湯木 のじん(ゆき のじん)
これは愛じゃないので、よろしく(これはあいじゃないので、よろしく)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
大家と出かけたイブの夜。どうする九条くん!? 何かが起こる、クリスマスナイト!の巻 文化祭で九条くんへの気持ちに気づいたさら。大家くんとは気まずいままだったけど、友達たちがさらと大家くんをクリスマスイベントに誘い一緒に過ごすことに。九条くんのことが気になるさらは思いきって誘ってみるが、大家くんが一緒だというと断られる。さら、九条、大家の3人の気持ちがすれ違う切ない恋のクリスマスの夜がやってきます!
簡潔完結感想文
- 冷徹な人間に思われた大家は自分に正直な人。そんな彼が空気を読む行動に感動。
- クリスマスに観覧車という絶好のシチュエーションなのに無言で向かい合う。
- この恋を応援してくれる優しい人たちのために さら は一歩前に進もうとする。
両方 プライドの高いボケという扱いづらい立ち位置 の 3巻。
互いの相手への不信感から、いつも同じループに入ってしまって、両想いへの期待感よりも作品への失望が大きくなりかけた頃、話が進んでくれて大いに安心した。それもこれも当て馬のセッティングのお陰である。
ただ両想いになったことを確認し、交際へと進む2人は肝心の言葉を相手に言っていない。それはまだ2人が どこかプライドと相手への不信を抱えているからだろう。交際を通じ、2人が徐々に自分の こだわり を捨てられれば いいのだが…。
私が本書で好きなのは主役の2人、どちらも欠点がある所である。
そもそもは恋愛に対する姿勢は一緒だったはずなのに、1人は純粋培養した愛を こじらせ偏食になり、1人は女性に もてあそばれた過去から愛を求めすぎて雑食に なってしまった。
特にヒロインに明確な欠点があるのが目新しく映る。本書のヒロイン・さら は周囲が見えていない。その天然さで傷つけたのが小学生の頃のヒーロー・翼(つばさ)であった。愛を信奉している彼女だが本当に守りたいのは自己愛なのかもしれない。自分が正しいと思い込んで生きる彼女が、実際の恋愛を通して自己の欠点を学び、自分を修正していく。完璧な存在じゃないから可愛らしく、間違えるから成長もする。そんな自分を客観視するような視点があるから不思議な笑いと雰囲気を醸し出している。
また、通常 今回のような恋愛偏差値や頭脳に差があるカップルでは、暴走するヒロインを優しく軌道修正するのがヒーローの役割。だが本書ではヒーロー・翼もまた夢見がちなのが面白い。
翼は さら の言うことを曲解する。彼女の言葉を時に自分に都合の良いように捉え、時に彼女の言葉で自分だけの妄想を暴走させたりする。
クールに見えて実は熱い男なのが翼で、そんな自分を隠蔽しようとするから騒動が起きる。翼も徐々に学習しているみたいだが、自分が小学校時代の「ダイアナ」の恋愛に こだわっていることに気づいた時、彼はまた成長するのではないか。
結構 ボケボケな2人なのに、自分が こだわりの強い人間であるとか、相手に弱みを見せないようにするとか、かなりのプライドの高さが見え隠れする。だからこそ2人の関係は一筋縄ではいかない。
変わり始めたのは当て馬・大家(おおや)も同じで、彼は冷たい人間に見られてしまうのが悩みだった。空気が読めないと周囲から白眼視されるような彼の性格は、リアリストの彼が熟考した言葉。それが周囲の反感を買うことで彼は孤立していたのかもしれない。
ただ今回、そんな彼が熟考せず、自然と身体が動いた体験をしたことで、彼の性格は少し変わっていくだろう。
主役たちも面白い性格をしているが、大家や犬飼(いぬかい)など一風変わったキャラクタに会えるのも本書の楽しみである。それぞれタイプの違うイケメン図鑑としても楽しめる。一方、女性は外見が似すぎている。どの人も同じに見える時があるのが本書唯一の欠点ではないか。目が似すぎなのだろうか。
そんな周囲の人間たちの中で、『3巻』では主役たちの背中を押す人たちの存在を強く感じた。さら のために意に そぐわない行動をしてくれた大家はもちろん、さら の友達や犬飼も なかなか動きそうにない2人の背中を押してくれている。そんな彼らの優しさが胸に沁みた。
2階から落下し足に怪我をした さら は数日 学校を休んでいる。そんな彼女の勉強の遅れを友達たちがカバーすべく、さら の自宅で勉強回スタート。
だが そこには女友達3人の他に翼と犬飼がいた。女性陣は さっそく恋バナに花を咲かすが、さら から大家の存在を排除したい翼は強硬手段で勉強へと導く。それでも真面目に勉強をするのは さら と翼ぐらい。
その際 さら は翼が自分をダイアナと呼んだ発言をツッコむ。だが翼は墓穴を掘った部分なので、ガン無視。そして皆が帰った後の2人きりの会話では、翼は攻守交替で さら の好きな人をツッコむ。ここは さら としては翼への好意を自覚したばかりで踏み込まれたくない所。名簿順に否定していたが、翼だけは否定とは違う「知らない」という言葉で対応する。その顔は真っ赤に染まっていた。ここで中断しなければ翼は彼の方から動いてくれただろうか。
コンビニで大家に会っても さら を無視することが判明した頃、街はクリスマスムードが近づく。
さら は翼の勉強のお礼としてプレゼントを用意することにした。その帰りに大家に遭遇し、彼が必死っぽかったことから、さら は勇気を出して彼に声を掛ける。天然な さら だが、こういう人への優しさや察知能力は高い。『2巻』では様々な方向で逃げていた彼女だが『3巻』では一味違う。
そこで さら は大家の飼い犬が脱走したことを知る。無事 発見した後、大家は自分について語り始める。どうやら彼はリアリストな発言で、空気を読まない男だと思われ、それが周囲との軋轢となってしまったらしい。そして それがモテそうなのに彼女がいなかった原因。中学時代は女子生徒から冷たい人間だと思われたため、恋愛に発展しなかった。
そして今回の彼女=暇つぶし発言も、大家なりの熟慮の末の言葉だった。確かに歌の歌詞にも「恋は永遠の暇つぶし 遊びましょうよ ……なんてね(『紳士同盟』)」とあるし、楽しい暇つぶしと言えなくもない。
暇つぶしというネガティブに聞こえる言葉だが、大家はそれに さら を選んだのは確か。そこに好意がなければ苦痛になってしまう。文化祭でレンタル彼氏に立候補した時点で かなり気持ちは傾いていたか。
そんな大家と さら のクリスマスは、友達カップルと大家を交えたダブルデートになる。
だが さら は それに抵抗する。なぜならクリスマスは恋人たちの愛の日であり、そして自分が その日に男性の優しさに触れたりしたら コロッと いってしまうから心配なのだ。最近の さら は自分の弱点をよく理解している。1話の翼の逆襲の お陰か。
大家は そんな彼女の心情を察して、クリスマスに翼も呼べばと提案してくれる。だが さら には高いハードル。だが勇気を出して誘っても翼は なぜか不機嫌になってしまい、最終的には断られる。この時の翼の心理は後々に発表されるが、なかなか面倒くさい人間だ。自分の都合の良いように言葉を変換されては、その怒りの原因を推理することすら出来ない。
クリスマス当日は、さら は大家を避け友人と一緒に行動するが やがて本物のカップルは2人で行動してしまい、大家と2人になる。
大家は残念ながら さら の心境を知っているから、翼に電話をかけて彼を呼び出そうとする。しかし翼の電話に出たのは女の子だった。彼は楽しくクリスマスを過ごしているらしい。
だが悲しむだけでなく さら は翼に会いたい気持ちをはっきりと表明することが出来た。そして この日は翼の誕生日で親族でお祝いしていることが判明。
どうやら翼は12月が自分の誕生日だから、さら からのプレゼントの予感に舞い上がっていたらしい。更には お花畑の彼の脳内変換で自分の中で妄想が進んでいた。それが翼には さら の言葉がチグハグに聞こえ原因である。
それに羞恥する翼だったが さら に会いに来ることになった。大家は自分の役割を果たして帰ろうとするが、これで縁が切れる予感がした さら は大家に来年もよろしくと声を掛ける。その言葉に大家は反応し、さら を抱擁する。
それが彼の本当の気持ち。だが さら は揺るがない。大家もそれを分かっている。自分の気持ちに正直になるのであれば本当は別の気持ちなのに、今回ばかりは空気を呼んだ。
そして合流する2人。ここでも2人はそれぞれに自分に都合の良い展開を期待する。自分が膠着状態を打破しようとしないところが2人の怠惰な部分である。
さら は恋人と見ると決めていたイルミネーションに翼を誘う。さら のルールを知ったら翼は小躍りするだろう。
その後、少女漫画で一番大切な乗り物、観覧車に2人で乗ろうとするが、その前に2人は互いに傷ついてばかり。さら は翼の発言から元カノの存在を感じるし、翼は大家と名前を間違われる。だから2人は どうしても互いに信頼が置けない。しかも さら には大家、翼にはダイアナがいて、いつもその存在が仮想敵になってしまう。
観覧車待ちでクラスメイトに関係性を聞かれ付き合ってないと否定したことで2人の温度は冷めていく。観覧車に乗っても何も話さない。通常とは逆で密室だからこそ会話がないと冷え冷えとした空気が広がる。
あっという間に帰宅の電車に乗り、別れの時が迫る。電車を降りようとする翼に さらは買っておいたプレゼントを渡す。
だが別れがたい さらはプレゼントを持つ手を離さない。もう少し一緒にいたい、そのさらの気持ちを翼が察し代弁してくれたことで、2人は駅のベンチに並んで座る。
そこから もう二度と同じループに陥らないためにさらは勇気を出す。精一杯の言葉を連ねるが、告白というには微妙な内容。だが翼は さら の気持ちを受け取りキスをした。
どちらも好きと言わず、なんとなくで結ばれる2人。これは その後の展開で その言葉は使われるということなのだろう。なぜなら翼はダイアナのトラウマを克服・告白していないから。
この日の別れはあっさりで、次に会う約束もしない。そのまま年が明け、連絡も来ないまま。
そんな2人の状況を知った友人のアドバイスでさらから連絡をして、翌日会うことになった2人。逃げはしないものの、このところ さら は誰かに背中を押してもらって何とか距離感を縮めている。
場所は翼が現在 住んでいる彼の祖父宅。誰もいない2人きりの空間だが、2人は真面目に勉強をする。2人が交際しているという確証が欲しくて雰囲気にしたい さら。向かい合わせで座っていたが自分から翼の隣に座る勇気を見せるが、そこに従姉妹の女の子や犬飼が乱入し、雰囲気は壊れる。
翼の心理が分からなくて不安になるさらだったが、翼の無二の友人・犬飼は平時の翼との違いを見抜いていた。そのことを知り さら の心は軽くなる。犬飼のアシストで会話が弾む2人だったが、これが翼に誤解されてしまう。
その誤解の解消のついでに さら は翼との交際に話を持っていく。
こうして2人は正式に交際を始める。だが翼が さら にすべてを見せる覚悟がないのは変わらない事実で、交際直後から暗雲が立ち込める…。