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今ならハッシュタグを #彼氏いません に戻せるけど、涙で妄想ツイートが出来ません。

恋わずらいのエリー(10) (デザートコミックス)
藤もも(ふじもも)
恋わずらいのエリー(こいわずらいのエリー)
第10巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

変態女子よ、これが日本一の彼氏だ! 地味で目立たない妄想女子のエリーは、学年一のイケメン・オミくんと交際中! 2年生になり、悩んでいた(?)煩悩(エロ)からも解き放たれてさらに愛を深める2人だけど、同級生がオミくんを「男子高校生コンテスト」にエントリーし予選を通過してしまう! 一方エリーも体育祭実行委員に挑戦し、忙しい日々を送るけど…。そんななか、DKコンテストの東海大会の会場で紗羅ちゃんは、レオとアヤカの2人に遭遇して…!? エリー×オミくんも、紗羅ちゃん×レオくんからも目が離せない!!! 変態地味女子のアブノーマルラブ第10巻!

簡潔完結感想文

  • 近江が優勝できたのは彼の自然体の笑顔を恵莉子が間接的に引き出したから。
  • 彼女に直接 触れられないのなら、彼女に近づく男を間接的に威嚇するだけ。
  • SNS上で彼の名誉を守りたい彼女 VS. 将来的に彼女との約束を守りたい彼。

ずっと変わらなかった関係性が変わりだす 10巻。

恵莉子(えりこ)と近江(おうみ)の関係性は『10巻』が一番 暗い。作者も それを分かっているから もう1組の男女の恋愛を前進させることで作品内のバランスを保っている。コメディ要素は薄いが、恋愛要素は維持している。

恵莉子たちは それぞれ相手のために行動しているはずなのに、それが自分たちの関係を悪化させる悪循環が生まれている。いくら説明を重ねても相手に伝わらないのは、彼らが守りたいものが、その人自体ではなく、見えない概念上のものだからではないか。

まず恵莉子が守りたいのはSNS上での近江の評判ではないか。イケメンコンテストに出場した近江のプロフィールと発言に彼女あり/なしの齟齬があり、それがSNSでプチ炎上。だから恵莉子は近江(の人気)を守るために自分は近江の彼女ではないと自己の存在を否定した。だが それは勇気を出して彼女の存在を学校内で公表した近江の勇気を踏みにじるもので そこから関係は悪化する。SNSで自分の妄想を発表し、sこで水を得た魚のように自由に泳いでいた恵莉子だが、今回はSNSが形のない敵となってしまった。

そして近江が守りたいのは約束や理想という概念。彼は恵莉子の彼氏として胸を張れる自分になるためにコンテストに出場した。そして自信を得た自分が恵莉子と世界で一番 幸せな瞬間を迎えることを目的に苦手なことに挑戦している。「未経験男子」だから一点の曇りもない性体験を夢見てしまい、それを叶えようと躍起になっている。なのに恵莉子が彼女という立場を軽々と放棄しているように見えたから近江は臍を曲げてしまう。

しかも彼らは不器用である。自分の真意が相手に伝わらないこと/伝えられないこと自体に腹を立てて相手に その不機嫌をまき散らしてしまう。これまでは そんなところも可愛い、と思えた部分が いきなり欠点に反転する。恋が終わる時は そういうものである。

どちらも悪いが、どちらかというと私は近江の方が悪質なような気がする。コンテストに出場し自信を深めるとか、ロマンチックな場所に泊まるとか、そういう彼の理想の大きさが現実を歪めているように思える。そして彼自身は自分の視野の狭さに気づいていない点が良くない。

そもそもコンテストに出場すること自体が大きな挑戦とは思えないという作品上の欠点もある。近江の挑戦で言えば学校内で恵莉子との交際を公表することや、八方美人ではない自分の素顔を見せることの方が その意味が大きいと思うのだ。勉強で好成績を収めながら恵莉子のために始めたバイトを続けるとか彼は本当に努力を続けているから、このコンテストが大きな転機とは思えない。後述する近江と青葉(あおば)の関係性の本当の清算、という面では とても良かったが。

精神的には1話の段階で互いに素っ裸を見せ合っている2人。だから どんなことが起きても相手に幻滅しにくい関係になっている。そんな安定した関係を壊すのは非日常のイベントでなくては ならなかったのかもしれない。そして どのヒロイン・ヒーローよりも性欲を隠していない彼らが心から望む性体験だから、その最後の障害として精神的な別離が用意された。究極の胸キュンのためには究極のどん底が前振りとして必要になる。


かったのは、上述の通り恵莉子たちと逆方向に進む恋愛として紗羅(さら)とレオの話との2本立てにしている点。これがなければ『10巻』は地獄絵図になっていたが、序盤から登場している2人の関係は読者にとっても馴染みがあって素直に応援できる。これが要(かなめ)の新しい恋とか、近江の友達の山田(やまだ)と まりあ の話では弱かった。作者は連載がどこまで続くかは分からないが、クライマックスの波乱のために紗羅たちのエピソードを温存していたということか。

そして もう1つ良かったのが近江が今回の地区コンテストに優勝できた要因。近江は恵莉子との約束通り、ステージの上から恵莉子を見つける。その際に恵莉子が用意していた うちわ の文章を読んで近江は破顔一笑する。本書において近江の心からの笑顔は無敵。恵莉子も最初は その笑顔に惹かれていたように、会場の女性たちも近江の自然体の笑顔に心を奪われる。容姿だけでなく、観客が彼の心に触れたことで近江を優勝させた、という流れが良かった。賢い作者のことだから今更 近江の外見の再評価をしたくてコンテストを用意した訳ではないだろう。

また このコンテストで近江と因縁のあった中学時代の同級生・青葉が近江に負けて晴れやかな顔をしているのも見逃せない。中学時代から近江が青葉に気を遣って不戦敗を選んでいたが、今回は青葉は近江とガチンコで勝負をし、そして玉砕した。近江は青葉を意識した訳ではないが、同じ戦場に並んで戦えたのは彼の長年の夢の実現だったのではないか。結果は足もとにも及ばないものであっても、青葉にとって近江は やっぱり凄い、と素直に思えたのではないか。

近江にとって恵莉子は女神。視界に入るだけで日常が楽しい。だから遠くへ行ってはいけない。

よいよコンテストが始まり、恵莉子は近江と距離や格差を感じて陰ながら応援することを決める。しかし恵莉子の応援は近江の緊張を ほぐし、そんな近江の自然体の笑顔は会場中を魅了する。こうして近江は地区大会で優勝を手にし、全国大会へと駒を進める。
コンテスト終了後、恵莉子は少しだけ近江と話す時間があった。近江が窓一枚 向こうの世界に居ても恵莉子は自分で そこを通り抜け、そして近江の思いもよらぬ行動をする。そして近江もステージから恵莉子を見つけたことを報告する。世界が違うと思って簡単に撤退せずに、自分たちで同じステージに立つ感じが良かった。

優勝した近江は主催者側のインタビューを受ける。そこで自分の出場理由に彼女の存在があるという話をするが、コンテストの出場者のページには「彼女なし」と登録されていた。これは近江を推薦した女子生徒が彼に票が集まりやすいように勝手に登録したもの。主催者側は近江に彼女がいないままにしようと提案するが近江は それを拒否。プロフィールは変更されることになったのだが…。


区予選に優勝したことで近江の人気は最高潮となる。
その弊害で交際を公表する前のように近江と学校で話せなくなったことを残念に思う恵莉子だったが、近江が恵莉子の姿を見かけ話しかけてくれる。会場でもそうだったが、自分たちで会う時間を作る感じが良い。そして近江は全国大会の優勝得点に東京の遊園地の宿泊ペアチケットがあることを伝え、その実現が2人の甘い時間になることを約束する。

その後、恵莉子は久々の登場になった要から近江が少し炎上していることを知らされる。プロフィールでは彼女なしの近江に彼女がいるという情報がSNS上で回り、近江が嘘をついて人気を得ようとしていた という疑惑が囁かれ始めたのだ。

恵莉子は その情報を近江には伝えず、自分が対処しようと動く。その思案をしている最中に近江が他校の女子生徒が待ち伏せする正門に向かおうとしてしまい、恵莉子は彼とファンが遭遇しないように画策する。しかし発見されてしまい、ファンたちに近江の彼女かと問われてしまう。
そこで近江を守りたいがために交際の事実はないと否定してしまう。その後、教師がファンたちを退散させて騒動は収まるが、近江は恵莉子の発言を許さなかった。近江は過去に恵莉子を守るために遠ざけた経験があるから、もう隠し事をしたくなかった。あの時、自分が出した勇気を恵莉子に否定された感じを受けた近江はショックを受ける。そして傷つきやすく面倒臭い近江は臍を曲げ、彼ら
の関係は悪化する。


日、2人が別れたという噂が校内を駆け巡る。近江は意固地になって恵莉子にメールすら送らず、クラス内でも話すことはない。

そこで勇気を出すのは恵莉子。近江に向かい合い、自分の気持ちの流れを彼に分かってもらおうと言葉を尽くす。だが それは恵莉子の考えであって自分のことを考えていないと近江は恵莉子に同意しない。そこから言い合いに発展し、恵莉子も近江が子供みたいに すねていると言ってしまう。こうして2人は相手を理解できなくなり、正式に別れ話にまで発展してしまう。そして恵莉子は それを受け入れる。

読者には2人が本当に相手のために動いているのが分かる。ただ やっぱり2人とも守りたい相手とか叶えたい約束が本来のものから ずれている。2人は寄り添おうとすると傷ついてしまうハリネズミのジレンマのようである。

だが作者は読者に苦しい思いをさせるだけでなく、最後に一縷の希望を用意している。紗羅とレオの話の周到な用意といい、作者は恵莉子たちと違い全体を見渡す広い視野を持っている。


ざかるカップルもいれば近づくカップルもいる。紗羅とレオである。

コンテスト会場で紗羅は、同級生でバイト先が同じ女性・アヤカと一緒に会場に来たレオを目撃する。レオを遠ざけつつもレオの一番近くに居る女は自分だと思っている こじらせた紗羅はレオに八つ当たりをして、その態度をアヤカに たしなめられる。なぜならアヤカにとってレオは「好きな男」だから。『9巻』でアヤカが 寝ているレオに無断でキスをしたのも恋心が募った末の行動だと思われる。

こうして正式に三角関係が成立する。2人の関係を目の当たりにして立ち去ろうとする紗羅が照明機材のコードに足を引っ掛け、証明が紗羅の側に倒れる。それから守ったのはレオ。その時レオは紗羅が自分の腕の中で赤面しているのを目撃し、彼女の気持ちが自分にあることを知る。そうしてレオは これまでは つかず離れずだった距離感を変更することに。一方 レオは鈍感でアヤカの発言は自分を「仲間」として擁護したと思っている。あれっ アヤカさん ライバルにも なれていない…。

どんなに罵られても離れなかったレオ。いよいよ紗羅が変化を見せ、自分のスイッチを入れる。

オは紗羅が家族同然の自分を男として意識していることを知り、自分もリミッターを外す。そして紗羅に自分のことが好きかを問う。それでも強情な紗羅に対して強硬手段に出ることも出来るが、レオは理性を保つ。だが紗羅は陥落寸前。

それでも紗羅が素直になれないのは、幼い頃の両親の関係が決して良好ではなかったから。苦労した母親から男という生き物について色々と吹聴された結果、紗羅は現実の男性に興味を持てずにいた。これは一種の虐待ではないか。そんな植え付けられた思想を紗羅が どう脱ぎ捨てるのだろうか。

幼い頃、両親の喧嘩が始まると逃げ込んでいたのがレオの部屋だった。そして その頃からレオは紗羅のことが大好きだった。そして今は守られている彼女を守れるようにレオは誓い、その時に安心して自分を好きになってよ と彼は約束してくれた。中学に上がったレオは金髪になり、紗羅との約束なんて忘れたと思っていた。だが見た目は変わったが気持ちは変わっていないことが分かり紗羅は困惑していた。
ちなみにレオが金髪にしたのは、男性に絡まれやすい紗羅を守るため。自分の見た目よりも紗羅のことを優先する なりふりの構わなさである。

恵莉子は紗羅の相談相手になり理想通りの人でなくても恋に落ちると先輩として助言する。そして紗羅の本音を引き出す。開始当初は まさか恵莉子が恋の指南役になるとは思わなかった。作中で流れた時間の長さを感じる。


オが風邪を引いたという話を聞いた紗羅は お見舞いにレオの家に向かう。風邪が伝染(うつ)ることを危惧したレオは紗羅に退出を願うが、恵莉子の話を聞いたからか紗羅はレオを守ろうと体調の悪そうな彼をベッドまで連れていく。

だが風邪によって理性のラインがいつもより甘くなったのかレオは紗羅をベッドに押し倒し、彼女に触れようとしてしまった。何とか自制心を取り戻したレオだったが、彼は誠実であり続けることを誓った自分の弱さを嫌悪する。紗羅は決して嫌ではなかったのだが、それを伝える素直さを持ち合わせていなかった。

自分の取るべき行動を悩んでいた紗羅は、マンションのエントランスでアヤカに遭遇する。どうにか2人の接近を阻止しようと紗羅は対抗意識を燃やすが、アヤカもレオとキスをしたという事実だが真実ではないことで応戦する。


うして追い詰められた形となった紗羅はレオに気持ちを伝えようと覚悟を決める。必死に恋をしているアヤカを見て、幼なじみという立場に甘えていた自分に気づかされた。だから紗羅は1人の女性としてレオに選ばれる自分になろうとする。
その相談を紗羅は再び恵莉子とするのだが、この日 紗羅は学校を休んでいて、恵莉子が大変な状況になっていることをしらない。それでも自分の事情より紗羅に付き添う恵莉子は偉い。恵莉子が紗羅に話さないのは遠慮や距離があるのではなく、紗羅の決意に雑音を混ぜたくないという親友の配慮だろう。後で事実を紗羅が知っても謝ることはあっても、以前のように聞いていないと悲しむことはないだろう。

復調したレオはバイトしているということで恵莉子と紗羅はバイト先に連れ立って歩く。だが その途中、バイト終わりの近江に遭遇し、紗羅だけでレオに会いに行き、2人は その場に残される。
紗羅が戻るまで恵莉子が1人になることを心配した近江だったが、恵莉子は強情に彼を家に帰そうとしてしまう。あっさりと引き下がる近江の背中を見届けて恵莉子は自分たちが別れたことを痛感するのだった…。

だが近江は戻ってくる。好きな人を守るために なりふり構わないのが人を好きになること、とバイト先でレオから教わったばかりだから。