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少女漫画と小説の感想ブログです

扇言と灰葉のダイアログが作品の生命線。過去編の途中でも容赦のないツッコミが入っ℡

墜落JKと廃人教師 10 (花とゆめコミックス)
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第10巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ついに、灰仁の「遺書」を手に取る扇言。そこに書かれていたのは、これまで触れられてこなかった彼の“過去”のことだった。灰仁の恩師“先生”や、扇言の兄・詞と、もう一人の双子の兄“扇月”との関係は――…。「いいじゃん。死ぬのは明日にすれば」甘味と辛味、軽さと重さの刺激のループ キケンなつり橋効果LOVE!

簡潔完結感想文

  • 文章でしたためられている遺書を漫画で見事に再現。遺書が漢字練習帳になってるの草。
  • 灰葉と扇言には過去の接点がある。最初から救っていると同時に救われている2人の関係。
  • 扇言の中に羞恥すべき嫉妬があったように灰葉の中には恐怖がある。初めて描かれる弱さ。

級したのには訳がある!? の 10巻。

過去編は間違いなく作品のクライマックスである。一般的にクライマックスとは終盤~最終盤に位置して、特に白泉社作品ではヒーロー側の過去やトラウマに触れて解決することで作品は畳む方向に進んでいく。結果的に全20巻の作品だけれど、もしリアルタイム読者であったならば全12巻ぐらいで終わると予想したはずだ。まさか巻数的、内容的にターニングポイントなだけだとは思わないだろう。

もしかしたら読者に完結を誤解させないために過去編に踏み入れる前の『8巻』で扇言(みこと)たちが進級したのではないか。作中の時間の流れなど あってないような白泉社作品に ちゃんと時間の流れを作ることで、作品側は扇言を卒業まで描く意思があることを暗に示していたのではないか。
そして終わる雰囲気を出さないためにも灰葉(ハイバ)の扇言に伝えたいことをしたためた遺書を途中で切り上げているようにも見えた。この切り上げは単行本化を念頭に置いた構成なのではないか。作者は単行本化における収録も考えられる人だから、『10巻』のラストに完全な日常回を持ってくるために過去編を途中でを終わらせる。例えば1話でもズレて、遺書を読んだ後の2人を描いた「episode.59」が巻末にあったら、日常は戻らず作品が終わる雰囲気が漂ってしまう。そこで終わると読者の誤解を加速させるので、わざと くだらなすぎるエピソードを巻末に挿入した。それは作品のスタンスを戻す作業でもあり、飽くまでラブコメですから!! という作者の強い意志が垣間見られる。


去編=扇言の遺書を読む作業中でも絶対に扇言と灰葉に対話をさせるという強い意志も見られる。普通なら電話しないタイミングでしているのも必須の対話のためだろう。その後は過去の中で対話しているので1回きりの現象だったけれど、シリアスな雰囲気を前にして通話をする扇言と作品は強靭な精神力だと思った。
文章である遺書を漫画化し、同時に扇言がツッコまざるを得ない灰葉のフリーダムを読者に理解させるテクニックに驚いた。笑わせるためなら これまでなかった手法を用いるという作者の執念と技量の高さを感じさせる。

登録名で笑わせにかかっているけど、それがなければ灰葉の不安が際立ったはず

過去編で良かったのは触れられることで安心する2人の様子が過去と現在で鏡写しになっているところ。過去の場面も良かったけれど、現在の扇言が灰葉に触れる場面は、過去との相乗効果と灰葉の新たな一面が見られることで忘れられないシーンになっている。確かに灰葉が望むように扇言が頭を触ることで対称性の完成するようにも思うけれど、目線が同じ高さだし手を手で包みこむ動作も扇言らしいと思った。この回が上述の「episode.59」なので、この場面が良ければ良いほど物語の軟着陸が予感されてしまう。やっぱり空気を入れ替えて日常回に戻したのは正解だろう。

また『9巻』で扇言が自分の中に嫉妬という嫌悪する感情があることにぶつかっていたのと、今回 灰葉が最も恐れることは何かということが対応しているのも秀逸。初めてのライバル、初めての過去の吐露、それは相手に嫌われたくないという2人の恋心の高まり。自分の中の死にたくなるほどの醜さや弱さに直面して、それを相手に許容される経験があって2人は生き続けていく。恋心の高まりのグラデーションを繊細に描き出せていることは私の好きな作品の要素の一つだ。


書を「逐一先生の小ボケにツッコミ入れながら読」み進める扇言。両親が不在となった灰葉は親戚に預けられたが、肉体的・精神的DVを受けるような環境で死に魅入られるようになった。
灰葉が中学1年生の時に出会ったのが「先生」こと凪 真琴(なぎ まこと)。『1巻』1話の扇言と同じように学校の屋上の柵の外側にいる時に声を掛けられてペースを崩された。遠慮なくタバコを吸い出す真琴はスクールカウンセラー。灰葉は居場所の無さを伝えるが、真琴は灰葉の背負う現実の重さが大したことがない というような反応を続け、生存の継続をさせる。それ以降も灰葉に自殺衝動は残るが真琴に未遂で終わらせられる。

扇言に遺書を読ませている夜、灰葉はタバコを吸う。久々のタバコ描写じゃないだろうか。そして灰葉を助けるように攫って灰葉の家に連れ帰った詞(つかさ)は、灰葉からは語られない苦悩を語る。灰葉は ずっと詞の双子の片割れ・扇月(みつき)の夢から逃れるため不眠症に陥っていた。

「ダイアロジックラブコメディ」だからか連載1回中に扇言と灰葉に会話させる場面が挿入される。灰葉の扇言の電話帳の登録名に笑う。小ボケを挟んで雰囲気が重くなるのを防ぎたいのは灰葉も作者も同じなのだろう。


学3年生の頃、灰葉は真琴と一緒に暮らし始める。社会的に問題があるけれど、真琴は強引な手法を採る。一緒に暮らし始めた真琴は服や携帯電話など彼が持っていなかった物をを灰葉に与える。灰葉は自殺願望を抱えているため、現世の荷物はいらない。真琴は執拗で狡猾。そして灰葉への憐憫だけではなく自身も楽しそうに行動する。そのことが灰葉の心を軽くする。それでも2人は相手に甘えそうになる自分たち厳しく律する。

それでも灰葉は自分の生まれを忘れない。だから近所の森林に死に場所を探す。そこで出会ったのが なぜか森に一人でいる少女「みこと」だった。この対面で対話のノルマ達成か。灰葉との年齢差(推定)からすると扇言は3歳前後だろうか。灰葉は扇言を この森から出すために自分が「寂しい」と嘘(本音)を漏らして一緒に森を出る。救っているようで救われている関係性は最初からのようだ。


琴と住む家に帰ると彼女から友人の子供がいなくなったと連絡が入る。この時、一時行方不明だった灰葉を心配して真琴が「大切な教え子」と灰葉を表現したことは彼の数少ない現世での喜びだっただろう。そして無表情だった扇言も自分の気持ちを分かってくれる人の存在によって感情を引き出される。それまでに疲弊していたこともあり2人は遊び疲れて一緒に眠る。灰葉が目を覚ますと扇言は いなくなっており、真琴も詳しい事情を話さない。扇言には この時の記憶はない。

数日後、真琴の家に詞と扇月が居た。真琴の話によると扇言の「迷子」は詞によるものだという。その動機は双子の兄弟で遊ぶ時に妹が邪魔だったから。その歪みを見極めるために詞は この家で少しの間 預かることになる。扇月は親に連れられて帰宅する。灰葉は あの森で見たのは詞ではないと分かっていた。
この3人兄妹は三角関係状態だった。詞が扇言を溺愛していることに嫉妬した扇月は邪魔な存在を山に捨てに行った。事実を知る扇言も詞も扇月を庇うような行動をしたため、扇月の態度は軟化する。状況は好転したように見えたが、扇月は自分のしたことへの罪悪感が彼を苛(さいな)んで結果的に自死に繋がる。扇言は灰葉が あの森で第三者を感知していたことに気づいており、内罰的な思考の扇言は自分の扇月への配慮が悲劇を招いたと思い、その思考から逃れるために自分を責めなかった灰葉を恨んだようだ。なかなか複雑な思考で理解が追いつかない。それでも扇言は自分の存在が人に迷惑を掛ける意識が残っているから自己が希薄なのだろう。

死に直結する存在の否定はなく最大の恐怖は去ったが、辛辣な批評でHPを削られる

書編が長くなりそうなので、灰葉が途中で飽きたということにして遺書は唐突に終わる。
すぐに学校で灰葉に再会し、遺書のダメ出しで一日が終わる。放課後、2人は出会いの場所となった屋上で語らう。灰葉がダメ出しに耐えるのは扇言に聞きたいことを聞き出せないから。自己肯定感が低いのは灰葉も同じで彼は扇言に忌避されることをおそれていた。その恐怖に扇言の愛おしさが溢れ出す。醜く弱い部分を見せたから距離感は近づく。


がしい日常が戻る。ただ過去に引っ張られている部分もある。特に今回は兄・扇月の葬式という最も重い場面が一瞬 よぎっている。
今回も自分を罰しようとする扇言のために灰葉が助け舟を出す。一馬(かずま)の変化に なずな も素直に褒めている部分に注目か。巻末の「特別授業」でも一馬は本編の続きになっている。