
かみのるり
棗センパイに迫られる日々(なつめセンパイにせまられるひび)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
筋肉をこよなく愛する日比華帆。高校入学早々、“マッスルプリンス”とうわさの男子・棗旺太朗と出会う。棗のナイスバディに釣られた日比は、バスケ部のマネージャーになってしまって……!? 理想の筋肉に、攻められ迫られまくりのムキムキ・ラブコメ第1巻!
簡潔完結感想文
- 恥ずかしい筋肉観察帳をイケメンに見られて、半強制的に紅一点マネージャー人生開幕。
- 主役の2人は基本的に努力家。彼女のメニューで筋肉が育ち、その筋肉が彼女を魅了する。
- 筋肉芸人がテレビでスポット参戦であるように長編作品を支える持久力は筋肉に無い!?
デザート作品の栄養素をMIXしたプロテイン、の 1巻。
筋肉特化の作品で、物理と心理でいえば前者を重視する作品である。また「肌色多め」の作品で男性キャラが意味もなく脱ぐ場面が多く、その筋肉をヒロインが肌で感じるためにスキンシップが多いという特徴もある。ヒロインが筋肉に魅了されるのはイケメン限定なのか、ヒーロー限定で彼を嫌いじゃないからなのか難しいところで『1巻』から距離感が近すぎるイベントが連続発生している。
良かったのはヒロイン・華帆(かほ)とヒーロー・棗(なつめ)の2人の性格。2人とも努力家で好きなことにストイックな一面があるという共通点が見られる。男子バスケットボール部の紅一点マネージャーとして華帆は大好きな筋肉を育てる喜びを覚えながら、メニューを作るだけで汗を流すのは部員たちであるという現実に直面する。その彼女の葛藤や部員との小さな衝突をフォローし、チームを良い雰囲気に変える棗は とても優しい人だと感じられた。最初は筋肉に惹かれた華帆が徐々に棗という人格に触れていくという本書ならではの流れも面白かった。


また2人の性格と筋肉との相性も良く、華帆は筋肉を努力の結晶だと考え、美しい筋肉を身に纏(まと)う棗の相応の努力を見抜いている。これは外見ばかりを褒められる棗が初めて内面に触れられた出来事であり、彼が華帆に好意を抱くのも分かる。部活終わりや部活が休みの日もチームを強くするために自分が出来る努力を惜しまない彼らは似た者同士なのである。
考えてみれば2人の関係は、最初から完結している。華帆が棗の筋肉に惹かれ、華帆は棗の筋肉を育てるためにメニューを作り、そして棗は それをストイックにこなす。すると棗の筋肉は一層 大きくなり、華帆は棗から目が離せないという誰も立ち入れないサイクルが出来上がっている。そこに入り込めるのは棗と同じぐらいのSSS級の筋肉の持ち主なのだろう。本書では一般的な容姿だけで人を好きになったりしていないが、筋肉差別は存在するのである。
ただ そもそもの問題としてバスケットボールと筋肉の相性が悪いような気がする。私には この2つの関係が上手く結びつかなかった。バスケは筋肉をつけ過ぎたらプレーに支障が出そうなスポーツだと思ったし、長身の人ほど視覚的な効果によって筋肉の大きさが見えにくいのではないか。筋肉好き女子が最も気にいるのがバスケ部員の筋肉、というのが ずっと心に引っ掛かってしまった。
少女漫画は作中で扱うスポーツを読者の人気を得られる種目に限定していて、本書も その理由でバスケが選ばれた気がしてならない。ここまで筋肉押しにするのなら柔道とかレスリングとか もう一つ踏み込んで、これまで少女漫画で扱われることが少ないスポーツを開拓して欲しかった。バスケ選択は人気を保証するための保険に見えた。
そして筋肉という鎧を取ってみると、オーソドックスすぎる物語が露呈している。筋肉好きヒロインという色物設定は一発屋芸人のようだった。最初は別冊付録から始まって「デザート」本誌に掲載誌が移ったので、きちんと注目を集めることには成功したけれど芸歴の浅さなど徐々に欠点が露呈していったように思う。一つの番組内のコーナーを盛り上げるには便利な存在だけど、番組そのものを支えるのは別の人。筋肉の視覚的効果は圧倒的だが、慣れるのも早い。そういう特性が筋肉にはあるように思った。
良くも悪くも1話に描きたいことが凝集していて、それ以降は そこを越えない。作者の作家としての筋肉は育ったのか微妙なところ。筋肉愛 ≒ エロ(裸)で釣る、という構図が見え隠れするのが残念。
そして「デザート」の他作品の要素を感じる部分が多く、本書独自の強みや描写の上手さを感じられなかった。部活のマネージャーモノ作品は どれも似たような経過を辿るという理解はあるものの、同じ「デザート」作品の満井春香さん『放課後、恋した。』が まず連想された。志願したのではなく半強制的に部活動の紅一点マネージャーになって男性キャラたちから愛されるという内容も似ている。またバスケットボールを題材として他校にスポーツと恋のライバルを配置するのは あなしん さん『春待つ僕ら』と似ていた。変態的なヒロインがヒーローに弱みを握られたことで始まる2人の交流、という点では藤もも さん『恋わずらいのエリー』を思い出した。しかも『エリー』が妄想と言う無限の発想力をパワーにしているのに対し、本書は筋肉の一点押しなので徐々に無理が出てきた。
このような先行作品の要素を筋肉として纏わせたのが本書と思えてしまった。
また、話が進むたびに どんどん男性キャラの顔が濃くなって癖が強くなった。むしろ これが作者の本来の画風で、デザート作品として当初は抑えていたのだろうか。顔面が爽やかさから暑苦しさに変わったのは読者として嬉しくない方向性だった。
あと後述するけれど華帆のやっていることを男女を入れ替えたら女性読者は嫌悪感を覚えることだろう。ヒロイン無罪、イケメン無罪が まかり通っている点が少し引っ掛かる。


6歳の時、海で流された自分を救ってくれたライフセイバーの力強さと肉体美に目覚めてから筋肉が好きになった日比 華帆(ひび かほ)。筋肉を纏(まと)うのは努力の出来る人というのが華帆の考え。筋肉に詰まっているのは積み重ねた時間だから筋肉は その人を表すと華帆は思っている。
中学は女子校で高校から共学に入った華帆は周囲の男子生徒の筋肉に夢中。どうでもいいけど(おそらく私立)女子校から高校進学を機に(おそらく)公立校に転入するヒロインって多い気がする。中学が女子校=無菌状態で、高校生で遅い初恋をさせるための設定なのだろうけど、本書のように特に理由もなく(おそらく)中高一貫の私立を途中で辞めるパターンは作為的だなと冷めてしまう。
まだ見ぬ筋肉を探して華帆はバスケットボール部の筋肉を堪能しようと体育館を覗き見る。これ、男女が逆だったら嫌われるパターン。女性キャラは男性キャラの胸の大きさ(胸筋)を品評していいが、その逆はセクハラで絶対的に嫌われる。少女漫画は もしかしたら社会の中で一番 真の男女平等から遠い世界なのかもしれない。
バスケ部には「マッスルプリンス」と噂される生徒がいるらしく華帆は梯子を使って見学する。梯子の上でバランスを崩した華帆を助けたヒーローこそマッスルプリンスの棗 旺太郎(なつめ おうたろう)だった。
棗は なぜか上半身裸で現れ、その美しき筋肉に触れ、華帆は気絶してしまう。棗に保健室まで運んでもらったが、その際に筋肉を観察した記名の「筋肉手帳」を見られたことで華帆は弱みを握られる。棗は華帆の筋肉愛が分析力を発揮しているのを見抜き、自分の所属するバスケットボール部のために使おうと、彼女をマネージャーになってもらおうとする。特定のスポーツの筋肉だけを愛することは出来ないと華帆は断ろうとするが、棗は一肌脱いで肉体美で彼女の平常心を奪い、同意を取りつける。これが俺様ヒーローだったら隷属関係が結ばれるところだが、華帆が棗センパイの言いなりになるのは部活動においてのみとなる。


こうして翌日から華帆のマネージャー生活が始まる。1回戦敗退の弱小チームであるバスケ部のマネージャーは棗目当てで集まるが すぐ辞めてしまうので不在。華帆は男子部員たちから歓待を受ける。
筋肉バカの華帆の能力はマネージャーと相性が良く、すぐに棗のオーバーワークを見抜き、彼の筋肉をマッサージする。華帆は筋肉愛で、服の上からでも筋肉の感情が見抜ける特殊能力に目覚めていたのだ。棗は華帆の「筋肉手帳」を見た瞬間から、彼女の能力の一端を予感していたのだろう。
上述の通り、筋肉は努力の結晶。筋肉を大切にする華帆は棗という人間を外見ではなく人柄や その努力を認めてくれる人となる。これが歴代のマネージャーと違うところで、すなわち棗の中の華帆が周囲のモブ女子生徒と決定的に違うことを意味する。華帆の言葉に救われて棗は彼女に好意を抱く。
そして華帆も自分の能力がマネージャーで活かされ、棗たちに認めて貰えたことで自己肯定感が芽生える。こうして華帆は書物にあたってバスケットボールのルールや筋トレの方法を学ぶ。
早速 その実践をするために部員たちにメニューを作った華帆だったが、いきなり理想を叶えようとキツいだけの内容となってしまい部員たちから不平の声が漏れる。華帆は前のめりになる余り、部員たちの部活への熱意などの心理面を全く考えてなかったのだ。
自分の失態に落ち込む華帆を棗が、先輩部員たちをイジりながら挑発することで救う。こうして棗は部員たちの やる気に点火させ、遅くまでメニューを作った華帆の一生懸命さをフォローする。
相乗効果は続き、そんな棗の役に立ちたいと華帆もマネージャー業に熱が入るようになる。ただし華帆が夢中なのは棗の筋肉。その天然っぷりにイラっときた棗は強引に彼女の唇を奪い、自分自身を視野に入れようとする。
少女漫画の世界に常識を持ち込むのはマナー違反なのかもしれないけど、1話の華帆は覗き魔だし、棗は性的暴行を働いていることが引っ掛かる。そもそも棗の性格から ここで いきなりキスするのは違和感がある。これは新人作家が読者の人気を得る手段だから仕方がないのだろうか。
そういえば華帆は この世界=学校の全筋肉を把握する前に棗に捕獲されてしまった。もしかしたら他の部活に華帆を夢中にさせる筋肉があるという余地が残っている。その残りの生徒の中にライバルが登場したら面白かったが、それだとバスケ部の強さが表現できないから、違う高校にライバルは置かれる。あとは華帆が筋肉畑で育てているバスケ部員の中に原石が存在して、いつの間にかに棗に匹敵する筋肉美を手に入れて、華帆が彼に夢中になってしまうという展開を想像したら笑えた。予想外の長編になったからこそ筋肉の成育結果が出て、思わぬ伏兵が登場するラブコメ展開も読みたかったなぁ…。
突然のキスを華帆は深く考えないようにする。だが棗はグイグイと距離を詰めて、華帆の頭を筋肉ではなく自分でいっぱいにすると選手宣誓をする。それでも華帆が本気にしないので宣戦布告に呼称を変える。
普段から華帆のメニューをストイックにこなし、その証を筋肉にして纏う棗。それは華帆への愛情でもある。華帆の視線を、努力の結晶である筋肉ではなく、努力する自分に向けること。その出発点に立つために棗は きちんと華帆に好意を伝える。2話目は いかにも胸キュンさせるための話の流れと設定で不自然さが目立った気がする。
華帆に部活のジャージが与えられ、正式にマネージャーになった頃、合宿回が始まる。
華帆の独特のメニューは まだ部員たちに受け入れられない部分があるが、それをフォローするのは棗。意気が上がらない彼らを誘導する。華帆も助けられてばかりにならないよう自分も人一倍 動く。
棗もだが華帆も基本的に努力家である。部員たちのために練習メニューを作り、本を読み込み、いつも目標に立て その達成のために動いている。気になったのが合宿所。到着した時の外観で っこが合宿所というより旅館に見えて(着物の女将が出てるし)、なぜ食事を華帆が作っているのか謎だった。この後の展開のためでもあるんだろうけど、華帆1人に対して仕事量が多すぎる。
棗が媒介しているが、華帆の努力は部員たちにも伝わり、彼女一人の負担になっているマネージャー業務を分担してくれる。そうして華帆の本気が部員たちの意識まで変えていく。その棗の尽力は華帆にも間接的に伝わり、彼女は棗への意識を また変えていく。
合宿後ぐらいから部員たちは自分の身体の変化を実感でき、それが周囲からの評価も変える。
華帆にとって棗は理想的な筋肉の持ち主だが、それを他の女子生徒に奪われるのは我慢がならない。それが独占欲とか嫉妬ということを棗により教えられ、やがて華帆は自分にとって棗は特別な存在なのかもしれないと考え始める。
そして4話目から新キャラが登場。華帆がSSS級だと認める もう一人の美筋肉の持ち主・一慶(いっけい)が登場する。外見的には棗に負けないイケメンキャラだが、華帆は彼らのことを筋肉でしか見ていない。周囲の女子生徒たちと違って顔は関係ないのだ。
