《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

同じ女性に惹かれてしまう嗜好が同じ最大のライバルは、思考も同じ最大の理解者

天は赤い河のほとり(21) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第21巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

ラムセスがラムセスと対立する王太后に捕らえられてしまった。ユーリはラムセスを救い出すため、エジプトに残り、エジプトの内乱を扇動する。

簡潔完結感想文

  • 『6巻』から名前だけ先行して登場していたネフェルティティが15巻分のロングパスを受けて登場。
  • 両国家の膿を出すためにカイルとラムセスが間接的に共闘。その両者の右腕になって動くのがユーリ。
  • ルサファに続いてラムセスが四肢の自由を奪われる。イケメンキャラの磔(はりつけ)ブーム到来!?

の器を持つのは2人、王妃の器を持つのは1人、の 21巻。

引き続きエジプト編。少女漫画的に見ればカイルとの性行為を完遂しているユーリが今更ラムセスに揺るぐ訳はなく、当て馬の悪あがきに見えるところ。しかし それでも作品的には十分 面白いのが本書の凄いところ。

中でも今回は部分的とはいえヒーロー・カイルと当て馬・ラムセスの共闘が成立しているのが胸アツな展開といえる。こういうタッグを嬉しく感じられるのはヒーローと当て馬の魅力が同じレベルにある時だけ。最初から登場してユーリを助け続けてきたカイルだけでなく、遅れて登場したラムセスの魅力も描けているから最強のタッグに見える。いよいよ終盤戦に入ったというのに この面白さは どういうことなのだろうか。

敵対するばかりではなく時には共闘する2人の男性の関係性に読者はドキドキする

2人の高いレベルの男性が奪い合うのが彼らと同じレベルで物を考えられるユーリ、という構図が素晴らしい。ユーリは ただの少女漫画ヒロインではなく、王の側に立つ王妃の器であることが ちゃんと描かれている。最初は日本の普通の中学生だったことも描きながら、そこから教養と鍛錬によって一人の人間として自立した。なぜ愛されるのか分からない おバカヒロインではなく読者が憧れる存在としてユーリは描かれており、そこが作品に一層の品格を与えている。

また今回は三角関係の3人に相互理解が確かにあることが描かれていた。カイルがラムセスに手を組むことを提案するのも、カイルは似たところのあるラムセスの考えが読めるから拒否されないと分かっていた。またラムセスは自分の救出のためにユーリが動いていると予感する。彼の中で それが可能な人物はユーリしかいないという認識があった。そしてユーリはカイルのために動く という信念を軸にしながらも、カイルなら分かってくれるとラムセスの救出のために無茶をする。ここでユーリがラムセスを一直線に助けるのではなくカイルのためになるという思考を経ているのが良い。魅力的な三角関係を描きながらも、決してユーリが優柔不断なヒロインになっていないことが彼女を嫌う読者がいない、澄んだ作品を生む要因になっている。こんなに等しく主要登場人物が好きな作品も珍しい。


のエジプト編は作者の連載当初からの構想にあるはずで、今回の話題の中心にいるネフェルティティ王太后の名前は『6巻』で早くも登場している。そこから15巻が経過して ようやく初登場になって、作者は無事に伏線が回収されたことに安堵しただろう。こんな長期のロングパスも珍しい。

そしてエジプトにおけるネフェルティティの立ち位置をユーリが理解することで、読者はヒッタイト帝国とエジプトが鏡写しの構図になっていることを ようやく理解する。両国とも いつまでも居座る太后の存在に悩まされており、似た者同士の太后は密かに繋がっていた。それを2人のイケメンが共闘することで排除に動き、その2人のイケメンが心から求めるのがユーリであった。今回 ユーリが物語の ど真ん中にいると再提示しており、私は ここにきて こんなダイナミックな構造を見せつけられたことに感動した。

ユーリがカイルを苦しめ続けるナキア皇太后、そして そこに繋がるネフェルティティの排除に動くが、この行動が限定的なのも良い。例えばラムセスの理想に共鳴してエジプトの体制を変えたりしたら それは やり過ぎだ。そうではなくて飽くまでラムセスの救助とアシストのためにエジプトを刺激する。ユーリが対峙する対象は女性に限定されているのが両国のエピソードの共通点と言える。


キア皇太后がエジプトのネフェルティティ王太后に通じていたことが発覚。自国を脅かす国への情報流出をカイルは一線を越えた行為だと判断しナキアのタワナアンナから引きずり降ろすことを決意する。しかしタワナアンナの追放が皇帝の権力欲や乱心と見られない細心の注意が必要で、そのためにはナキアとエジプトの確かな繋がりを証明する物証が欲しい。

一方、ユーリはネフェルティティ王太后と対面をするためラムセスとの形式上の結婚を許容する。ユーリは自分がエジプトにいる状況をカイルに還元できることを望む。ユーリはカイルの時と同じようにイケメン有力者を落とした女性として品定めされ、見た目で落胆されるものの覚悟を纏ったオーラで見物人たちを圧倒する。

結婚式の前の王家への挨拶で現王(ファラオ)とは『8巻』でエジプト軍とヒッタイト軍の一触即発の状況の際にユーリの顔を見ていたことを思い出す。ユーリがカイルの側室だと露見する危機になるがラムセスが機転の利いた会話で切り抜ける。ちょっとしたヒーロー行動と言える。

作者の人気と実力が伴わないと不可能な15巻分の超ロングパス。伏線回収完了

対面のネフェルティティはミタンニ王国のマッティワザの姉。ネフェルティティはラムセスが王の座を狙っていると疑っている。だからこそ自分の娘と結婚させ彼を鎖で繋ぎ、王になっても自分の権力が衰えないように準備を整えようとしていた。だが現体制を嫌うラムセスは謹んで辞退していた。そのラムセスが妻を連れて来たことにネフェルティティは現王家とは切り離された王位を狙っているとラムセスに問う。その問いも笑って やり過ごして謁見は終わる。

謁見後にラムセスからネフェルティティが不必要に長く王太后として君臨していることを教えられ、エジプトとヒッタイトの共通点を知る。カイルがナキアを反面教師として結婚相手を選んだように、ラムセスもまたユーリを最適な結婚相手として見込む。カイルとラムセスは同じ思考を持ってユーリに辿り着いたと言える。

ラムセスの本気をユーリは彼の人の良さを悪用して すり抜ける。敵地では助けてくれる男性はいないから自分で切り抜けるしかない。ユーリはラムセスに演技をして騙すことが多い。


婚式までの儀式の中でユーリは荒れ始めているエジプトの現状を実際に見聞きする。そこで国民を厳しく罰する布令(ふれ)があり、その処罰はネフェルティティの息のかかった神殿が実行していることを知る。しかしユーリは自分の行動がラムセスを政治的に追い込むことを知っても、市井の人々が困窮の余り行った罪に対して厳しい断罪をする権力に逆らおうと身体が勝手に動く。

捕縛されそうになるユーリに一本の短刀が渡され形勢が逆転。ユーリはエジプトでも民衆の人気を得る。こういう資質もカイルとラムセスがユーリを心から欲する部分だろう。

その短刀を届けたのは侍女の3姉妹とイル・バーニだった。彼らの役どころはユーリの架空の実家に出入りしていた旅芸人。ユーリがカイルの側室とバレては全員の安全が危うい。


ル・バーニたちは面識があって素性が割れているラムセスの邸宅に滞在すると言う。当然ラムセスは投獄しようとするが その彼にイル・バーニが取引を持ち掛ける。それがナキアとネフェルティティの繋がりと国家への背信。両国は それぞれ太后の排除を狙う。カイルは現体制を嫌い、自分と同じ思考をするラムセスなら この話に乗ると踏んでいた。その取引を立案し、成立させるために文官イル・バーニが派遣されたのだろう。狙い通り両国間のスパイ問題に関してだけ手を組むことをラムセスは同意する。

ユーリは具体的にカイルのためにエジプトで出来ることをがあると喜びを覚える。そしてナキアの廃位はカイルの夢の実現、真の皇帝の誕生となる。しかしイル・バーニたちはユーリの結婚話に驚かないのか。これもカイルのラムセスとの同調で読んでいたことなのか…。


ムセスは王(ファラオ)にとっても目の上のたんこぶ であるネフェルティティの排除の協力を願うが、その前にネフェルティティが動き、神殿側に暴力を振るったという罪を偽造しユーリの引き渡しを命じる。それにラムセスが抵抗することで彼も同罪になってしまう。ラムセスは どうしても勝機がないと判断し、ユーリの安全と引き換えに自分の身柄を差し出すことに同意する。

これがユーリがラムセスを救出する動機になる。それをイル・バーニが制止し、むしろエジプト脱出の好機だと提案。しかしユーリに それが出来る訳はない。これはミタンニ王国に捕まっていた時にザナンザによる救出を拒んだ時と似ている(『6巻』)。ユーリはカイルの思想や理想を理解しているから、自分の決断をカイルも理解してくれると考える。


ムセスはネフェルティティの私邸で磔(はりつけ)となる。イケメンの身体の自由を奪う熟女の構図は少々エロい。王宮ではなく私邸に置くのはラムセスを自分の飼い犬にするためだった。ネフェルティティはラムセスの優れた資質を邪魔に思っており彼の排除を考えていた。自分に懐かないのなら命を奪うまで。ネフェルティティがナキアと気が合うはずだ、という鏡写しの行動である。

イル・バーニは付き合いの長いユーリのことを理解しており、ユーリの望むラムセスの救出への策を用意していた。それが有能な将軍・ラムセスをエジプトが必要とする状況。それは戦時なのだが国境から遠いため首都・テーベの人々は実感に乏しい。だからテーベに近い場所で動乱を起こす。小規模な暴動が続く街にユーリを投入して民衆の指導者にする というのがイル・バーニの計画。過保護なカイルなら許さない手法だろうけど、ブレーキ役は今はいない。


ーリは早速 民衆のリーダー役・タハルカという男性の処刑を回避するために人材を集める。民衆の組織化と軍隊並みの作戦でタハルカを救出することで指揮官としての有能さを示す。タハルカを始めとした不満分子が素性が不明なユーリをすぐに信用しすぎている、というか信用する場面も割愛されているけれど、これまでの前例のとおりだから という割愛なのだろう。

そこから移動しながら不満を持つ民衆を集めて首都に接近する。アルザワの侵攻を止めた時の快進撃を思い出す(『13巻』)。
ネフェルティティは暴動とラムセスの釈放の声を聞いても動かないまま。ラムセスに暴動と それが鎮圧されるだろう見込みを話し失望させようとするが、布陣を聞いたラムセスは反乱軍側の勝利を予想する。そして その優れた指導者がユーリではないかと想像する。