《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

初日の出の光に照らされることのない私たちは新年も元気に そして交互に鬱ります!!

墜落JKと廃人教師 7 (花とゆめコミックス)
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

修学旅行はスキーへ!雪山遭難しJKと肌身寄せ合うイベントを心待ちにする灰仁。フラグは回収できるか…!?さらに、灰仁へのクリスマスプレゼントに悩む扇言、無茶な新年の抱負チキンレースの末、二人はついに…!?ますます盛り上がるキケンなつり橋効果LOVE!episode.39~44までを収録。

簡潔完結感想文

  • 扇言の原風景は灰葉の遺書に繋がる。灰葉の未練や執着は まだ伝えていないことがあること。
  • ある閉ざされた雪の山荘 のバルコニーで、男女が死ぬ。彼らはなぜ助けを呼ばなかったのか…。
  • 不眠は口移しの大義名分(2回目)。灰葉容疑者は愛しすぎた女性に5リットルの水を与え続けて死なす。

きのラリーと鬱のラリーが同時に展開する 7巻。

新キャラが登場する偶数巻ではなく奇数巻なので主に2人のエピソードとなる。学校イベントの修学旅行はあるものの体育祭(『4巻』)や文化祭(『5巻』)に比べて更に動きが少なく、まるで地元にいる時と同じような会話劇が続く。本当に雪山遭難イベントなんて起こしたら生存願望の希薄な この2人は甘美な心中だと実行しかねない。

また『6巻』では扇言(みこと)がイベント後 鬱になっていたけれど今回は冒頭から灰葉(ハイバ)が病み期に突入していることが分かる。交互に不調になることでエピソードのメインが代わるのは本当に少女漫画では珍しい構成だ。
灰葉は遺書をしたためたり悪夢を見て不眠傾向があったりメンタルが安定しない。恐らくこれは扇言の過去に関係する彼女の原風景を表した絵画(芸術品)が影響している。その絵と その関係者である扇言の兄・詞(つかさ)と接触したことで灰葉は情緒不安定になり今回は扇言が彼の心配をする場面が多くなっている。特に遺書は伏線で、重要な意味を持っていることが後に判明する。以前も書いたけれど、こういう物語の縦軸を日常回の中に潜ませている技術の高さに脱帽する。早い段階から作者には背景が見えていてクライマックスの用意が出来ている。

一般的なヒーローが遺書を書いたら驚くが、灰葉なら それも通常運転に見える

今回は何と言ってもラストの夢オチが秀逸。次巻のあらすじでも共通の「夢」として扱われていて、夢にすることで罪悪感や倫理観からの逃亡を可能にしている。そういえば『1巻』6話でも眠れない体質になった灰葉を心配した扇言が彼の命を救おうと一線を越えていた。お互いに相手から死を遠ざけるために行動しているが、それは大義名分。真正面から好意に応えることが禁句(タブー)となっている2人には具体的な行動だけが口ほどに物をいう。灰葉から動いたことで扇言にも その感情がダイレクトに伝わったことだろう。

性行為を描かない白泉社作品の、特に本書のように絶対に それが許されない作品で最後の切り札といえるカードを ここで切っている。もし私が連載中に、全20冊完結作品と知らないまま読んでいたら、もうすぐ最終回だと錯覚しただろう。このままのペースなら扇言の過去に追及するのが2巻あって、卒業までの日々を2巻ぐらいで描く全11巻で終わらせることも可能だろう。
それだと一馬(かずま)の当て馬覚醒状態を描かないままなので そこで2冊ぐらい増えるか。その一馬は『7巻』では何も行動しない。灰葉からも まだまだ敵視されていないので、もしかしたら扇言の過去の後に一馬の行動になるのか。両片想いの成立の早さといい本書は一般的な白泉社作品の構成と違うのかもしれない。

入り込む余地がないからとも言えるけれど本書は他のキャラクタの脇役感が強い。淳人(あつと)は好意を完全に抹消され、なずな は いつの間にかに扇言と仲良くなっている。兄・淳人の好きな人として扇言を監視し合格点を与えたし、正確には一馬を共通の友人とした仲なんだけど、もうちょっと なずな と扇言の関係性を描くエピソードがあっても良いのではないか。ただ なずな は死にたいわけでもないし ぼっち でもないから扇言の友人枠と厳密には言えない人なのかもしれない。『6巻』登場の薫子(かおるこ)は修学旅行に来て、普通にクラスメイトと関わっている。彼女は人間関係に躓(つまづ)いた訳じゃないから それでいいんだろうけど、クラスメイト側も不登校の薫子との距離感がゼロなのが気になる。全体的に気の良い人たちが集まった学校なのだけど、その割に一馬のファンは陰湿な面があったりと世界観がチグハグな気がする。
本書はメインの2人に集中していて欲しい作品だけど、もし次回作があったとしたら もう少し脇役との関係性をしっかりと構築して欲しいと思った。


学旅行での飛行機事故を心配した灰葉が遺書を作成する。自習時間で周囲に生徒がいる中で遺書の話を平気です2人の神経は太いと思うよ。それを ご都合主義にせず灰葉が遺書を書いていると生徒の話題になり、灰葉が自虐で話をオトすことで大事にさせない。

灰葉のメンタルを心配した扇言は再び接触を図る。小説並みの遺書を書いて痛感したのは現世での未達成事項の多さ。扇言への未練が灰葉を この世に留まらせる。それでも制作された遺書は伏線となる。


キー修学旅行。少女漫画は山に入ると高確率で遭難が発生するサバイバルな世界だけど、その展開を期待した灰葉は自分からフラグを折りにいく。修学旅行には不登校の薫子(かおるこ)も参加。一馬(かずま)や なずな の下級生がいないので薫子が友人枠となり、彼女が扇言の窮地を救ってくれる。クラスメイトは不登校の薫子にも普通に接している。恋バナが聞きたい女子のコミュ力のせいなのか。

扇言は恋バナを追及されると正直に言ってしまいそうなので なるべく ぼっち になろうとする。今回も『6巻』の一馬ファンからの嫌がらせと同じく、迷惑な女子生徒に悩む扇言は自分で対処できず灰葉にフォローされる形なのが気になる。不器用だから生きづらくて、生きづらいから灰葉と関わり始めたのだけど、いつまでも その構図のままなのは扇言に成長が見えない要素になってしまう。


まり生命の危険度の高くない雪山イベント(もどき)が発生。助けを呼べないのは生徒と教師が2人きりでいたことが露見するという心理的なブレーキが働いているから。灰葉は扇言が渦中の人になって誹謗中傷を受けるリスクを回避したい。それは扇言も同じ。ただ2人ともイベントの発生によるメリットも享受したい気持ちもある。この局面の打開策のために伏線が用意されていた。扇音は他校の男子生徒と一緒にいるところを見られて噂にならないのだろうか。

密室から出られない じゃなくて 室内に入れず、助けも呼べない雪の山荘モノ

リスマス回。灰葉には「先生」に願いごとをした過去の思い出があった。
扇言は灰葉へのプレゼントに悩みつつも、当日は一馬と なずな とイルミネーションを見に行く約束をしている。今回も一馬の要請で噂の防波堤になるために なずな が呼び出された。現時点でも なずな側に扇言たちと一緒にいる動機が無くはないのだろうけど。

灰葉は昔馴染みの たい焼き屋と扇言の兄・詞(つかさ)と麻雀するクリスマスを送る。その後、帰宅するとマンションの前に扇言が彼を待っていた。扇言は飼い猫にプレゼントを贈るが、灰葉へのプレゼントは悩んだ末に無し。そこで過去の灰葉が「先生」に願ったものを問う。その答えを知った扇言は自分が灰葉に それを与えられる時のことを夢想し、そこから互いの呼び方の話になり、2人が それぞれ名前で相手を呼ぶイベントが発生する。灰葉が願ったものを「先生」も実現できたのではないかと思う。そうじゃなければ灰葉は こんなにも長い間「先生」のことを忘れない訳がない。


晦日。クリスマス以降、灰葉は悪い夢を見て、その後に扇言に安否確認をする日々となっていた。そんな彼のメンタルを心配して扇言は初日の出を一緒に見る提案をし、灰葉は それを墓地で実行する。灰葉の様子がおかしいことに扇言は距離をおかれていると不安になる。そんな扇言に灰葉は余裕のない自分を正直に話す。

初日の出を無事に見逃した2人は そのまま灰葉の家に行く。灰葉は初夢を悪夢にしたくないので寝ないと決めるが、体調を心配する扇言は灰葉が眠るのを見届ける。いつものように灰葉がオチ要員に使われるのだけど、その使い方が洒落ている。以前と同じような状況を用意して既視感を用意しつつ、以前と違う道を進む意外性が生まれている。