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少女漫画と小説の感想ブログです

男装ヒロインが芸能人と男女3人で秘密の同居。設定 全部乗せしたら 体重超過で空を飛べず。

ペンギン革命 1 (花とゆめコミックス)
筑波さくら(つくば さくら)
ペンギン革命(ペンギンかくめい)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

スターの証(オーラ)が鳥の羽の形でみえる女子高生・藤丸ゆかり。副生徒会長・葛城涼子の背中にペンギンの羽をみたゆかりは、彼女が本当は男で芸能事務所『ピーコック』のタレント・葛城涼だという秘密を知り…!?

簡潔完結感想文

  • 女装に男装に芸能人、その3人の同居。読者に受けたい一心で媚びた設定に見える。
  • 描きたいのが俳優なのかアイドルなのか、設定から読者に伝わり辛いのが難点。
  • 『1巻』は事務所の内輪揉めばかり。最初からナンバーズの価値が だだ下がり。

高い革命の心だって読者に支持されなければ意味がない、の 1巻。

作者の初長編の『目隠しの国』が独特の感性で描かれていて非常に好感を持ったので楽しみにしていた作品。しかし その期待とは裏腹に、本書は作者の意気込みが空回りしているような気がしてならなかった。感想文を書いてみると残念な要素ばかり浮かんでしまう。
非常に失礼な言い方になるが、作者の画風は少し垢抜けない(2004年、20年も前の作品だからでもあるが)。けれど絵に温かみがあるから『目隠しの国』は非常にハートフルな作品になった。でも芸能界モノを描くには華やかさや洗練さが足りない。描き分けも難があって出てくる芸能人も似たり寄ったりの顔をしていて個性が見えない。またテーマとしても身近な日常を描く方が合っていているだろうから、色々とミスマッチを起こしている。

まず非常に過保護な作品だと思った。特に『1巻』を読み返して気になったのが主人公の ゆかり と涼(りょう)のコンビを正しく描こうとするあまり、どうも描き方が一方的になっている点だ。『目隠しの国』は互いの価値観の違いを擦り合わせている感覚があったが、本書には それを感じられない。最初から涼だけはフェアであることに重点が置かれていて、反対の位置に分かりやすい悪が用意されている。しかも身内に悪者を配置するから内輪揉めの印象ばかりが強くなる。これで主人公たちは確かに健気に映るが、そういう偏った描き方を私は作者に望んでいないので残念だった。大事な子供たちを愛する余り、愛情が歪んでしまったのだろうか。

涼には目標があるのは分かるが、事務所という鳥籠の中に住むペンギンに見える。

本書では持ち味である伸びやかな感性が感じ取れなかった。その力みが影響したのか おそらく本書は作者の構想より早く終わったと思われる。この無念が その後の仕事量の激減に影響しているのだろうか。

そして たいへん勿体ぶった作品だと思った。最初は地味な仕事ばかりの俳優が、やがて大きな舞台に立つ工程を丁寧に描きたかったのだろう。しかし その仕事が余りにも地味で、そして世俗的であり過ぎて読者を演劇という舞台に導いてくれない。
まず最初に、ヒロイン・ゆかり がマネージャーとなって支える涼の才能を読者に大々的に知らしめる場面を作るのがベターだっただのではないか。そうであれば読者は作中のファンと同じように青田買いした彼の活躍を我がことのように喜べただろう。でも本書は涼の才能を羽根で具現化して終わりで、彼に眠る才能を読者を提示してくれない。羽根があるから作者は才能の表現を放棄しているようにすら見える。

出来るなら最初からフルスロットルで涼の才能の片鱗を見せる舞台が欲しかった。おそらく真面目な作者は涼の成長を段階を踏んで描きたかったのだろう。けれど涼に与えられる小さな仕事で事務所内の足の引っ張り合いというマイナス要素を投入してしまう。結果、読者は涼の才能を少しも感じられないまま『1巻』が終わる。嫉妬や悪意を芸能界の一つの要素として入れるのはいいが、それを序盤で連続して描いたことは首を傾げざるを得ない。これでは涼が応援するに値する人物であるか、を読者は判断がつかない。初手は性格の良さや羽根以外で彼の才能を見せるべきだっただろう。


の段階的な成長を描くために必要な長い連載期間の確保を目的としたのか、1話を読者好みの設定を全部乗せるために消費してしまったのは本当に残念な構成だった。

男装ヒロインと、女装する若手俳優、そして私生活に無頓着なNo.1俳優による3人の同居。確かに白泉社の少女漫画読者の好きそうな設定だが、ちょっと欲張り過ぎた。やはり1話は設定の華美さよりも、読者に涼を応援したいと思わせることに注力した方が良かったのではないか。言い方は厳しいが読者好みの設定で応援してもらおうという媚びが見える。そうではなくて読者は作者の才能を感じられる内容が読みたいのに。『目隠しの国』が読者によって長く支えられてきたのは、作者の才能を読者が信じたからだ。それなのに最初から長編化を狙うために白泉社読者の好きなものを詰め込んでいる。男装ヒロインなどは二匹目のどじょうを狙う編集者の注文なのかもしれないが。

1話はヒロイン・ゆかり の特殊能力の説得力を持った説明になっているが、彼女の能力は成長するものではない。ゆかり ではなく涼を成長する側に持っていくという構造的な不利を克服するためにも最初から涼を一段飛ばしで成長させるぐらいのスピード感が欲しかった。

一緒に行動することで涼の戦闘力が分かるのだろうが、ヒロインが単なるスカウター扱い。

もそも涼(と ゆかり)が所属する芸能事務所「ピーコック(孔雀)」が どんなタレントを育成しているのかが分かりにくい。

作品の内容としては俳優事務所であるのが適当だと思うが、仕事内容はタレント、そして欄外で作者が彼らを「アイドル」と呼称するのが気になる。作者の言うアイドルは圧倒的な偶像という存在であって、歌って踊るアイドルとは意味が違うのかもしれない。けれど作中で涼が受けるレッスンが やたらダンスが多かったり、若手イケメンの養成に力を入れていたり、ファンクラブがあったり、どうも作品内の描写だと旧ジャニーズ事務所のようなアイドル育成を目的にしたような印象を受けてしまう。そう思わせてしまうことは作品としてマイナスなのに、作者自身が「アイドル」という用語を使う。これで どこに軸足を置きたいのかが分からなくなってしまった。最初の仕事がタレント仕事というのも良くない。

上述の通り『1巻』は ずっと事務所内で内輪揉めしているのも印象が悪い。涼や真(まこと)、そして選ばれしナンバーズ(例外あり)は人格的にも優れているが、それ以外は性悪という描き方に首を傾げざるを得ない。そもそも あの曲者社長が こういう人たちを選ばないと思う。事務所は少数先鋭と言いながらも無駄が多すぎる。

そして物語が最初から事務所が主体になったことで、涼が目指すのが自分なりの演技、ではなく事務所のトップという地位であるように見えてしまう。先輩たちは下の者を潰そうとするが、涼もまた成り上がるための野心を燃やしているに過ぎないように見える。俳優という仕事、演技という無限の可能性に魅了されているのではなく、事務所のトップが彼の目標に見えるのが本書の世界観を狭くしている。ある世界における下克上の達成は内容的に絶対に面白いが、最初から人間の醜悪な部分ばかりが目立ってはダメだろう。本来は恐怖を覚えるほどの演技の仕事なのに、その魅力を少しも引き出せていない。


の人の才能が鳥類の羽根の形で具現化して見える主人公・藤丸(ふじまる)ゆかり。これは彼女の特殊能力で、一般的にはオーラが見える人、のようなものだろうか。

そんな ゆかり が ある日、学校で見たのは光り輝く金の羽根だった。掃除中、その持ち主と思われる女子生徒が男子生徒に強引に迫られている場面を目撃した ゆかり は救出に向かう。ゆかり の妨害に逆上した男子生徒が問答無用に ゆかり に殴りにかかった時、その女子生徒が庇ってくれて、彼女が顔面を殴打される。男子生徒は好きな女性を殴ったことに動転して逃亡。残された2人は会話を交わすのだが、ゆかり は女子生徒の羽根が金色ではないことに気づく。

その女子生徒の名は葛城 涼子(かつらぎ りょうこ)。ゆかり の1つ上の2年生で生徒会の副会長でもある。顔の手当てのために使った水道の故障という神の いたずらで涼子が着替えることになり、体育の授業があった ゆかり は涼子にジャージを貸す。だが身長差を考えると涼子にはサイズが小さいと思い当たった ゆかり が更衣室に入ると、そこにはパンツ一枚の「男性」が立っていた。

涼子の正体は芸能事務所・ピーコック所属のタレント・葛城 涼。事務所の方針でタレントのデータを秘密にするために、「街に出てバレないように私生活は変装が義務付けられている」。「バレたら解雇」だという。
そしてピーコックは、タレントのランク付けが しっかりされていて、スター性と実績が最もある人がNo.1となり、そこからNo.10までがナンバリングされた「ナンバーズ」。その下に「カラス」がいて、最下層が「ペンギン」と呼ばれる3層のヒエラルキーが厳然と存在する。現在の涼は そのペンギンに位置する。

ゆかり の能力は写真でも発揮するらしく、彼女が目を付けたのは涼と同じくピーコック所属でNo.1の綾織 真(あやおり まこと)だった。ゆかり の眼力とタレントのランクが連動していることから、ゆかり の能力が かなり正確であることが分かる。


かり は学年で成績No.1である。それは学力が堅実な人生を開拓するために必要な力だと考えているから。
彼女の悩みは博打のような仕事ばかりしたがる父親。そのせいで成功と失敗を繰り返し、母親は家を出て行ってしまった。名門進学校に入学した現在は成功期だったのだが、突如 父は会社を倒産させ夜逃げ。ゆかり は住まいを失う。

この事情を知った涼は心配をしてくれ、学校に内緒でバイトをしようとする ゆかり に自分のマネージャーにならないかと提案。涼は ゆかり を事務所の社長室に連れて行き、女装がバレたこと、そして秘密の共有を利用してマネージャーにしたいと申し出る。
ゆかり の事情を知っても社長は安易に同情しない。まず彼女が使えるかどうかテストをする。まず ゆかり は筆記試験と実技を突破する。ちなみに実技はSP能力(度胸試し)を見るものだったのだが、合気道経験者の ゆかり は成人男性を倒す。涼(涼子)との出会いとなった男子生徒に果敢に立ち向かったのも自分の強さを冷静に分析してのことだろう。

最終試験は事務所のオーディションの最終選考の中から、社長が誰を選ぶのか当てるというもの。その答えは ゆかり の「目」が教えてくれた。そして この正解設定の中に社長が一筋縄では いかない性格であることも読み取れる。

正式に新人マネージャーになったことで ゆかり に男装が義務付けられる。これは男性タレントしか扱わない事務所なのでスキャンダル防止のためにマネージャー業にあたっている時は男として行動してもらうという方針から。こうしてマネージャー「藤丸ゆたか」が誕生する。
しかも社長は家を失った ゆかり に涼との共同生活を命令する。これこそスキャンダルの火種だと思うのだが、少女漫画だから仕方がない。1話は色々と詰め込み過ぎていて胃もたれしそうだ。

しかも この同居、涼だけでなく 家には綾織 真も同居していた。ゆかり は真には女性だとバレないようにする秘密の男女3人の同居生活が始まる。この真との初対面の際、ゆかり は彼の背中にある羽根に既視感を覚えて、真が本名・真柴 綾織(ましば )という2年生の生徒会長であることを見抜いてしまう。


くもまあ 1話にこれだけの情報を盛り込んだと思える内容で、ちゃんと話が交通整理されているから大きな混乱なく設定が呑み込める。

ただ疑問も多い。最初から ゆかり を男装させる つもりなら どうして背を小さくした(147.5cm)のだろうか。そこが疑問でならない。これでは女性としても小さい。小柄な男性と受け止められる160cmぐらいに上げても不都合はないように思うが。

そして涼に女装させるような会社の方針に精通している真が、ゆかり の男装の可能性に思い当たる可能性は低くないだろう。ここを秘密にする理由が いまいち分からない。しかも生徒会長の真からすれば、最初から学校に女子生徒の藤丸ゆかり が存在していることは不自然に映るだろう。やっぱり この設定はいらなかったような気がする。スリル満点の同居生活は読者の好みだろうけれど。

あとは名前。これは読者を混乱させないためだろうが、本名と学校内での仮名が似すぎている。これでは この学校で怪しむ人が続出するだろう。しかも生徒会の主要メンバーという学校で目立つ役職に立っているのも不自然だ。生徒会に入っている意味も特にないような気がする。これも組織のトップが好きな白泉社読者に合わせたのだろうか。枝葉末節は刈り込んで、もうちょっと芸の道一本で勝負してもらいたかった。

イケメン俳優(しかも2人)との同居生活。やりすぎなので、せめて寮生活ぐらいで良かった。

んな同居生活 初日から いきなり真と風呂での遭遇というベタなアクシデントが起きるが、彼が近視のためセーフというベタな結末になる。むしろ ゆかり を心配した涼への過剰な反応でバレそうである。
この同居生活で誰かと食卓を囲む安心感を覚える一方、この2人の男性芸能人の間にある圧倒的な格差も ゆかり は察知する。翌朝から ゆかり は男所帯の食卓に並べる食事を作ることになる。

放課後はマネージャー業に従事する。2人での最初の仕事はバラエティー番組の生放送。涼は、「ナンバーズ」の下の「カラス」に位置するタレントの欠員による穴埋め。そしてバラエティー番組での仕事は真の主演作品の宣伝。そのバーターで事務所のタレントが駆り出されている。ここも涼と真の現在の地位の比較になっているのだろう。

涼はペンギンの身分でありながらNo.1である真と同居している特異な人。そのために同じ事務所のタレントからも疎まれている。だが累は そのマネージャーである ゆかり にも及んだ。水着での熱湯チャレンジが意地悪タレントたちによって強制される。


初のお仕事から困難に直面する ゆかり。そこで彼女はYシャツを着用して上半身を守ることにする。
だが この番組の「熱湯」は本当に熱く、ゆかり は音を上げそうになる。そこで涼はアドリブで自分も熱湯に入り、バトンタッチを試みる。だが負けず嫌いで仕事熱心な ゆかり は浴槽から出ようとせず、結果的に2人で我慢比べをすることになる。この2人の奮闘はテレビ画面には ほとんど映らない。しかし身体を張った涼の心意気は司会者の目に留まり、それが意地悪タレントとの格の違いを表す。

そして上限の1分を迎えたところで涼は ゆかり を抱えてシャワー室に駆け込み、彼女の身体を冷やす。こうして2人での初仕事を2人で乗り越えたことで彼らの間に絆が生まれる。観覧者の中には涼の奮闘を感じ取った人もいて、彼はファンを獲得する。


いてはトップ10であるナンバーズから深津 章悟(ふかつ しょうご)が登場する。しかし ゆかり には深津に見える羽根に禍々しいものを感じる。ゆかり は善悪まで分かるのか。そして それは彼女の判断基準だ。この辺の描き方が私は あまり好きではない。しかも なんで2話続けて同じ事務所のタレントが意地悪という話にするのだろうか。

でも物語は その見立て通りに進む。深津は共演者、事務所のライバルタレントを潰すことで有名な人だった。今回は ゆかり が社長直々に見所があると評価されたことで恨みを買ったらしい。そして同居する真は気付かないのに、深津は ゆかり の秘密に すぐに気づく。

深津が次に主演する舞台のオーディションに涼が挑戦する。深津の後押しもあって、台詞のない役ながら涼は合格する。どうやら深津の狙いや彼の悪行に社長は気付いているようだが泳がせているようだ。男女のスキャンダルは警戒するのに、この手の教育はしないのだろうか。

深津の狙いは ゆかり の着替えを狙って それを映像に収めること。マネージャーが女性だというネタで涼を潰そうという考えらしい。えーっと、それが涼の弱点になるの?? 若手タレントのスキャンダルに社会的価値はないだろう。深津はペンギン程度の、知名度の低い涼を潰すために労力を払い過ぎている。まず涼が、ナンバーズである深津ほどの男が潰す価値のある男だと描かなければならないのに、物語が涼を中心に進んでいるから戸惑う。もうちょっと深津と涼の因縁が欲しいところ。

そんな深津の狙いを物陰で聞いてしまった2人。彼のことを尊敬していた涼はショックを受けるが…。