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少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画の教師モノにおいて教育実習生は期間限定の仮想敵。恐るるに足らず

墜落JKと廃人教師 9 (花とゆめコミックス)
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第09巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

高校3年生に進級し、新しい季節が始まる。瑠璃学に教育実習生・姫野麗がやってきて早々、酔いつぶれた灰仁を介抱&添い寝!?乱される扇言の心。この気持ちを何と呼ぶのか、知っているけれど――。「多分お前より 俺の方が重い」灰仁の知られざる過去とは――…。キケンなつり橋効果LOVE!

簡潔完結感想文

  • 灰葉の一夜の過ち巻。扇言と正反対の教育実習生の女性と布団に雪崩れ込み、寝言を聞かれる。
  • 灰葉の仲介で生まれる新キャラとの交流は扇言のヒロイン性を際立たせる。そこまでが灰葉の狙い?
  • 浮気疑惑から疑念を追及されて灰葉ピンチ。詞が覆面なしで登場するところに事の重大性が見える。

んで歩くこと ≒ 一緒にお酒を飲むこと、の 9巻。

奇数巻で新キャラが登場する『9巻』。偶数巻の『8巻』で新キャラが登場しなかったせいでリズムが狂ったのか。もしくは『8巻』から作中の時間の歪みが正された影響なのかもしれない。

『9巻』は全体の構成が素晴らしい。新キャラ登場で灰葉(ハイバ)が一夜の過ちを犯し、それが扇言(みこと)に様々な余波を及ぼしていく連鎖は読んでいて楽しかった。まさか単純な嫉妬回が物語の核(または過去)に繋がっていくとは思わなかった。この2つのエピソードをバラバラに使わず、1つにまとめられるところが作者の高い能力だろう。高い画力だけでも支持されるのに、それに加えて作家性まで備わっているのだから末恐ろしい。2026年時点では早く第二長編が読みたいところで、本書のようなネガティブコメディ以外も描けることを証明して欲しい。でも似ちゃってても それはそれで良い。

そういえば少女漫画って花 背負うよね、と 忘れていた感覚を思い出させてくれる

『9巻』で思ったのは扇言も灰葉も ちゃんとヒロイン・ヒーローしているんだな ということ。

今回、作中で初めて灰葉に明確な好意を持つ女性が扇言以外に現れる。その人が教育実習生だったため、その設定だけで大したことにはならないと安心できる。なぜなら教育実習生は2週間ぐらいしか作品内に滞在できない運命だから。一般的な教師モノだと安定した主役の関係に波乱を起こすために教育実習生が投入され、大したことないことを一大事にして作品の賞味期限を延ばそうとする。
本書でも その側面は否めないし、仮想敵(または完全なる敵)が登場することによって扇言の中に初めての感情が引き出される。ここまで『9巻』も物語が続いていて初めて、というのが灰葉のモテなさの確固たる証拠のような気がする。

作中初の仮想敵が登場することで扇言の、例え敵のような存在であっても新キャラを救うというヒロイン性が強調されたように見える。これまでも一馬(かずま)をはじめとした生きづらさを抱えた人々を扇言が救ってきた。彼女と新キャラを引き合わせるのは多くが灰葉の役目で(淳人(あつと)は例外か)、その誘導は自分の教えを扇言に実践させる訓練のように思えるし、それによって扇言が人を救う聖女になるという灰葉による演出にも見える。時折メタ発言を交える灰葉なら そんな神の演出があっても おかしくない。

また灰葉の良さを分かる人には生きづらさという属性がある気がした。灰葉は一定の方面の女性からモテる というルールがありそう。これまで登場した生きづらい新キャラ(2人)は全員 男性。そして2人とも扇言に好意を持っている。なずな だけが女性新キャラだけど、彼女は そこまで深い闇を抱えていないキャラなので灰葉に感応しなかったのだろう。
今回の新キャラである姫野(ひめの)は初の扇言以外の病み女性キャラで、その属性から灰葉の良さに気づく。総合すると、病んでいる人は少し優しくされると あっという間に恋に落ちるチョロさ が見え隠れするけれど…。

そして教育実習生は絶対的にJKの年上の存在というのも この立場が使いやすい理由だろう。今回は姫野が、自分には出来ない飲酒を灰葉としていることも扇言の羨望の理由となる。姫野は教育実習が終われば灰葉と並んで歩いても交際しても問題がない。でも自分は灰葉と出来ないことが まだまだあるという立場の違いを明確にさせてしまった。また区分上は姫野は仮想敵と言えるので、彼女が自主的な撤退をすることでヒロイン側に敵意を持たせないのも便利なところ。姫野への対抗意識によって自爆でミスをして 灰葉に幻滅されるという少女漫画の王道展開は本書においては扇言の自死に直結しかねない自己嫌悪になるため回避される。ちょっと間違えると すぐ死のうとするから扇言は扱いが難しい。

扇言の前では まずない灰葉の泥酔が次のエピソードに繋がっていく、そして そのエピソードのための伏線があった という構成には感服する。日常回というマンネリに見せて、作者は ちゃんと次を見据えている。一時は悪く言われても真価は その後に分かるという特性は灰葉と作品の共通点なのではないか。

割とギャグ寄りのキャラである扇言の兄・詞(つかさ)が初めて扇言の前に覆面の別人格ではなく登場するところにシリアスさを出しているのも素晴らしかった。ここから苦手な暗い話になるのは不可避だけれど、そこまでの流れや演出は本当に良かった。


育実習生の姫野 麗(ひめの うらら)が登場。扇言たちの真逆で姫野はキラキラしたオーラを放てる人。姫野は実習初日から灰葉のフォローされ、それは彼女が灰葉を好きになるには十分な理由に見える。

あっという間に距離を縮めるのが新キャラの特性。そして泥酔した灰葉は扇言には言えない状況に陥る。どうすれば彼女の機嫌を損なわずに謝罪できるかという疑似ケンカ状態となる。灰葉が言えない扇言は成人男女に何があったかを立ち聞きで理解する。事の発端は姫野に対する灰葉の再度のフォローだったのだが、泥酔があったため最後まで恰好がつけられなかった。

扇言は灰葉に怒りを見せない。灰葉がそうであるように、扇言も灰葉が他の人を選ぶなら身を引く。それが彼のためであり、身を引くと言うことは存在が この世から消えるぐらいの意味である。一夜の過ちを扇言は怒らない。ただ灰葉が他の女性といて自分の知らない時間を、年齢や立場的に自分の届かないところで過ごすことに嫉妬を覚える。そんな自分の感情に扇言は振り回される。仮想敵の良いところは こういう部分である。

ここまでは ある意味 予定調和の展開。この先を用意しているのが作品の実力

野問題は本書らしい展開を見せる。灰葉は姫野のことを初対面から分かっていた。そういう彼女の中の天秤の揺れが気になって接点を持ち続けたのかもしれない。姫野側も灰葉に接近したのは社会的に存在を抹消し、自分の不利の拡散を阻止したかった。姫野がキャラに徹するのは それが社会に適合しやすいから。けれど同時に嫌われる要素でもあって姫野は生きづらさを抱えている。ただ自分がなろうとする自分になるために姫野は努力を惜しまないことが窺える。

一馬(かずま)たちと同じように灰葉によって扇言と姫野に縁が出来た。そして一馬たちと同じように扇言の存在で相手は救われる部分がある。この辺、扇言はネガティブでもヒロインしている。

また同時に灰葉も ちゃんとヒーローしている。精神的・社会的窮地を救い続けてくれている人を好きにならない訳がない。けれど姫野は灰葉を観察していて彼が学校内の誰かに愛しい視線を送っていることに気づいてしまう。その話を聞いた扇言は赤面する。姫野は泥酔した灰葉から漏れた言葉で その相手が「みつき」という人だと思っているので扇言は疑われない。ただ その浮気中に違う浮気がバレるみたいな状況である。


言は「みつき」という名前に覚えがある。それが兄・詞(つかさ)と双子の扇月(みつき)である。退路を断たれる形になった灰葉は その扇月と接点があったことを明かす。そして扇言の口から扇月が死去していることが明かされる。『3巻』の夏の お墓参りは扇月のためだった。あの時の灰葉は事情が透けて見えていたので扇言のメンタルを心配して一緒に行動した。

扇言は灰葉が兄のことを知っていたことにショックを受けるのではなく、自分が灰葉の知見に届かないことにショックを受ける。どこまでも内罰的な人なのだ。

色々と扇言のメンタルが不安定になり、灰葉は彼女を怒らせるようなことをワザと始め、そして変態教師から妹を守るように兄・詞が救助に来る。この3人(Not 島袋(しまぶくろ)で)が同じ空間にいるのは初めてだ。詞の登場は灰葉の召喚によるもの。ピンチだったのは灰葉。扇言に問われたならば胸にしまっていたことを話さなくてはならないが、正面から語るの覚悟が灰葉には まだ足りない。

でも知らせる決意は出来ていて、『7巻』で渡した遺書に それは したためられていた。灰葉の指示で扇言は遺書を開封し、過去の入口に足を踏み入れる…。

「番外編」…
灰葉の家のエアコンが壊れた酷暑の日の話。そろそろ扇言なら灰葉の言うことを鵜呑みにせず現場検証から始めそうな気がするけれど、それをしないで そういう設定だと楽しむのが「プレイ」の秘訣なのかもしれない。