和泉 かねよし(いずみ かねよし)
そんなんじゃねえよ
第04巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
どちらが本当の兄かわからないまま哲と烈は妹・静への想いを募らせていく。そんななか“烈が養子”と判明し、想いを断ち切れない哲は静をさらって、強引にデートに連れ出してしまう…!!だが、本心とは裏腹に兄妹の関係を守ろうとする静は!?絶好調ハイテンションLOVELOVE兄妹ストーリー衝撃の第4巻!!
簡潔完結感想文
- 兄その2との逃避行。いつも通りの家族の登校風景から抜け出して、2人は男女に。
- 兄その1との逃避行。ひとつ屋根の下にいることが辛いなら、俺とラブホで一夜を。
- ストーカーからの追尾。癖のある人にモテる静に忍び寄る魔の手、じゃないだと⁉
欲しいのは愛ではなくて血が繋がっていない証拠だけ、の 4巻。
全9巻の物語の内、『4巻』というか『3巻』から恋愛的決着はついている。
2人の問題は、もう兄妹であるか、ないかだけ。
残りの半分、いや全体の2/3が その問題に右往左往するだけで中身に乏しい。
他作品のネタバレになるかもしれませんが吉住渉さん『ママレード・ボーイ(反転)』の終盤が延々と続いている印象を受けた。
以前も書きましたが、本書には圧倒的に「切なさ」が足りない。
まず10数年 同じ家に暮らす兄または妹に恋愛感情を持ってしまう背徳感がない。
兄に妹が愛されるのは当たり前だし、妹の側も兄を受け入れる準備も出来ている。
しかも妹が、どちらの兄を愛しているかが早くも判明する。
2人の魅力的な兄を登場させたのなら、
もうちょっと一進一退のトライアングル・ラブストーリーを見せて欲しかった。
どちらを選ぶのか、というドキドキもないし、
こうなると選ばれなかった方の行動が悪あがきにしか見えない。
よって、2人の間に残る問題は「世間体」なのである。
これが少女漫画として致命的。
こういう時に反対勢力として利用される親も、
彼らの関係に賛成はしないまでも、大きな反対もしない。
これまで通り同じ家に住んでいて、物理的な別離もなくドラマが生まれない。
恋愛を保留することは当人同士にとっては辛い時間かもしれないが、
その切なさが実感できるようなエピソードも足りない。
ここからは世間に顔向けできる理由を血眼になって探すのを、残りの5巻を使ってしていくだけ。
2人の距離感の変化こそ少女漫画のダイナミズムなのに、そこは1話時点から変わらないのが とても残念。
だから いつまでも血縁者だけが入り乱れている世界なのも相変わらずである。
時折、小物のライバルキャラに嫌味を言われるぐらいで、血縁者以外に入り込む余地を与えない。
作品において血の繋がりの有り無しだけが論点になってしまったのは、
何だか作品自体が「人の顔色 うかがってるようなタイド」と評された、
昔の ヒロイン・静(しずか)のようなのである。
チマチマしていて、スケール感に乏しい。
出てくるのが癖のある人ばかりなのでハチャメチャな展開に見えるが、実は かなり お行儀のいい作品だと思う。
何だかんだヒロイン・静にとって、都合の良い世界が広がっているのだ。
兄妹3人の中で、誰が養子なのかという静の見解が共有された。
それが静の望む形態でなかったから、彼女は辛い日々を送ることになる。
そんな現実から逃れるように、
登校途中に、思いついて哲(てつ)が静を海に連れていく。
これは烈(れつ)を駅に置いていくことで、ただの男女になった2人の逃避行となる。
やがて昼時となり食事をするが、所持金の関係で お店はファストフードとなる。
自分の好きな人に、満足のいく食事を提供できない事を恥じる哲。
これは(親の金で)高級店を巡ってばかりの仁村(にむら)との比較としているのかな。
等身大で、自分の力だけで静を喜ばせようとする哲の誠実さが際立つ。
哲は今の自分にあるもの全てを投げうってでも静の傍にいたい。
兄という安定した立場も、明晰な頭脳を使って大学に進学する事も捨てて、
自分の力で静を守れる男になろうとする。
それは たとえ2人の間に血縁があっても変わらないのだろう。
それだけ哲は本気なのだ。
そこに一線を引くのは静。
哲には内緒で母に連絡をして、恋人ごっこを終わらせる段取りをつけていた。
インモラルな関係に堕ちる未来もあるが、それでは自分の好きな哲が不幸になってしまう。
だから、静は その未来を拒否をする。
ここからは罪悪感のない愛し方を模索することが彼女の目標となる。
まぁ、逆に言えば、哲が兄でなければ何も問題がない、ということだ。
もう本書の謎は ここしか残っていない。
身も蓋もない言い方をすれば残りの1/2以上は、どれだけ遠回りをするか、という お話である。
そうして距離を保った後、哲は、
静のクラスメイトで、母同士が親しい可菜子(かなこ)に接近する。
静はそれを見て胸が痛むが、自分には哲を止める権利を持っていない事を知っている。
もちろん あの哲が、ほいほいと相手を変える訳はなく、
哲は可菜子の家を通じて、自分たちの家の内情や過去を調べようとしていた。
だが、それを知らない静にとっては傷心する出来事。
これが烈にとって、妹の意識を自分に向ける良い機会となる。
しかも そこに仁村も参戦して、事態は混戦模様。
ただ2人の揺さぶりにも、静は取り乱さない。
自分を故意に傷つけようとする仁村の狙いを またも見抜き、その上で彼の挑発を受けて立つ。
何だか仁村は、絶対に静に勝てない運命なんじゃないか…。
嫌がらせをすればするほど、彼女が強く、逞しくなってしまう。
前半で哲が静を攫ったように、烈も静を攫う。
行き先はラブホ。
これは家に帰りたくない静の気持ちを汲み取っての行動。
とはいえ色々な下心がない訳ではない。
2人とも男としての意識で、彼女を家や日常から引き離そうとしている。
それでも烈は、静が精神的にも肉体的にも拒絶するなら、強引に事を進めない。
やっぱり兄達は甘い。
それは優しいに似ている。
烈が静を家から連れ出したのは、彼女が家で一人で泣いていることを知っているから。
暗い夜に一人で泣かないようにするために、静と一緒にいられる場所がラブホだったのだろう。
だが、仁村から情報をリークされた哲が迎えに来てホテル内で大騒ぎになり、
その噂が学校内を駆け巡り、静は美形兄弟を従える女として有名になってしまった。
静は、自分に厳しい可菜子に妹という特権的な地位に恵まれているだけと嫌味を言われる。
そこに静は肝を据えて反論する。
静が窮地に強い、というのはワンパターン化してきましたね。
可菜子もまた、仁村と一緒で静に絶対に勝てない人だろう。
そして静が最強で、無双するから本書は盛り上がらないのだが…。
静は「妹」であることの不自由さを誰よりも感じている。
だから、こんな苦しい自分の状況を放置せずに、調査を進め、真実を知ろうとする。
そんな中、兄妹の周囲にストーカーが現れる。
その正体は、高齢女性。
彼女の目標は、静ではなく烈。
その人は、少し前に母宛てに手紙を送っていた人。
その手紙を読むことで、その女性の正体を知る。
この女性によって、烈が、どのような経緯で この家に来たのかが分かるかもしれない。
…が、この恋愛にとって それは大事な事じゃない。
烈の問題は本書の恋愛面においては、やっぱり蛇足なのだ。
早くもお役目御免の感じがある烈が不憫である…。