池山田剛(いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
4人は同じ中学に入学した新入生。自分のために一生懸命になってくれる輝。熱く夢を語ってくれる輝。そんな輝に「好き」の気持ちを持ち始めた爽歌。ちひろが主役を演じる創立祭の劇。当日、熱で倒れたちひろの代役で爽歌が主役に大抜擢!ムリだとしり込みするけど輝に勇気をもらった爽歌は!?いよいよ爽歌の天才女優としての才能が目覚め始める!
簡潔完結感想文
- 大切な輝の初恋を応援すると決めた ちひろ と それを理解する忍の関係がいい。
- 佐藤先輩、私を好きってバレてるよ!? プチ当て馬を用意することで恋が進展する。
- 早くも両想いで物語完結。輝の どんな爽歌も嫌いにならない宣言は将来の布石。
物語自体は ひどく単純、の 2巻。
全18巻の作品だが、主役4人の内、1つのカップルが早くも成立する。
ダブルヒロイン体勢を採って、物語が数年間に及ぶことを先に ほのめかしながら特にドラマもなく爽歌(さやか)と輝(ひかる)は両想いになってしまった。2巻10話での両想いは新人作家の初の短期連載のような期間で、内容も池山田作品にしては ひねりがないと思うようなストレートに中学生の恋模様を描いている。
だが、この2巻は物語のプロローグに過ぎない。作者が本書で描きたいのは両想いの その先のドラマである。最初から15歳で別れることが予告されており、こんなにも仲の良い2人が、どうして別れてしまうのかが読者の次の興味になる。悲恋が予定されているから その前にドラマチックな恋愛成就は いらないのである。これまでの池山田作品なら忍(しのぶ)がライバルになるところだが、爽歌との恋愛において彼は一切 手を出さない。そのぐらい忍は爽歌に興味がない。
だから一応、非常に小粒ながら即席で当て馬が用意され、彼の暗躍によって両想いまでの ちょっとした波乱が用意される。ただし本当に小粒な存在だから あっという間に撃退される。むしろ今回で覚えておかなくてはならないのが、両想いになる前後に輝が爽歌に言った、どんな爽歌も嫌いにならない、という言葉だろう。これが今後の展開において非常に大事な意味を持つし、輝が何年経っても変わらずに持ち続けた気持ちだということが分かる。
再読してみると最初は背も小さく、いかにも子供のような輝だが、その一方で最初から大きな心構えを持っている。もう1人のヒロイン・ちひろ に対してもそうだが、彼の大きな器を知った女性たち2人が、彼のことを好きになるのは自然なことに思えるぐらい輝は精神的に大人で格好いい。
そして爽歌と輝だけでは物語が単調で、これまでの池山田作品より劣ると早計に考えられないように ちひろ と忍の存在がある。やや甘めの物語に想いが届かない ちひろ と忍の存在が良い苦みとして利いている。自分の気持ちを素直に表せない2人の動向も気になるところである。
上述の通り、ここまではプロローグ。ここから2人、そして4人の関係がどう変わっていくのか。最初の通過点である15歳の別れを どう迎えるのか、ますます目が離せない。
ちひろ の代役という形で初めて人前で演技をする爽歌。その記憶力とセリフまわし、そして演技は周囲の者を感嘆させる。爽歌の演技に呑まれたクラスメイトがセリフを忘れてしまっても彼女はフォローに回れるほど堂々としていた。
しかし代役だったため靴が合わず、爽歌は舞台から転落してしまう。それを救うのは当然 輝。まるでトラブルを予感していたのかのように衣装に着替えてスタンバイ済み。作者としては劇の流れを途切れさせたくなかったのだろが、少女漫画特有の瞬間移動に見える。
その創立祭以後、お互いを意識し過ぎている輝と爽歌の様子を見た ちひろ は忍も含めて4人でカラオケに向かう。忍が優待券をくれて、ちひろ と一緒に行きたいから この4人グループが成立した。
ある程度4人で過ごしてから ちひろ は気を利かせて忍と連れ立ってカラオケルームを出る。残された2人は久々に会話を交わし、そこで爽歌は演劇部への入部の意向を輝に伝える。爽歌が好きな輝はファン1号でもあり、彼女が臆病を克服して舞台に立ち続けることを選んだことが嬉しい。
忍は気を利かせた ちひろ の心情を理解できるから、これで良かったのかと彼女を問い質す。でも ちひろ は輝に自分の気持ちを絶対に言わない、忍ぶ恋をすることを選んでいた。輝は、小学校の頃、大ケガをしてバスケを断念した ちひろ に代わって、自分がバスケの道を選んだ。そんな一生懸命な輝が好きだから、ちひろ は彼の幸せを願う。
それは忍も同じ。ちひろ の夢を輝が担うのではなく、自分が担うと彼女にプロバスケ選手を目標とする。でも だからといって本書には輝も忍もバスケを一生懸命している描写がない。メインが4人もいると物語が窮屈になってしまう。
ただ、この13歳の夏に それぞれが夢に向かう躍動の一体感は良かった。出来れば さやか も次の目標を持って動き出す気配を見せて欲しかったが。
爽歌の演劇部の活動で登場するのが佐藤(さとう)先輩。イケメンでナンパな人で、初心な爽歌を からかって楽しんでいる。その佐藤の本性を輝は知り警戒するが、爽歌の方は無警戒に佐藤を信用して、輝は嫉妬から爽歌に苛立ちを ぶつけてしまう。
そんな中、爽歌は佐藤先輩に演劇の練習と称して呼び出される。佐藤は爽歌の演技に圧倒され、邪心を持てなくなるが、爽歌は演技をしながら、頭の中で輝への恋心でいっぱいになり、佐藤の役を輝に見立ててキスをしてしまう。その暴走を輝が目撃してしまって、さあ大変。本書は少女漫画らしく見られたくない/聞かれたくない ことに相手が立ち会うことが多い。
動揺する2人より、佐藤が まず正気に戻り、輝をからかうために、このキスが爽歌からの愛情表現だと嘘をつく。しかし その佐藤も爽歌の演技に間近で接してみて、本当に心を奪われた。そして演技に没入する爽歌と一般人の輝とは交際は上手くいかないと予言することで、彼女を自分の方に引き寄せようとする。同じ演技に関わる者として自分なら爽歌のことを理解できる、と自分を売り込む。
輝との恋を失った気持ちの爽歌は元来の内気さが顔を出し、輝に弁明すら出来ない。その状況も佐藤は利用し、事態は悪化する一方。ちひろ は再び彼らの距離を戻そうとするが、輝は聞き入れない。
そんな時、演劇部の舞台オーディションが体育館で行われ、バスケ部員たちも その様子を見守る。爽歌は舞台上から輝がオーディションを見ずに立ち去りそうになるのを見て、劇中の告白の台詞を「鈴木くん」と加えて声に出す。まさに劇的な告白になっているが、どうも佐藤が言うように演技に生きる余りプライベートが破綻するタイプというより、プライベートが演技に出てしまい役者として大成しないタイプに見える。作者のことだから そういう爽歌の限界や壁も用意しそうな気がするが。
自分の失言に気づいた爽歌は逃亡。輝が それを追い、彼女の真意を確かめる。それでも逃げる彼女に輝は実質2回目の告白をする。その言葉が友達としてではないことを爽歌は確かめ、観念して輝への好意を口にする。
そこからは これまで抱えていた不安が滝のように溢れ出し、抱いていた交際への不安を口にする。だけど心の広い輝は爽歌の特性全部を受け止めると言ってくれた。こうして2人は両想いになりキスを交わす。
この時、2人の両想いを予感した忍は、ちひろ を体育館から連れ出している。ちひろ に自分の辛い気持ちを分かってくれる人がいることが どれだけ救いになるか。忍は素直じゃないけど ちゃんと間接的にはヒーローしている。
爽歌は抜け出したオーディションのやり直しを懇願し、認められる。
今回は観客の中に輝がいるのを分かっていながら、彼女は演技の上で他の男に惹かれる自分を表現する。佐藤からのリードで再度 舞台上でのキスがあったが それに動揺することなく、演じ通す。一方で観客席の輝も自分が爽歌に放った言葉に嘘がないよう、ちゃんと目を逸らさず そのシーンを見つめ続ける。そして爽歌の言う通り、演技の中の彼女の恋心が いつも自分に向けられているものだと実感する。
こうして いつかは2人が越えなくてはいけない壁を、交際直後に越えさせるのが池山田流のスピーディーな展開だと思った。後々の不安の種は最初から除去して、それが大きく育たないようにしている。こうして爽歌と輝の2人の交際を盤石にして、これから爽歌が どんなイケメン相手に演技をすることになっても輝は不安にならないのだろう。それに爽歌に自分以外の男性とのキスシーンがあるならば輝は その10倍 爽歌にキスすることで彼女への愛を表現すると宣言する。これが2人の交際の最初の約束になる。
この日の舞台上と翌日の教室で輝は爽歌との交際を発表して2人の仲は学校公認となる。それを知った ちひろ の心情はまだ描かれない。
そして読み返してみると、交際直後、交際中に爽歌が演技の中で他の男性と恋に落ちることを輝が我慢したり、許容することは今後の展開の伏線になっていることが分かる。こういう布石をしっかりと含ませるのが作者の手腕の鋭さである。