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少女漫画と小説の感想ブログです

匂わせることなく思い出だけを重ねてきた秘密の交際なのに写真を撮られて マスコミに流出!?

True Love(4) (フラワーコミックス)
杉山 美和子(すぎやま みわこ)
True Love
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

9年ぶりに再会し、兄妹でありながら惹かれ合ってしまった愛衣と弓弦。ついに想いを打ち明けあい、恋人同士になったふたりだけれど・・・。ずっと弓弦に想いを寄せていた、愛衣の友人・ナナヨ。彼女の存在が、愛衣と弓弦の秘密の恋に、大きな影を落とす!? いよいよ深まっていく禁断の恋、驚愕の展開が待ち受ける、第4巻!

簡潔完結感想文

  • 偽装交際、辛い恋、振られても前向き。全部 当てはまるナナヨこそ正ヒロイン。
  • 反対に友人の恋を応援する振りをして裏で交際している愛衣には邪道ヒロイン。
  • 禁断の恋も、不倫も、芸能人・教師との恋も、バレる直前が読者の一番の悦楽。

い出だけでは つらすぎる 4巻。

本書が面白いのは、切なさと緊張感の配分が絶妙だからだろう。これまで愛衣(あい)と弓弦(ゆずる)の許されない兄妹間の恋愛を、性的マイノリティの恋愛との類似点や、不倫モノのような描写を指摘してきたが、『4巻』は芸能人の恋愛みたいだと思った。

愛衣たちは、自分たちの恋愛が周囲にバレたら大騒動になることを理解している。大切にしている家族や、自分に優しい友人を裏切ってしまうことは確かだから、彼らは交際したばかりなのに常に警戒心を怠らない。2人が会うのは絶対に自分たちを知っている人がいない場所だけだし、公私をしっかりと使い分け、学校では相手の呼称を変え、ただの兄妹であることを演じている。

そして若い彼らが禁欲的なのは、証拠に残るようなことを一つもしないこと。特に写真に関しては慎重で、2人が顔を並べて写真を撮ることも2人は自制する。撮影したとしても人物が特定されない、互いの小指を絡めた写真ぐらい。いつでも相手のことを思い出せ、そして2人が交際している確たる証拠になるから、本当なら何度も自分たちの幸福な写真をスマホの中に収めたい。しかし彼らは自分たちの交際を自分たちの思い出の中にだけ閉じ込める。それが自他を守ることだと信じて…。

「普通」の恋愛じゃないから、恋人たちがする「普通」が出来ない。彼らは写真一つ残せない。

しかし彼らの交際が第三者に露呈してしまうのが一枚の写真だというのが皮肉である。それは彼らが与り知らない第三者が撮影した写真。本人たちに許可なく撮影された写真は、マスコミに取り上げられ、そして その波紋は やがて彼らを呑み込んでいく。この経過が まるで芸能人のスキャンダルのようであった。


書が面白いのは誰もが正しく、誰もが正しくないという人のグレーな面を描いている点である。

少女漫画的にはヒロインの愛衣も、友人に嘘をついているし、しかも兄と交際するという社会的な罪を根本的に背負っている。それは名実ともにヒーローである弓弦も同じ。

どちらかといえば『4巻』中盤までは、友人・ナナヨの方が清く正しいヒロインである。好きな人を追いかけるために猛烈な努力で難関校に入り、その人=弓弦の連絡先を手に入れる。入学後は積極的に動き、本心の分かりにくいヒーロー・弓弦に振り回されながら交際が始まり、そして彼側の問題で一方的にフラれる。それでもナナヨは弓弦を恨んだりせず、その妹である愛衣とも良好な関係を築こうと健気に頑張った。やがて もう一度 立ち上がり、弓弦を諦めない気持ちを大事にする。

もしナナヨがヒロインの少女漫画があれば、もう一度 弓弦に対して頑張る気持ちが実ってハッピーエンドになるところだろう。それだけナナヨは自分の恋心を大事にしてきた。愛衣に対しても弓弦の妹だから優しくしている訳ではなく、ナナヨは愛衣を あからさまに弓弦へのコネとして使ったことはない。誰も責めない、辛くても立ち上がる姿は清純なヒロインそのもの。

だが、そんなナナヨも やがてダークサイドに堕ち、愛衣に対して悪意を持つ。少女漫画的には作品のヒロインに対して悪意を持った時点で、彼女は作品内で幸せになることはなくなる。それだけヒロインという存在は絶対だ。しかしナナヨを責めることは出来ない。なぜなら その作品のヒロイン=愛衣こそが、最初にナナヨを騙していたから。

けれど同時に愛衣の抱える気持ちは切なく、彼女は嘘をつく自分にも しっかりと罪悪感を抱えている。それに上述の通り自制的で禁欲的に生きている。それでも彼女は倫理的に許されない恋をしているから全面的には支持できない。

登場人物たち それぞれに応援したい部分と出来ない部分が混在している。だからこそ本書は多角的に面白く、穢れた純愛という矛盾を成立させているのだと思う。

2人の交際も早かったが、たった1巻分、ひと夏で彼らの交際は周知のものになろうとしている。話の展開が早く、そして構成も しっかりしている。苦手な兄妹モノなのに好き、という私の中の矛盾が成立している。

ずっと好きだった人との恋が終わっても、誰も責めることなく前を向くナナヨは間違いなくヒロインだ。

断だと承知しながらも、自分たちの恋心が本物だと信じて、交際を始めた2人。でも幸福は破滅と表裏一体。少しでも油断すれば周囲に関係がバレて家族が破綻、そして弓弦の正式な交際相手で、愛衣の友人でもあるナナヨを傷つける。

ちなみに弓弦は即行でナナヨと別れていた。危惧された二股問題は時間にすれば数時間に過ぎない。でも時間の問題ではないので、この点で弓弦も罪を抱え、絶対に許されない存在になっている。

ナナヨは泣き腫らした目で登校し、そして強がりも含めて弓弦との交際を笑顔で締めくくろうと努め、元・交際相手の妹である愛衣に友情の継続を誓う。ナナヨが聖人であればあるほど、愛衣は自分の汚さを痛感してしまう。ナナヨを間接的に悲しめているのは自分なのだが、それを正直にいう訳には絶対に いかない。懺悔すら許されない恋なのだ。


衣は、友人たちがナナヨを励ます会を開く裏で、弓弦とデートしていた。ナナヨとの友情は愛衣にとって そんなものなのかもしれない。

弓弦は2人きりでいるときは愛衣の「お兄ちゃん」呼びを禁止する。これ、好きな人に名前で呼ばれたいのは自然な願望だが、もしかしたら弓弦は兄妹という事実から目を逸らし、罪悪感を薄めたいからかもしれない。

デート中もナナヨの話題は避けられず、弓弦は「兄」でいるためにナナヨを利用したことを告げる。そしてナナヨを傷つけた罪は自分だけが背負うというが、愛衣は それを半分引き受ける。それは この恋愛においても同じだろう。どちらかが強引に迫ったり、脅迫やワガママではない、2人がお互いを求めた結果である。

だが1学期が終わる頃、弓弦から別れの理由を聞かされていないナナヨは、もう一度 弓弦にアプローチすると決めていた。ヒロインは強いのだ。


休み、ナナヨは愛衣を旅行に誘う。前向きな彼女の表情を見て愛衣も心を動かされるが、ナナヨは そこに弓弦を誘うという。弓弦と2人で海に行くためにテストを頑張った愛衣だが、2人きりではなく弓弦のクラスメイト・修二(しゅうじ)を含めた4人になってしまった。この巻での修二は存在感 薄め。

旅行中のナナヨは積極的。一方、愛衣は これまでは奪略する側だったが、今回は される側に回ったと言える。そして相手は無自覚が故に、好きな人を奪われる恐怖と1人で戦わなくてはいけない。

そんな愛衣の不安を発見するのは いつも弓弦。だが海岸の「恋人モード」の2人をナナヨは目撃してしまう…。ここでナナヨに疑惑の萌芽が生まれたからこそ、この後の展開になる。

4人が宿泊した宿の主人たちは、事情を知らないがゆえに愛衣たち兄妹を恋人だと勘違いする。だが兄妹と分かると気持ち悪いこと言ってごめんと謝罪するが、この気持ち悪い、変態という言葉こそが2人の恋に対する世間の声だということを愛衣は痛感する…。


日の夜は花火大会。

だがナナヨに「恋人モード」を見られていた可能性を知り愛衣は兄妹として自然に振舞うことが出来なくなる。第三者から見て不自然じゃないようにしなければ、という意識で身体が硬直してしまう。そんな愛衣の不安を弓弦は察知して解きほぐす。それでも警戒するために、人前では距離をおくことを愛衣から提案する。それが この恋を、弓弦を、周囲の人を守ることだと信じて。

花火大会はクルーズ船で海から観賞することになったのだが、席は2:2で別れており、その席決めで揉める。弓弦は、修二の魔の手から愛衣を守るという名目で兄妹でグループになることを提案する。
だがナナヨから弓弦の隣の席を譲ってくれないかと言われ、愛衣は一瞬の逡巡の後、快くチケットを渡す。ここでは愛衣の警戒心と、そしてヒロインらしい優しさが一気に表現されている。

しかし愛衣が選んだ、修二がいると思われた席には弓弦がいた。彼は愛衣の行動を予測し、その裏をかいたのだ。距離を置こうとする愛衣を、弓弦は逆に近づく。この後の騒動は、弓弦の誠実さと慢心が招いたと言えよう。

弓弦の名誉を守るために、1人で距離を置こうとする愛衣だが、弓弦は自分のために身動きが取れない愛衣でいることが苦しい。弓弦は世間にどう思われても、この関係を知られても構わないという。周囲を気にして不安ばかりの交際より、愛衣には笑っていて欲しい。彼女を世界の全てから守るのは弓弦が担うという。それだけ弓弦にとって愛衣は大事ということだろう。

その気持ちを弓弦は愛衣への数え切れないほどのキスで表現したのだが…。


の後の夏休みも2人はデートをする。その中の一つは、愛衣の要望もあり、弓弦が1人暮らしをするアパートでのお家デートであった。

こうして愛衣は初めて弓弦の部屋に入る。そこでは2人は兄妹ではなく恋人として過ごす。異性を部屋に入れるのは心を許した証であり、愛衣が この部屋に入れたのも妹ではなく彼女としての立場である。

弓弦の部屋には、愛衣の写真ばかりが並べられたアルバムがあった。それを発見する愛衣だったが、今の弓弦は それを見られても動揺しない。自分の愛衣への尽きぬ愛情を見られてもいい立場になったから愛衣は この部屋に入れた、と言える。

誰にも見られない空間で、相手から愛されていることを実感する愛衣。だが その裏で、愛衣と弓弦の関係がナナヨに露見してしまうことを彼女は未だ知らない。


かぬ証拠となったのは新聞に掲載された1枚の写真。花火の下でキスをするカップルの写真が写真コンテストの金賞を受賞したという。

男女はシルエットしか見えない写真だが、女性側の髪には花の飾りが見える。それは花火大会直前に、ナナヨが自分の髪から愛衣につけてあげたもの。
ナナヨは当然、花火大会中、ずっと修二が隣にいたことを知っているから愛衣の隣にいるのが弓弦だということが分かる。その上、修二と弓弦の見分けがつくように、当日の服装が違うという事前の準備があった。修二が浴衣で、弓弦がフード付きの服を着ているという違いがあり、例の写真では男性側にフードが見て取れる。ここまで互いに特徴があってはナナヨに対し言い逃れが出来ないだろう。

にしても現実的な話をすれば、こういう写真の投稿って許されるんでしょうか。人物の特定が出来なきゃセーフなのかな。でも第三者のキス写真を撮るってロマンチックというより盗撮に近い気もする。それを大賞に選ぶ運営側の倫理観も変。まぁ この辺は展開優先で目をつぶらないと ならない部分でしょうが。
そして愛衣たちが この写真の存在を知っても、それに対して文句も言えない。もし声を上げたら人物が特定され、かえって2人の関係を周囲に分からせてしまうから。

写真を残さないように努めていた彼らの写真は こうして世間に流布されてしまった。


学期、ナナヨは愛衣に隠し事がないか問う。突然の問いかけでも愛衣は不安を気取られないように、堂々と嘘をつく。それぐらいの覚悟は出来ている。

しかし、その嘘こそがナナヨを傷つけた。精一杯恋をして、振られても前向きで、弓弦とも愛衣とも これまで通りの関係を営んできたナナヨは、その裏で彼らに騙されていた。

愛衣の嘘が判明してもナナヨは、愛衣を責めない。彼女を直接 非難したりしない。裏切られたナナヨの復讐は、愛衣の家庭に及んだ。ここは まるでW不倫のドラマのようである。ナナヨの復讐は、自分の幸せを奪った愛衣という不倫相手に責めるのではなく、相手の家庭が崩壊することを見ることで完結する。

ナナヨは愛衣の家を訪ね、愛衣の母の帰りを待っていた。そして母に、例の写真を見せた。

そして母は、デートをしている最中だった子供たち2人を緊急招集し、説明を求める…。思わぬルートから発覚した兄妹間の恋愛。そして その情報は、彼らが一番知られたくない人にまで届いてしまった。両親の離婚で崩壊した家庭を、次に壊すのは子供たちになるのか⁉

でも あの日の服装や状況を知っているナナヨには言い逃れ出来ないけど、ナナヨの説明しか聞いていない母には そこまでの確証が無いように思える。弓弦が機転を利かせれば言い逃れ出来るような気もするなぁ。さて、どうなる!?