《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

誇大な妄想によって膨らむバナナはオレが背負う新たな重圧 #男の沽券 #男の股間

恋わずらいのエリー(9) (デザートコミックス)
藤もも(ふじもも)
恋わずらいのエリー(こいわずらいのエリー)
第09巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

地味だけど妄想が趣味の女子高生・エリーと学年一のイケメン・オミくんは交際を学校でもオープンにするほどラブラブ絶好調! でもある日、エリーのお父さんにキスを見られてしまう。お父さんに反対され大ゲンカしてしまうエリーだったけど、オミくんに背中を押してもらって無事仲直り。しかも、勢いでオミくんがエリーの家族の前で“結婚宣言”まで飛び出しちゃって!? しかも、そのままオミくんがエリーの家にお泊まりすることになっちゃった!!!!! これってもしかして…!? #病める時もすこやかなる時も妄想すると誓います変態地味女子のアブノーマルLOVE 第9巻

簡潔完結感想文

  • 同じ家で同じ布団に寝て結婚生活を疑似体験。そして夫婦生活も疑似体験。
  • マリッジブルーのように本番前に不安になるので先生夫婦を逆 家庭訪問。
  • 将来の約束、相手の同意、そして自信が持てる自分。近江の理想の三条件

想も妄想も膨らみ続ける 9巻。

今回も近江(おうみ)の環境整備は続く。「未経験男子」である近江は恋人・恵莉子(えりこ)との「初めて」を異常なほど こだわっている。この『9巻』では近江がクリアするべき3つの条件が描かれていたように思う。

1つが将来の約束。今回、近江は彼女の家族の前で結婚を口にする。それだけ自分が真剣に恵莉子との交際を考えており、だからこそ恵莉子の家族(特に父親)とも良好な関係を築きたい。長い目で彼女との交際を考えているから、いい加減なことはしたくない。そんな近江の誠実さが溢れた一コマである。ただ考えようによっては、将来 一緒になるんだから、娘さんが もうすぐ疵物(きずもの)になるのは許してもらえますよね(ニコニコ)、という笑顔の脅迫であり、父親としては そんな話は聞きたくないだろう。

2つ目の条件は恵莉子の同意。2人が互いに心から望んでする という確約が欲しい。この2人はともかく、最近は同意を得ないと後から とんでもないトラブルに巻き込まれるような社会になりつつありますからね。
恵莉子は妄想を現実にすることをエネルギーに変換してきたが、妄想が先走っていて性行為に対しての現実的な心構えが出来ていない。そんな彼女が どう未知の体験と その不安や恐怖と向き合うようになるのかが描かれる。ただ後述するように恵莉子側の暴走はキスの時と似た内容である。「バナナ」には大いに笑わせてもらったが。

そして3つ目の条件が近江の自分への自信である。これまで近江は その容姿によって役割を与えられてきたところがあるが、今回、自分のために大きな挑戦を始めた。これもまた恵莉子を抱くのに相応しい男になるためである。愛と言えば愛だし、性欲をエネルギー変換しているだけといえば、そうであろう。

周囲の理想に形を変えるのではなく、自分の理想に自分を成長させる。近江の最終進化が始まる!

全体的に近江の条件は規模が大きく、ここまでしなければ性行為に及べないのか、と彼の純朴さが心配になってくる。今回、恵莉子は妄想を膨らませて結果的に自分が不要な心配に呑み込まれていったが、それに負けないぐらい近江の理想も膨らみ続ける一方である。
そのハードルを越えるための努力が、早くも2人に すれ違いを生じさせているように見える。終盤の大きな展開なのだろうが、近江は自分で自分のハードルを上げ過ぎて、飛び越えられなくなったり、「初めて」で不手際や失敗があって自分に落胆しないか心配である。特に恵莉子の「バナナ」知識を事前に聞いていなかったら、恵莉子に勝手にガッカリされていたかもしれないところだった。相手に勝手に期待され、失望されるのは近江が一番 嫌う流れなので、トラウマになりかねず 本当に危なかった。

作中で性行為は生物としての自然な欲求によるもの という考え方を提示しているのに、ガッツリ頭でっかちなところがアンバランスだ。私としては2つ目の条件をクリアした段階で本番を迎えても よかったのではないか、と思う。3つ目は近江側の自己満足の色が強すぎる。それもこれもクライマックスを用意しなければならない必要性なのだろうけれど。


江が恵莉子との結婚宣言したことで恵莉子の市村(いちむら)家は大騒動。
その後 なぜか近江は そのまま恵莉子の家に泊まることになり、お泊り回が始まる。恵莉子は寝支度をする近江よりも先に客間の布団に潜り込み、彼を待ち伏せる。そこで恵莉子から、近江が一番 気にしていた恵莉子の父親が自分の存在を認め始めてくれていることを聞かされ、彼は安堵する。これで近江は彼女との理想の性行為の達成に大きく近づいた。

母親が客間を開けようとした時、2人でいる状況は近江の信用問題に関わるため一緒の布団に潜り込む。これは修学旅行での同衾と同じですね。もちろん肉体の接近にドキドキする状況だが、今の2人にとっては結婚のシミュレーションの意味合いが強い。恵莉子の家なのでキスを自重する近江だったが、代わりに互いの鎖骨や首筋に唇を当て、逆に これまでにない昂りを味わってしまう2人。これよりも すごいことが扉の向こうでは待っている。

しかし目前に迫った春休みでは近江は塾の講習を受けるという。これは近江の将来に向けての頑張りの象徴であったり、この気持ちのまま2人が会うと一気にコトに雪崩れ込んでしまう雰囲気を回避する意味があるのだろう。一回、落ち着いて何もしないことが本気度を示すことになる。

恵莉子の容姿の評価は作中ではないが、男性からは何だか表情がエロい子と思われていそうである。

休みが終わり、2年生に進級する。なんと恵莉子は紗羅(さら)・近江の初期メンバーと同じクラスになる。どうせなら要(かなめ)も、と思うけれど、彼がいると近江の心は休まらないし、要は彼自身の世界を広げる時期なのだろう。どうも上手く話に絡めることが出来ず、役割を終えて作品外に追放されている感じが出てしまっているが…。

新しいクラスメイトには近江の熱心なファンがいて、恵莉子は彼女たちに囲まれる。だが彼女たちは恵莉子と同じ変態を少々たしなんでいる人種で意気投合する。むしろ重要なのは彼女たちが近江以外の男性と経験済み、ということだろう。そこで恵莉子は彼女たちの性体験を学習する。そして近江が自分に覚悟を持つ猶予を与えてくれ、そこに彼の真剣さや誠実さを感じる。

だが変態の一面が強い恵莉子は そんなことより男性の下半身情報を聞いてパニックになる。そこから性行為への恐怖心が芽生え、近江の欲望を叶えられない、または行為後に近江を失望させるかもしれないと恵莉子は近江と上手に接することが出来なくなる。
なんだか全体的に『3巻』のキスにまつわる話との重複を感じる。恵莉子が女子生徒の話に翻弄される展開も、それ自体を目的にしてしまって相手のことを考えない余裕の無さも同じである。初めてのことだし、大きな転機なので悩んで当然のことなのだけれど、ここまで重複を回避してきた本書においての初めての重複だと残念に思う部分もある。リアルな保健体育で ためになる部分もあるように思われるが。


莉子の中には近江が好きすぎてエロいことをしたい自分がいるが、同時に嫌われる未来への不安が膨らんでいる。恵莉子はエロいことをしない=近江に近づかなければ その未来を回避できると考え、彼との物理的接触を断つ。

そんな「性」について恵莉子の頭がいっぱいな時、近江の叔父である汐田先生に子供が生まれたことを知る。さくら に続いて14年ぶりの第2子である。近江は当然 知っていたが、汐田が生徒に公表していないので黙っていたらしい。ここは後付けっぽい話である。ただ それが悪い訳ではなくて、さくら と出会った『5巻』の時も汐田先生の妻は妊娠していたのか、という意外な事実が叙述トリックっぽいと思った。


2人は一緒に その赤ちゃん・すみれ に会いに行くことにする。妻の百合(ゆり)さん を含め女性たちは花の名前なのか。しかし恵莉子は汐田先生の お宅でも近江を意識するあまり彼を遠ざける。その雰囲気を察した百合さん は人払いをして恵莉子の話を聞く。

そこで恵莉子は自身の抱える性の悩みを話す。そこで百合さんは子供を生んだ女性としての意見を恵莉子に話す。これは恵莉子の同級生にはできない経験談で、百合さんという人の配置の仕方が上手い。百合は、恵莉子は性行為自体を目的化しているが、本来 生物としては その先の子供の誕生を目標とした生殖行動であることを伝える。それは近江の考える将来や結婚に繋がる話であると思い当たった恵莉子は近視眼的になっていた自分の考えをほぐす。


一方で近江は恵莉子の態度に悩んで、汐田先生の家に戻らずにいた。自分が将来など重い話を持ち出したから、飽きられたからと彼の意外とネガティブな一面が顔を覗かせる。

そんな彼を恵莉子が迎えに行く。現実的なピンチじゃないけど、近江の落ち込みを恵莉子が救うヒーロー側になっている。そして恵莉子にも近江を背負うことが出来る。これは今後の人生において2人で互いのピンチを助け合うという事例だろう。

そして彼を背負いながら恵莉子は自分の抱えていた悩みと過った行動について話す。そして自分は性欲や興味より先の愛に到達したことを告げる。また恵莉子は これまでの一から十までを近江にも話す。クラスメイトから聞かされた男=バナナ説も話してしまうが、これは逆に近江=男性側を委縮させる話だろうと思われる。誇大に妄想されたら期待外れだと思われてしまう。近江は先に聞かれて修正しておいて良かったかもしれない。


2人が精神的なハードルを越えて、いよいよ近江が望んだような環境が整う。しかし この頃、周囲が騒がしくなる。なんと近江が日本一のDK(男子高校生)を決めるコンテストに出場したという話題で持ち切りだったからだ。これは恵莉子に避けられて消沈の近江が、コンテスト出場を促した女子生徒の話をよく聞かずに生返事をしてしまったことが発端である。この話にもちゃんと伏線があって、唐突さは それなりに軽減されている

誤解から始まったコンテストの出場。当初、近江は出場を辞退するつもりだった。なぜなら コンテストは人を外見で判断する要素が多く、そして周囲は近江に勝手に期待し、そして失望し、やがて彼を批判する。その一方的な流れでダメージを追うのは近江で、彼はそれが嫌で周囲が期待する自分になるために努力してきた。万能なイケメンと八方美人というスキルは彼の精神の防衛手段でもあった。やっと八方美人を止めて、背負う物を少なくしてきたのに、また過剰な期待(と その反動)が近江に のしかかる。

だが恵莉子が、クラスメイトの推薦を受け、活動量が多い大変な体育祭実行委員をやってみようと考えたことで、近江は自分も周囲の期待や、恵莉子の応援に応えようと考え始める。彼女が誇れる自分であることが、近江の理想になっていく。

こうして恵莉子は体育祭実行委員に、近江はコンテストに向け動き出す。だが それは2人が互いに多忙になり、一緒の時間が持てないということでもあった。物語の序盤から距離が近かった2人だから、ここまでの すれ違いはあまりない。いよいよ終盤らしい展開となっていく。

そしてコンテストという大きなイベントを前に話が単調にならないように、紗羅とレオ先輩、そして もう1人の女性による三角関係を作品は用意する。これまで幼なじみのまま つかず離れずの関係だった紗羅たちに大きな変化が訪れようとしている。普通なら あまり興味の持てない「友人の恋」枠ですが、どちらかというとコンテストの方が興味が持てないので、こちらに期待します。