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少女漫画と小説の感想ブログです

彼と一緒なら初めて行くゲーセンも行ったことのある水族館も全てがワンダーランド

ふしぎの国の有栖川さん 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
オザキ アキラ
ふしぎの国の有栖川さん(ふしぎのくにのありすがわさん)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

和風ピュア女子×完全男子のやんごとなき恋物語。 お祖父さんに大切に育てられた有栖川鈴は、趣味は落語で門限6時。恋愛には超鈍感という古風な女の子に。鈴は電車の中で男女問わず人気のある野宮くんと出会います。いつもやさしく接してくれる野宮くんに終始アタフタ気味の鈴。ずっと見ていたいふたりの物語をお楽しみあれ。

簡潔完結感想文

  • 18時の門限にかぼちゃの電車に乗れるよう尽力した彼こそ王子様。最大のピンチは門限。
  • 行動が浮き足立っている鈴に対して、野宮は歯の浮くようなイケメン台詞を連発している。
  • 間違いなく優しい物語だけど、鈴の一種のワガママが まかり通っているだけにも思える。

泉社ヒロインじゃないので鈍感ではなく敏感ヒロイン、の 1巻。

本書は純粋培養で育ったヒロイン・鈴(すず)のリアクションを楽しむ作品である。16歳の現在まで祖父によって異性との交流を一切 禁止されてきた鈴が、祖父の目の届かない通学電車で一人の男性・野宮(のみや)と出会う。箱入り娘の世間とズレた感性と発言に加え、男性への不慣れな対応で色々とテンパる鈴に対して、野宮は いつも温かい視線と言葉をくれる。世間一般とズレていても それを個性と認めてくれる野宮の器の大きさこそヒーローの証と言える。
そんな野宮と出会ってから鈴は自分が新たな扉を開き続けていくことを自覚する。その日々こそ「ふしぎの国」の入り口、全てがワンダーランドとなる、というお話。

この電車の この車両の この扉だけが異世界(ワンダーランド)に繋がる入り口

鈴は恋愛の知識と経験がないから自分の気持ちに名前が付けられない。それに名前を付けるまでが前半戦の見所。読者には完全に恋に落ちていることは分かっているけれど、気持ちを否定したり自分を戒めたりする鈴は必死。その飛び回る鈴の心を読者は優しく見守る役目となる。同じように恋を理解しないヒロインでも白泉社ヒロインは、ヒーローの好意を匂わせた言葉をスルーし続けるのが お約束。それはそれで様式美があるけれど、本書の場合、野宮の放つイケメン台詞に鈴の内心は とんでもない化学反応が起きている。ヒーローの言葉が ちゃんと刺さっていて、その言葉でキャパオーバーする鈴の様子が可愛い。

また私が思うに野宮がイケメン台詞を放つこと自体が彼にとって鈴との日々がワンダーランドであることを示しているのではないか。親友の菅谷(すがや)に対しても自分の思っていることをストレートに言っては彼をキュンとさせている野宮だけど、彼が誰にでも喜ばすような言葉を言わないのは花森(はなもり)で実証されている。つまり野宮にとって鈴への言葉は本心で、彼は既に鈴への想いが溢れているし、自分の言葉で鈴が いっぱいいっぱいになることを楽しんでいるように見える。完璧男子に見える野宮も自分では制御できない心の動きがあるところが良い。

そして もう一つ良いのは野宮もまた鈴への気持ちを はっきりと名付けられないところだろう。もし野宮が鈴への好意を確かに持っていると、イケメン台詞もただの殺し文句になってしまう。そうではなくて野宮は純粋に鈴のことを面白く感じ、好感を持っている。それが明確な好意ではないところが良い。だから2人は自然な交流をしている。野宮は自分が人を好きになったかは分からないと言っているけれど、その前に女性に対して らしくない行動をしていることで鈴への特別な対応が見て取れる。こういう部分が読者の承認欲求を満たしていく。


『1巻』は素敵な場面ばかりだけど、その中で気になるのが花森の撤退。彼氏が欲しい花森は野宮を狙いに行ったはずで、彼との交流の機会のためにグループデートのような お出掛けを提案した。
その割に花森は、鈴と野宮の2人の仲を察してサイレントに撤退する。花森が完全に仮想敵でしかなかったことで作中の雰囲気は保たれる。でも彼女の気持ちを知りながら嫉妬し、野宮と圧倒的に良い雰囲気を醸し出して花森に自主撤退を促している鈴が策士に見える。これなら正々堂々とライバル宣言してくれた方が気持ちが良いだろう。お嬢様を おもてなししている感じがして少し苦手な展開だ。作品全体が平和なのは良いことだけど、鈴のために作られたワンダーランドが用意されている印象も否めない。

平和な世界は仲間たちの物分かりの良さで成り立っている。誰かが我慢してない?

また平和を優先する余り作中で意外な展開が何も起きない。どちらも読む前から勝手に類似作品だと思っていた餡蜜さん『高嶺の蘭さん』が期待以上に全体の構成力が素晴らしかったのに比べると構成が弱い気がした。その人が当て馬になるの!?という読者の望まないサプライズや、最初のキャラ設定頼みで作品そのものに関心するわけではないところなどが前作『ハル×キヨ』と似ており、同じ印象を受けた。

また連載が場当たり的というか雑という整合性に欠けるところが見受けられた。鈴の性格は恋を自覚するまでの時間を延ばすための手段。箱入り娘や落語好きなどの設定は恋をしたら忘れ去られ、鈴は ただの一人の女子高生になる。鈴の真の親友役は連載後に決定し、親密度とか近所だとか設定が後から描き加えられている印象を受ける。キャラ作りが甘いところがあり、もう少し最初から しっかりとした世界観を脳内で構築しててほしい。自分にとって都合の良いキャラに様々な役割を担わせたり、描きやすそうなキャラを追加したりと作者が楽な方向に話が進んでいるように見えた。良くも悪くもライトな作品だ。


学から女子校に通っているだけでなく、これまでの人生で祖父に男性との関わりを一切 断たれてきた16歳の有栖川 鈴(ありすがわ すず)にとって恋愛は成人してからするもの。そんな鈴が18時の門限を守るために駆け込み乗車した際に助けてくれた男子高校生がいた(鉄道会社からは お止め下さいと言われる行動だろう)。車内で注目を集めるほど容姿の優れた男性だったけれど、鈴は その外見で惹かれたりせず「男子」というものを しげしげと眺めるばかり。それを不審がられて話し掛けられ、頓珍漢な問答をしてしまう。

再会は騙し討ちされた女子校と男子校の生徒たちが集う合コン。出会いを楽しもうと場を盛り上げようとする雰囲気にマッチしなかった鈴と男子生徒・野宮 宗介(のみや そうすけ)は合コン会場を抜け出す。野宮もまた騙されて連れてこられ、そして鈴と同じように日々 読書するなど隠居生活じみた俗世と隔離された生活を送っていた。

男性との会話に不慣れな鈴が落語を推すことで2人は本の貸し借りを約束。これが3回目のコンタクトとなる。鈴は野宮の言葉の選び方、雰囲気に惹かれ浮き足立つ自分を感じる。それでも2人は連絡先を交換しなかったので会えるのは通学の電車だけ。だから鈴が野宮の高校の最寄り駅のホームで彼を待つ。そこに合コンの他の参加者が登場し、野宮には恋人がいると偽情報を流して利を得ようとする。しかし その生徒は鈴の古風な価値観を笑い飛ばすような人で、モテないから女性へのガッツキ度が半端ない。分かりやすいピンチと悪人を用意して野宮が登場する。
無事に本を渡すが、連絡先の交換は拒否。それでも野宮に彼女はいなかったし、彼は鈴のどんな言動や生態にも笑わない。そういう野宮と会えることが鈴の毎日に彩りを加える。


こから鈴は男女の仲を学んでいく。ただ世間で流行っているような恋愛作品は不純に思える。
初回は鈴が野宮の学校周辺まで会いに来たが、今回は野宮が本の返却も兼ねて鈴の学校に来訪。その目的を果たして別れそうになる2人を それぞれの友人たちがアシストし、一同でゲームセンターに向かう。鈴が未体験の空間を野宮が優しくエスコート。鈴は これまで知らなかった世界に興奮気味。今回は合コンとは逆に気を利かせた友人たちがサイレントで退場する。

自分たちが男女なので これはデートだと不純な行動だと思っても楽しさから逃れられない。そんな自分の堕落を思い知り、鈴は逃亡する。鈴の置き忘れた通学鞄を野宮が届け、舞い上がった鈴の喜びようは悪いことではないと教えてくれる。電車が止まっており門限が守れないと焦る鈴のピンチに野宮は別の交通網を利用してピンチを回避する。はしゃぎすぎたことと野宮の隣にいる安心感で利用したバスで鈴は眠る。鈴にしてみれば恥の上塗りとなったが、野宮にとって悪い時間ではなかった。野宮が まるでモテ男のようなキザな台詞を吐くのは、彼は彼で自分の心が制御できないぐらい浮かれているからだろう。鈴の反応が見たくて ついつい からかってしまう。それは無自覚な好意でもあるだろう。

野宮との交流で恋愛作品は不純ではなく、その面白さを理解できるようになった鈴。祖父の支配を受けない自分だけの価値観を作り始めていると言えよう。それでも恋は自分と縁遠いと考えている鈴だけど、もう出会った男性はいるのかもしれない。

野宮のイケメン台詞は決め台詞ではない。だから日常の続きのような普通の声色

2人きりの関係は早い進展が許されないので第三者が投入される。それが女子校の王子様・花森 雅(はなもり みやび)。椿いづみ さん『月刊少女野崎くん』を既読の人は鹿島(かしま)くんを連想したに違いない(演劇部設定も同じだし)。
女子にモテる現状は本人が望むものではなく、花森は彼氏が欲しい。鈴は人見知りとか性格が暗いとかではないので、花森とすぐに仲良くなる。そして花森と一緒にいる時に野宮と遭遇する。

恋をしようと積極的な花森を見て鈴も自分の心の位置を再確認する。野宮が人として特別な位置にいると自覚した直後、花森に野宮へのアプローチの協力を要請される。こうして野宮が自分だけの特別じゃなくなることで一層 鈴は自分の心の位置を確かめることになる。


森の提案で6月に男2女3でお出掛けすることになる。しかし遊園地に行く予定は豪雨で変更になり、野宮の提案で水族館に行くことになる。水族館のアイデアは鈴も考えていたことで、野宮との考えの一致に鈴は嬉しくなる。この後で今回中止になった遊園地に2人で行って、定番の観覧車に乗るまで果たして欲しかったけど、作中では実現しなかったような(したっけ?)。

ゲームセンターの時と違い今回は他のメンバーが監視役に回って、その視線で鈴は落ち着かない。それでも野宮との時間が楽しく、2人は ここで初めて連絡先を交換する。ただし今回も鈴は自分の浮かれ具合に戸惑う。それは自分が野宮への気持ちが友達の範疇を超えて不純なところまで進みそうという意識があるから。鈴は鈍感ヒロインとは違う。ただ恋を知らなかっただけだ。
鈴が はしゃいで野宮の服を持って目的地に駆けたり、野宮が鈴と離れないように自分の服の裾を握らせたり、直接は触れないけれど離れない2人の様子が描かれる。