ななじ 眺(ななじ ながむ)
パフェちっく!
第10巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
壱にもらった誕生日プレゼントが、伊織さんの選んだものだと知り傷ついた風呼。伊織さんと壱との関係に、不安でいっぱいになり打ちのめされてしまう。そんな風呼を気遣う大也は…!?
簡潔完結感想文
- 壱は風呼の誕生日当日にも姿を現さなかった。満ちた月は欠け続ける。
- 悲しい恋を引きずる壱の姿を見ることが風呼は悲しい。笑顔が死ぬ。
- 言葉を鎖にして彼の自由を奪う。心の平穏と両想いは成立したが…。
ライバルとは違う、ただの恋の邪魔者に撹乱される 10巻。
壱(いち)の恋のラッキーアイテムは、火または夜、月。
なのに『10巻』では夜にヒロインの風呼(ふうこ)と一緒にいない。
つまりは彼らの恋は進展する要素がないということになる。
この巻で夜に風呼と壱が並んだのは、
話し合いのためにアパートの階段で並んだ時と、
風呼が大也(だいや)と一緒にいる時に遭遇したぐらいだろう(多分)。
夏以降、夜に良い雰囲気が流れていたが、
季節は巡り、夏の残滓は消え失せ、完全に秋に移行していく。
10/20の風呼の誕生日の夜も同じ。
もし この時、壱が大也に誘われるままに彼女の誕生会に出向いていれば、
バースデーケーキの上には火があって、帰りは夜道を一緒に歩けて、
風呼は世界一幸せな女性となって、あのキス未遂以来の良いムードになったかもしれない。
しかし彼は現れなかった。
もはや月は自分で光を発しようとも しなくなっていく…。
代わりに、暗い夜の中の光を見せてくれたのは大也。
彼が引っ越す前に住んでいた町の、高台から見える夜景を風呼に見せてあげた。
彼女のストレスも、感情のコントロールにも気を遣って、
大也は風呼の側に い続けて上げる。
これは風呼が大也に振られる前後の壱の行動に似ている。
自分の感情は出さずに、ただただ彼女のケアを第一に考えている。
新保クンたちはどちらも同じぐらい優しいのに、どうして こうなってしまったのか。
もし ここ2巻ぐらいの大也の行動を全て壱がやってくれたら、どんなに良かったか。
自分のルーツである実家に風呼を招いたら、
壱は彼の祖父母に風呼のことを大切な人だと紹介してくれただろう。
そこで知る彼の過去を本人から直接 聞けることは風呼の心を満たしただろう。
そして夜道を一緒に歩いて、彼が闇の中に輝く彼のルーツを見せてくれたら、
風呼はまた壱に一歩近づけた気がして、嬉しさのあまり告白をしたかもしれない。
しかし今の壱は信用を失った。
これまでは風呼に優しかったが、伊織(いおり)の出現で誰にでも優しい人になった。
風呼が欲しい特別を、壱自身と伊織が奪っていく…。
風呼の誕生日当日、
友人たちがサプライズで開いてくれたパーティーに壱の姿はなかった。
大也は壱を誘ったが、伊織からの電話があり、彼はそちらを優先してしまった。
伊織と会ってることを知った大也は壱はバイトと誤魔化すが、その嘘は早々にバレてしまった。
分からないことだらけで不快感が増す。
まずは壱。
なぜ誕生日だけでも風呼を優先してくれなかったのか。
昔 好きだった人に頼られていることに悦びを覚えるから、彼は伊織の元に走るのか。
今の壱には男性特有のロマンチックさと、女性に操縦されている滑稽さが混在している。
自分の過去の恋を美談にするために、今も彼女を裏切れないだけのような気がする。
そして伊織は壱が自分に弱いのを分かっていて、彼を呼び出すのだ。
そこに女性としての悦びが絶対にないとは言い切れないだろう。
その伊織は何もかもが不明だ。
彼女は今 何をやっているのだろうか。
短大卒業後、新保家の会社に入社して半年で そこを辞める。
その間に中学生だった壱を精神的な柱にして、他の男との恋愛をしている。
その1年後に、再び壱を追って現れ、毎日のように彼を呼び出す。
しかも日中、注目を浴びる放課後の校門前に車を停めて。
伊織は本命の彼氏の前では、今回の風呼のように、何でも平気なフリをしてしまうのだろうか。
どんなに会えなくても、どれだけ便利な存在であっても、
彼の前では、ただ彼のために尽くしてしまう。
もしかしたら彼氏の方は、伊織に不満など無いと思っているのかもしれない。
彼女が年下の当時中学生だった男性に泣きついていることなど知らないのだろう。
そして伊織は自分が大好きな人だということは分かる。
学校の前で壱をピックアップして彼がどう思われるか、など考えないのだろう。
自分を憎からず思う男性と一緒にいないといけない依存性の高い人間だと思われる。
ただ そんな伊織に、壱への恋愛感情はない様子。
だからこそ風呼は伊織を上手く断ち切れない。
これまでのライバル、秋桜(あきお)や古都(こと)は 同じ人を好きで仕方がないという共通点があり、
そこを糸口に仲良くなれた。
だが、伊織はライバルにもならない、本当の邪魔者で、暖簾に腕押し、糠に釘。
自分が力を加えても、自分が疲弊するだけで、彼女に何の影響も与えられない。
伊織が女の武器を使っていれば、そこを急所として責めることも出来るが、彼らの間柄はただの女/男友達なのである。
そこを騒ぎ立てようとすると どうしても器の小さい人間になってしまう。
そんな風呼を苦しめる存在である伊織に大也がキレる。
伊織の処世術を非難しようとしている大也を風呼が止める前に、壱が割って入った。
それが また風呼を傷つける。
壱の中では、伊織は年齢関係なく弱くて庇護しなければならない存在と、
なかば洗脳されているのでしょうか。
そう考えてみると、今の風呼と壱の関係は、
両想いというゴール、つまりは結婚を前にした2人の前に
彼が新興宗教に入信していた事実が発覚したような状態といえるのかな(暴論?)
染まってしまった彼の思考をどうにかフラットに戻したいが、
純粋に教義を信じている彼を前にすると、
どうしても説得している自分が嫌な人間になってしまう。
その自己嫌悪がまた風呼を苦しめる、といった途中経過なのだろう。
自分と出会う前から信じているものを、どう引き剥がすか、が問題となる。
敵の敵は味方、ということで
かつての恋のライバル(?)古都が風呼と協力すべく顔を出す。
壱が信じきっていて、彼の生活を乱す存在である伊織に対する愚痴を互いに言い合って、風呼は少しは気分が晴れやかになる。
そして大也は無理に笑おうとする風呼をケアする。
風呼の友人たちに彼女を元気づけたりしてくれと頼んだり、
休める内は心を休めて、作らない素直な表情のままでいられる時間を確保してくれる。
彼女がどれだけ辛いか、一緒にいて、そしてずっと見つめている大也には分かるのだ。
本来、その役割だった壱は、その視線を風呼に向けようとしないことも大地は見えている。
もしかしたら壱は自分の大切な人の言い分を守るロボットなのかもしれない。
今は伊織を一番 大切と思い、彼女の命令を最優先にするモードなのではないか。
そのプログラミングされただけの動きは、彼の心とは違う行動も取れるはず。
だから風呼は「伊織さんと もう会わないで」というコマンドを入力してみた…。
だけど、そうリプログラミングしても、風呼は嬉しくない。
たとえ両想いになれても、心を縛るような関係を彼女は望んでいない。
宗教の例えならば、壱に信教の自由を与え続けたまま、
その上で、自分のことを第一に考えて欲しいのだ。
だから この無理矢理 脱会させるような手法は間違っている。
風呼にも それは分かっているのだが、かりそめでも心の平穏が彼女は欲しかったのだろう。