あなしん
春待つ僕ら(はるまつぼくら)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
本当の友達が欲しかっただけなのに……高校こそ脱ぼっちを目指して意気込んでいた美月(みつき)。だけど、突然出会ったバスケ部イケメン四天王にかまわれ振り回され、新生活は思わぬ方向に……!? イケメン4人とのハチャメチャ青春DAYS始まる!!? あなしんが描く、イケメンたちとのキラめく青春ラブストーリー!
簡潔完結感想文
- 口数の少ないヒーローは、上手く心を開けないヒロインの話を引き出してくれる大切な人。
- しかしヒロインには その前に心の内を打ち明けていた人がいた。大事なのは現在か過去か。
- 意地悪な見方をすれば、全ての登場人物たちはヒロインの逆ハー状態のエクスキューズ。
ミニバスケのコート周辺はサンクチュアリ、の 1巻。
読了して感心したのは どんな場面でも顔が崩れないイケメンたち。ヒロインは、ある意味 少女漫画として正しいのだけど、没個性というか いつまで経っても顔が覚えられない。どうやら作者によるとイケメン優先でヒロインは後回しになって作画カロリーが割けないためで、あまり可愛くない時もある。
でもイケメンたちは違う。主に5人のイケメンが登場する本書だけど、見分けがつかなかったことは1回もないし(驚異的)、どの場面も見入ってしまうほど端整な顔をしている。これぞ真のイケメンだ。カバー下や おまけまんが の絵でも丁寧で好感が持てる。とにかく絵や作品に対して作者が誠実であることが嬉しく思った。


画面が とにかく綺麗なこと、そして恋愛においてもストレスが最少であることが掲載誌「デザート」らしいと思った。話の構成に関しては最初から三角関係への伏線を張っていたり丁寧。しかし丁寧は丁寧だけど、遅々として進まないことにストレスも感じた。イケメン4人組で連想するのは水野美波さん『虹色デイズ』(2012年連載開始)だけど、本書は『虹色』と違って群像劇ではなく4人全員の恋愛を追わない。メインであるヒロインの恋だけに焦点を当てているのだが、それ一本で全14巻(実質13巻)続くのは ちょっと長すぎる気もした。
それをカバーするのが画力なのだろう。彼らの姿は1ページでも長く眺め続けたいし、少しでも その声を聞いていたい。そういう愛着を持てるようなキャラクタたちなので、恋愛の展開は遅いけど、作品世界が続くのなら それでもいいかなと思ってしまう。そう思わせるだけの魅力があるのは確かだ。
ただしヒロインが没個性のように作品も個性と呼べるものが無いのも正直なところ。前述の通り『虹色デイズ』みたいな作品だし、私の読書順だと満井春香さん『放課後、恋した。』(2017年連載開始)を連想せずには いられなかった。本書が2014年連載開始なので本来の順序は逆なのだけど、掲載誌が同じ「デザート」で、自分には何もないと劣等感を抱えるヒロインが、部活に燃えるイケメンとの青春の日々を送る という内容も重複している。少女漫画のヒーローが部活(スポーツ)に打ち込んでいる方が珍しくなってきた21世紀で、部活モノとしての一面がある作品なので余計に共通点を感じた。自己肯定感が低いことを理由に乙女ゲームのような逆ハーレムが成立している状況も類似している。本書の連載中に『放課後』が始まった際に、その類似点などを指摘されたり、時には中傷されたりしなかったか心配になった(本書は本書で『虹色』ファンから難癖をつけられかねないけど)。
また『1巻』は全体的に言い訳くさいのが気になった。ここからは意地悪な見解が続きますが、私は概ね作品や作者に対して好感を持っていることを まず言い訳させて下さい(苦笑)
結果的に4人(または5人)の男性に囲まれるヒロインは逆ハーレム状態になるのだが、その夢展開を読者に納得してもらうためにヒロインは最初から心に傷を負っているように見える。辛いことがあった人は その後の幸運を許されるという考え方なのか。そして5人目のイケメンも誤認から始まっているのもヒロインの意図ではないことのエクスキューズに見える。
他にも4人組の中で全員が彼女を好きにならないということが「逆ハー」の言い逃れのように見え、バイト先の綺麗なお姉さんは そのために存在する。そして男に依存している訳ではないことを示すために、女友達が用意されるが、彼女は いわゆる「腐女子」的な思考の持ち主で、絶対にヒロインの敵にはならない安全パイとして用意されている。こういう時に腐女子は便利に使われるなぁと思ってしまう。
ヒロインの周囲には2人の女性がいるが、どちらも絶対に恋愛のライバルにならない。その上、いつもは女友達といるから逆ハーではないという言い訳が成立する。


『1巻』では学校で女子生徒が大騒ぎするイケメンバスケ部員4人ということを描きながら、同時にヒロインだけは不可侵の特別な空間にいて彼らと穏当に交流が出来るという特殊な状況を用意する。大騒ぎするモブは彼らにとって集団でしかないが、特別な場所で彼らと接するヒロインだけは個別認識されており、それが読者の承認欲求を満たす。
彼らの熱心なファンもいるだろうに、まるで結界が張られたかのように学校内外でヒロインと彼らの交流を阻害する存在はいない。何度も雑音に悩まされても同じことの繰り返しだから、そういう雑音をシャットアウトするために『1巻』全部が使われているのだろう。
そしてヒロインの環境が整ったところで、いよいよ『2巻』から恋愛関係が本格始動する。この終わり方は続きが気になって仕方がない。作者の真の狙いは逆ハーではなく、三角関係であることが ようやく読者にも理解できるのだった。
主人公の春野 美月(はるの みつき)は、素直に自分の気持ちが言える自分になろうと敢えて遠い高校に進学した1年生。しかし同じ中学の人がいないということは仲良くなる足掛かりがないため、クラスに馴染めない。
学校生活は冴えないが美月はバイト先のカフェでの時間は楽しい。このカフェは経営者の男性と、その娘で専門学校に通うナナセがいて美月を含め3人で回している。人見知りっぽい美月が接客業であるカフェバイトを選んだのは、このカフェの立地に関係していた。道路を挟んでカフェの反対側にあるミニバスケットボールのコートが美月にとって大切な場所だったのだ。おそらく小学生の頃、そこで出会った「あやちゃん」という友達の面影を求めて美月は新たな挑戦を始めたのだろう。それだけ あやちゃん の存在は美月の中で大きい。
バイト中に美月は、同じ学校で女性たちに騒がれるバスケ部員の男子生徒から呼び出され、お膳立てをしてもらった別の生徒からの告白を受ける。けれど それは人違いだった。彼が好きだったのはナナセだったのだ。しかも間違われた上に4人のバスケ部員たちから次々と暴言を吐かれて美月は傷つく。
そこから告白に関わったバスケ部員4人はナナセに会いたい多田 竜二(ただ りゅうじ)のためにカフェに通い始める。美月は学校で注目を集める彼らが通うことで、このカフェが騒々しくなり、そして自分にとって居心地の悪い空間になることを心配する。だから同じクラスの浅倉 永久(あさくら とわ)に声を掛けられた時、悪い想像を こじらせて、今度は美月がモテモテの彼らを貶(おとし)めるような発言をしてしまう。その発言に対して永久は気を悪くした様子もなく、淡々とバスケ部員は恋愛禁止でバスケに真面目に取り組んでいることを告げる。竜二の告白は恋愛禁止と矛盾しているが、高校2年生で遅い初恋を迎えた彼を、幼なじみの彼らは応援したい という。
事情を理解した美月だが、このカフェの存在がファンにバレないようにと釘を刺す。実際、すぐに部員たちを追跡してカフェ近くまで女子生徒たちが現れるが、永久たちバスケ部員は美月の願いを聞き入れてくれているようで、女子生徒たちが退散してからカフェに入っていく。この一件で美月は永久を見直す機会となり、また このカフェが一種のサンクチュアリとして設定される。もう ここは美月にとって大事な人たちしか入れない不可侵の場所になったのだ。カフェは割と目立つ場所にあり、ガラス張りで外側から店内が丸見えにもかかわらず、今後このカフェで騒ぎが起きることは無い。このカフェやミニバスのコートに入れるのは選ばれた人たちだけ。そういう選民思想も見え隠れする。
美月は自分を変えるという大きな目標を持っているが、まだ不器用な自分では人を助けることや自分を好きになることが難しい。けれど永久たちは美月が気に掛けていた引っ越してきたばかりの少女をバスケを通じて笑顔にしてくれた。このバスケットコートは奇跡が起きる場所なのかもしれない。
こうして美月はバスケ部員4人と交流が生まれる、というのが1話。
高校入学から1か月、ようやく美月はクラスメイトと喋れるようになっていた。その中の1人、山田 レイナ(やまだ レイナ)の持つ情報により、主要キャラであるバスケ部の4人の名前と身長とポジションのデータが発表される。間接的な自己紹介といったところだ。
美月はレイナほど4人について詳しくないが、4人からはモブではなく個別認識されている。学校の特別な男子から一目置かれるという承認欲求が満たされる展開である。だけど それは折角できそうな友達から反感を買ってしまう恐れがあるので、美月は彼らと距離を置こうとする。
2話では1話で活躍した永久と竜二以外の2人の個性も発揮される。1学年上で2年生の若宮 恭介(わかみや きょうすけ)は恋愛マスター、そして同級生の宮本 瑠衣(みやもと るい)は優しい お調子者でありムードメーカー。4人の容姿と性格は、まさに乙女ゲームに出てきそうなオーソドックスなものに見える。貴族だろうがアイドルグループだろうが演奏者(『金色のコルダ』的な)だろうが、どんな設定でも遣いまわせる4人だろう。
そして2話の目的は美月にレイナという友達が出来るまでを描く。彼女はバスケ部員に ご執心で、かつ過激派のようで美月は彼女の前では4人との交流を必死に隠そうとする。だが空気の読めないところのある永久が美月が自分たちを避けていることを追求しようと、レイナの前で名前で自分を呼ぶ。
こうしてレイナを傷つけてしまい、永久には これまでのことを話す。永久は それが真の友情と言えるのかと正論をぶつけるが、過去の体験から美月は臆病になっている。そんな美月の気持ちを重視して永久は、もし友情に自分たちとの関係が邪魔だったら距離を置けばいいと言ってくれる。今の自分が全方向に臆病になる余り、全員に失礼だったことに思い当たった美月は永久も大事な友達であると、これまでの言動を謝罪する。
そうして美月はレイナと向き合う覚悟が出来た。するとレイナは永久たちへの恋愛感情ではなく何かしらの別の信念が あることが分かり、彼女たちの友情にヒビが入るようなことはないようだ。その信念は恐らく男性同士のカップリングへの情熱。レイナにとってバスケ部の4人は不可侵な領域であって欲しいようだ。こうして絶対に敵にならない友達という都合の良い存在が出来上がる。
学校での永久は朝練からバスケに情熱を注いでいるため教室で ほぼ寝ている。そしてボーっとしているから取り巻きの女子たちの言動もスルーするような人。だから一層 カフェでの会話が出来る状態はレアで、それは美月だけの特権となっている。
3話目のカフェでの学力テストのための勉強会も偶然の産物だが、羨む人は大勢いるだろう。この日は初めて一緒に帰ることになり満員電車のドア付近での壁ドン状態となる。そして この時の会話で、幼い頃の あやちゃん や永久にバスケがあるのに自分には何もないと焦る美月の話に誠実に応える永久は確実に充希の心の中で重要なポジションを占める。
しかし4話目では珍しく教室で起きている永久が女子生徒と会話していて、その場面にモヤモヤして永久に嫌な態度を取ってしまう。それが やきもち とか嫉妬の一種だということを美月は段々と理解する。
瑠衣を通じて永久の連絡先を入手した美月は、彼らが出場する練習試合を見に行くことを伝える。だが当日、眠れなかった美月は試合開始ギリギリに会場となる自分の学校の体育館に到着する。これは緊張と、そして彼らに手作りクッキーを用意していたのが原因だった。純粋な応援の気持ちなのだろうが、手作りの品を個別に用意するのは気持ちが重すぎるような気もする。


バスケ部の練習も あまり見ない美月は(けれど誰よりも仲良し)、ユニフォームを着てバスケをする彼らの真剣な表情を見つめる。だが周囲の生徒たちは彼らのファンであって、バスケに興味がない。相手校に比べて応援の声が少ないことを感じた美月は、彼らが一番欲しい頑張れという声をかけ、レイナのアシストもあり、ファンたちが一斉に声を合わせる。その声援に後押しされ、中盤まで点差があった試合に勝利する。これで美月は彼らの勝利の女神となったということか。
試合後に美月と永久が同じ気持ちであることが匂わされる中に登場するのが、小学生の美月を救った あやちゃん なのだが…。