金田一 蓮十郎(きんだいち れんじゅうろう)
ライアー×ライアー
第03巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★★(8点)
ワケあって今……弟に片想い中です(※この文章には微妙に「嘘」が含まれてます)。--私×義弟(おとうと)×私=つらい片想いの始まり……なのか?高槻湊(たかつき・みなと)20歳。友達の高校時代の制服で変身中、義理の弟・透(とおる)に別人として惚れられてしまい、一度つきあうことに……!だけどあこがれの人・烏丸(からすま)くんとつきあうため、透との関係は終わらせた湊。しかし、透のあまりの落ち込みように再び……!?
簡潔完結感想文
- 元サヤ。透を救うための措置が巡り巡って自分を苦しめる。因果は巡る糸車。
- 奪略愛。擬似三角関係から脱するべく別人格から恋の主導権を奪う一人舞台。
- 恋愛経験ゼロから肉食系への変身。深夜 男性宅に乗り込んで、服を脱いで…。
1人の人間の中で同時進行する二重人格の恋は全てがプラマイゼロ、の 3巻。
主人公の恋愛感情に一定の方向性が見られ、
早期の決着もあり得る中で、主人公に吹き荒れる逆風が読みどころ。
引き返せないポイントまで嘘が進んでいることから、
自縄自縛に陥り、少しでも状況を打破するために
これまでやったことのないような女性の恋愛テクニックを駆使する主人公が いじらしい。
男が1人と女が1人、けれど女性が2つの人格を使い分けているから起こる擬似三角関係。
ここからが本書の真骨頂だとも言える。
『2巻』で男2人と女1人で悩み苦しんでいた時よりも罪深く、興味深い。
好きな人を自覚した自分と、別人格で その人に好かれている自分。
別人格から恋の主導権を奪うために奮闘するのが『3巻』です。
現状に「自分がライバルです!」というアスリートにも似た感想を抱く主人公の湊(みなと)。
本来の自分では想い人・透(とおる)とは会話もままならず元気に出来ないが、
自分ではない自分・みな の人格では それが可能。
みなに向けられる愛情を感じるほど、自分本来の幸せは遠のく。
この隔靴掻痒、幸せ逆コースの湊には同情しかない。
これまで嘘をついてきた報いだと思うこともできるが、
生物学上同じ生き物であるのに、好きな人からの距離は雲泥の差があり、
彼女のいる人を好きになってしまった苦しみにも似ているだろう。
そこで湊が行う作戦が、自分 肉食化計画。
あらゆる手段を使って透の中にいる「みな」を追い出すことを目的としたこの作戦。
しかし、この作戦は「みな」が透の女性関係を潔癖にしたことが災いするという因果応報の結末に。
この辺りの、湊を苦しめるために作り上げた袋小路が本当に秀逸です。
別人格が幸せな分だけ、本人は厳しい現実を目の当たりにしてしまう。
二重生活だからこそ起こる喜悲劇の描写が本当に上手い。
『3巻』で湊が実行した作戦は主に3つ。
そのどれもが非常に古典的なのが気になるが、実際にも効果が高いのだろうか。
1つ目が好きな人の胃袋を掴む作戦。
好きな人のために料理上手になり、
「男は料理できる女に弱い」という習性を利用しようとするが…。
いざ透の部屋に持っていってから、
姉の自分が弟に料理を作って持っていく不自然さに気が付き、
つい「気になる男の人に食べてもらおうと作った」から
同性で年の近い透の意見が聞きたい、と また嘘をつく。
好きなのに、別に好きな人がいると言ってしまう間抜けさが もはや愛おしい。
ツンデレギャグキャラに転身したらどうか。
しかし透にしてみれば、姉が好きであれ嫌いで、
家族の恋人候補の情報など聞きたくもないだろう。
湊の嘘は いつも誰かに不快な思いをさせてしまうようだ。
しかし透は「次作ったら また持ってきたらいいよ 味見するから」と優しい お言葉。
無表情・不愛想な彼の優しさにキュンとするのも楽しい読み方。
そして一歩一歩、成果を上げ始める湊も応援したくなる。
とても良い姉弟の二重構造である。
作戦その2は、お泊り回での色仕掛け。
お泊り回での目的は色仕掛け。
もう なりふり構ってられない、透の中で、みな < 湊、となるべく一人奪略愛ごっこが本格始動。
深夜に男の部屋に行って、終電がなくなったから泊めてくれないかと申し出る女。
姉と弟だから何とか成り立つが、客観的に見れば もう完全に肉食系女子である。
この湊の悪戦苦闘を見ていると、
そうか、こうやって これまで透と関係を持った女性たちは透に迫ったんだな、と推測が付く。
そして かつての透はそれを拒まなかっただけ。
湊は自分が かつて嫌悪の対象だった色欲にまみれた男女関係に
自分も片足を突っ込んでいることを自覚しているだろうか。
そして湊が色仕掛け以上のことをしてみたら、どういう結果になったのだろうか。
完読すると、色んな意味で上手くいかなかった、と断定できるが…。
ちなみに お泊り回では湊の潔癖症が小康状態であることが描かれる。
掃除は趣味以上に身体に刻まれているが、
透に起因する他者や恋愛に対する嫌悪感は薄れている模様。
湊は忌まわしい過去から解放されている途中なのだろう。
この恋愛が上手くいかなかった時は きっと、
湊はもう通常の社会生活が送れないほど世界が汚れていると思ってしまうんだろうなぁ…。
色仕掛けのために、シャワー後にバスタオル1枚で透の前に出る湊(悪女から痴女へ!)。
透にとって半裸の姉の姿も衝撃的だっただろうが、
姉が自分の前で髪を下ろしているのが精神的に充実した模様。
これは湊にとっても頑なだった自分の心が物理的に ほどけたのではないか。
作戦その3は焦らし作戦。
みなとして会う頻度を下げて、みなの株を下げることで、自分の株が少しでも上がることを期待する。
が、その株価が連動している訳もなく、
そして自分が透に久々に会ったことでテンションが上がる始末。
透は最初からフルスロットルで みなを溺愛しているが、
みな もまた透を深く好きになり始めている。
通常の恋愛なら良い場面なんですけどねー。
ちなみに みな貞操の危機には宗教観念を持ち出して対抗している。
しかし いつもながら、みな=湊 の苦し紛れの対抗策を、
一足飛びに乗り越える透の思考に笑ってしまう。
夢を実現するためには労苦を厭わない。
そして相手の気持ちは一切 考慮しない(笑)
以前も書きましたが、中学生男子の思考なんですよね。
透もまた、中学生の あの夏で恋愛回路が止まって、壊れ気味。
みな と同じ大学への進学、結婚、家族計画、透の妄想は止まることを知りません。
透は一度 別れを経験しているが、
彼もまた、この恋が終わってしまった時、どうなってしまうのかが怖い。
恋愛下手にも程がある姉弟ですね。
だから見捨てられないんですが。
ちなみに『2巻』と『3巻』で「冬の3大イベント(岩本ナオさん『町でうわさの天狗の子』より)」、
クリスマス(『2巻』、でも烏丸くんとの別れの日)、初詣、バレンタインを網羅している。
バレンタインデーでは母に手伝ってもらってフォンダンショコラを完成させる。
みな として透に贈るのだが、「渡すの楽しみ」と思えるぐらいに興奮する湊。
家族に作って家族が食べる、地産地消の一品です。
どうやら湊の母親は料理上手という設定みたいですね。
本書に出てくる料理は どれも手間が掛かっている気がします。
そして透は、バレンタインのちょこであっても来るものを拒むようになった様子。
でも無気力にも見える透は流されるままの方が「っぽい」から、
どうやって断っているのか気になりますね。
現在が幸せなこともあって
結構、非人道的に断りそうで、逆恨みされて、この場合も刺されるのではないかと心配になる。
そしてバレンタインデーにはチョコ好きの桂(かつら)くんと「みな」が初遭遇。
透の唯一の友人で、湊のこともよく知る人物。
第三者によって正体がバレる危機だが、なんとか乗り切る。
この場面、透が「みな」から「知ってる人」の話題を避けているようにも見える。
いや、湊を庇っているのか⁉
湊よりも「全然 可愛い」と言われたことに反抗しているように見えるし、
姉を良く知る桂くんの追及の手から逃れようとしている気もする。
このように様々な読ませ方をさせるために可能性を残している気がするなぁ。
しかし桂くん、チョコ獲得を自助努力をしないで他力本願の人。
根っからの三枚目っぽい。見た目は悪くないのだが。
ちなみに桂くんとは、後日、みな としてアドレス交換をしている。
これはまた余計なフラグが立ったか…?
実は 湊の透の部屋でのお泊り回の前にあるのが、みな のお泊り回。
3月7日は「みな」の誕生日回。もちろん架空の。
透は家庭教師のバイトに精を出して、誕生日近辺の週末に温泉に一泊旅行を計画する。
通常のカップルなら いよいよという場面だが、
本書の場合は罰当たりな宗教上の理由をこしらえて、清い関係のまま。
だが、少しだけヒートアップして我を失いかける透。
そして彼の身体の下で息を荒くする みながいた。
※ネタバレ前提の『ライアー×ライアー side.透』では、
自分のキスで乱れる みな の姿は、映像的にはずっと見たかったヴィジョンだろう。
だけど、もしこのまま みなを抱いていても、
彼の頭は別の人のことを考えているのかもしれないのか。
みな の立場からしてみても、自分は彼が本当に好きな人の代替品でしかないという現実があるのか。
湊と みなが本当に別人であった場合、みな にとっては、
ここで身体の関係を結ばないのは無駄に傷つかない良い選択だったかもしれませんね。
湊、みな どちらの女性も簡単には幸せには なれません。
ちなみに透が みな の すっぴんを褒めるのも、より姉に近づいているからだろう。
透が、女性に若さを求める派手なギャル好きという線は消えたか。
一方、「湊」の初カレ・烏丸(からすま)くんとは、
2大学合同のインカレサークルになって定期的に会うことに。
湊としては恋愛面で心苦しい日々が始まっていることを知り、
烏丸くんは「友達」として湊を応援する。
湊の心は「なんか別れてからのほうが親しくなった感がする」と軽くなるが、
だが「心にもないことは言うもんじゃない」と落ち込んでいる様子。
また嘘つきが一人 誕生してしまった。
そんな烏丸くんは「友達感覚」が強いから、湊を呼び捨てにすることに。
これは烏丸くんの友達以上願望が込められているだろう。
サークル内外での牽制の意味も大いにあるはず。
聖人君子としてしか彼を見ていない
湊に 烏丸の嘘・虚勢が見抜けるとは思えず、また罪深い日々を送るのだろう…。
だが、その烏丸に湊最大の嘘が発覚し…⁉
これまた時間が気になる展開です。
サークル内では周先輩は自身の恋愛には興味は無さそうだが、
周辺の恋愛事情の空気を読むのが上手いみたいだ。