の一大イベントは文化祭。鈴たちのクラスはメイド喫茶を開店する。
結果的には当然のように女子校に野宮が来るのだけど、その前に鈴の葛藤がある。野宮ほどの人物を出会いに飢えた女子高生たちの前に置いては騒ぎが起き、彼を不快にさせると考えた。だから当初は招待チケットを野宮に渡さないと決めた。野宮は他の生徒からチケットを貰ってくれと頼まれていたが、知らない子から受け取ることはしない。欲しいのは鈴からのチケットである。しかし鈴の決意は固く、電車内で野宮たちに遭遇し文化祭のことを聞かれても、野宮から文化祭を訪問したいと言われても鈴はチケットを渡さなかった。

友人たちに野宮を誘っていないことを聞かれ、自分が過剰な心配を撤回し、1話分の遠回りをしてから野宮に会いに行く。そこで謝罪と自分の心配を伝え、野宮との間に生じた誤解を解く。そして今度は野宮が鈴にとっての自分の存在を問う。どう思っているのか、どう感じているのか、それを知りたい野宮に文化祭で答えると伝える。

好きになったから彼女が自分をどう思っているのか気になる。そういうターン

化祭当日、野宮たちの男子校生徒が大挙して押し寄せる。鈴のメイド服姿は男子生徒たちの評判になり、悪い虫が付きそうになる鈴に菅谷と野宮が援護に回る。菅谷はメイドのお笑い要員だけど、野宮はカフェ店員のような姿をしている。コスプレ写真館の衣装を借りてきた、という設定。それにしてはサイズがジャストすぎる。
そのルックスで女性客を狙えると野宮が見込まれ、まるで同じ学校の同じクラスにいるかのような文化祭になる。球技大会の時もそうだったけど学校側が甘すぎる。一番 異性に厳しいのは女子校ではなく鈴の実家なのだろう。

菅谷たちに気を遣われて、鈴は野宮と文化祭を周ることになる。『2巻』の お化け屋敷と同じように空回りながらも一緒の時間を楽しむ2人。そして鈴は宿題となっていた野宮への印象を答える。てっきり鈴は野宮の心根の優しさとか彼の孤独さえも救うのかと思っていたが、鈴にとって野宮は超人で聖人。そういう意味を込めて「王子」と表現するのは野宮には過剰な言葉に思えただろう。しかし野宮は鈴のためなら そうなれる自分が嫌ではないようだ。好きな人から言われる言葉は その他の人から同じことを言われるのと意味が違う。
野宮が鈴の王子になると言ったのは本気。しかし鈴が無邪気に笑って からかわないでと言うから野宮は思慕を込めて頬にキスをする。野宮が初めて恋心を込めた言動をし始めている。


スに驚き鈴は卒倒する。野宮も自分が一線を越えたことに葛藤している様子。2人の間に何かあったことは確かだけど、鈴は煩悩を抑えるために現実逃避に走り、野宮は秘密主義を徹底する。

電車内での野宮との再会に緊張する鈴だったけれど、野宮は いつも通り。行き過ぎた行動を謝罪するけれど、自分の行動が間違っているとは思っていない様子。鈴に二度と そういうことはしないよう たしなめられ、野宮は鈴に恋愛感情が生まれるまで待つことにする。

同じ事象に対する態度の違いに自分と野宮の精神年齢の差を感じる鈴だったけれど、野宮との交流は自然に続く。そして子供たちとバスケをしていた野宮が疲れて うたた寝しているのを見て、鈴は いたずら心で彼にキスのリベンジを考える。やられたから やり返しただけの いたずらだったけれど、その行為をしてみて鈴は自分を恥じる。きっと そこには いたずら心 以上の下心があることを自覚したのではないか。