金田一 蓮十郎(きんだいち れんじゅうろう)
ライアー×ライアー
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★★(8点)
義弟×私×あこがれの人=禁断の同時進行!!? まさかの……モテ期なのか!!? 高槻湊(たかつき・みなと)20歳。友達の高校時代の制服で変身中、義理の弟・透(とおる)に別人として惚れられてしまい、その透の一途さに押され、一度つきあうことに……! しかし、タイミング悪く小学の時のあこがれの人・烏丸(からすま)くんからも告白をされてしまって!? 話題沸騰! 二重恋愛コメディー第2巻!
簡潔完結感想文
- 贈り物。湊とみなに贈られる2つの小物。欲しいモノが何でも手に入る無敵状態。
- 最後のウソ。綺麗な身体になって幸せになるためには、一度 汚れなければならない。
- 年末。湊が選択する交際相手。恋愛漫画としての結論は出た。しかし前途は多難だ…。
ミイラ取りがミイラになって、嘘の世界から出られなくなる 2巻。
感想を書くと、本書の内容の濃さを改めて感じる。
書きたいことが多すぎる。
色々とイベントが起き、色々と考察が出来る。それは良書の証です。
…が、可愛らしい画風と、大量の言い訳は用意されていますが、
『2巻』の湊(みなと)は間違いなく悪女ですね。
ファムファタル。
運命の女性で、男性の運命を変える女性。でも男性を破滅させる女性。
彼女に関わった男性たちは、皆とんでもない目に遭っている。
女性関係が奔放で、友人から「こいつ絶対いつか誰かに刺されるって心配」されていた
義弟の透(とおる)なんかよりも、よっぽど性質の悪いことになっている。
その透に出会いから数か月で幾ら使わせているのだろうか。
愛情表現だし、成人してるし、(金品を)騙されて盗られている訳ではないのだが、
透が借金生活をして転落人生を送る可能性だってある。
もう一人の男性・烏丸(からすま)も さんざん好意を匂わせて、
交際が始まったと思いきや、初めてのクリスマスに別れを告げる始末。
恋愛経験がゼロだからとか、自分にも他人にも嘘をつかないためなど言っているが、
なかなかの天然悪女ぶりである。
『2巻』の中で湊(みな)が告げる2つの別れ。
それは どちらも彼女が別の男性が気になるからという動機に他ならない。
あっという間に交際した男にも、交際まで時間を要した男にも、
そんな自身の理由から別れる人は、悪女じゃなくて何だろう。
湊は『2巻』のラストで自身の恋愛問題に答えを出した。
しかし、それは決して彼女自身が幸せになることのない茨の道だった。
登場人物、全員不幸。そんな嘘つき漫画です。
湊と みな、2つの人格で進行する2つの恋愛。
その一つが湊として 良い感じの雰囲気が続く烏丸との関係。
深読み するならば、湊が恋愛解禁したのも、みなモード時ではあったものの、
透に好きだと言ってもらったから ではないか。
これによって自己肯定感や恋愛の喜びが生まれたに違いない。
その相手に烏丸が選ばれたのは『1巻』でも書いた通り、
性を意識する前の小学校時代に出会っているからも大きいだろう。
この段階の湊は、恋に恋している状態で、手近で身近な烏丸に惹かれていったのか。
まぁ、潔癖症はずの湊が、サークルの京都旅行中に2人で鴨川沿いの土手に座るのは、恋愛パワーかな。
烏丸への想いだって決して嘘ではない。
湊の潔癖症は相手への好意によって変動するのかな。
しかし烏丸も良い奴過ぎますね。
思うに、彼は将来的な幸せが確定されていれば現在の幸せは要らない人なのではないか。
老夫婦になるまで一緒にいられる未来が描けるのなら、
急いで幸せになる必要性を感じないのかも。
やはり思考は ちょっと理系的な感じだろうか(理系への偏見か?)
けれど その温度が湊にも丁度いいのだろう。
1話の中で、湊と みな に贈られる2つの小物の話は秀逸ですね。
湊と烏丸の2人のアプローチの仕方に性格が表れている気がする。
決して高価な物ではないが、相手の喜ぶ顔を見たくて贈る男性たちの心根が優しい。
サークルの京都旅行ではあるが、長時間一緒に過ごしても
烏丸に欠点がないところが、この後の展開を思うと逆に悲しい。
当て馬の方が欠点がない、幸せになれそう、と思うのは 少女漫画あるある ですね。
透の方は、みな には隠れて遂行される一人暮らし計画とのリンクが素晴らしいですね。
どれだけ透が金銭をかけているか、本来は分からないはずの みな が分かってしまう。
そこに情が生まれてしまい、ズルズルと別れから遠ざかってしまうことになる。
しかし、湊に問いたい。
それぞれ男性が自分のために贈り物をしてくれたことは、
湊に女性として満足感を与えなかったか。
2人の男性にモテることにご満悦だったのではないか、と。
いつも被害者ぶって、嘘に追い込まれている自分を演出しているが、
どうにも、この世の春を存分に楽しんでいるようにも見える。
バカなふりして、結果的に恋愛の楽しい部分を享受している湊なのです…。
今回から始まる透の一人暮らしへの論理も面白いところ。
湊として照れもあり、公共の場でのスキンシップを禁じた みな。
互いの事情でそれぞれの家は使用できない。
だから透は自分で場所を開設する、という自然な流れが出来上がっている。
本当に透の散財っぷりが凄いですね。
姉弟それぞれにアルバイトをしている設定だが、その模様はほとんど描かれない。
二重生活だけでも物語がパンパンだから、個人のプライベートはカットしているのだろう。
透が借金をしていなければ、と祈るばかりです。
透の一人暮らしに両親は、口を出さない様子。
これは夫婦が子連れ再婚同士で、通常の夫婦よりも結婚歴が浅いことに関係してるだろうか。
クリスマスでも湊も家に不在となることを母親は喜んでいる節がある。
夫婦仲が良いので、子供のことは適度に放任できるのかもしれませんね。
そして準備が整った上で、みな が欲しがっていたドーナツ屋のキーホルダーに、
家の合い鍵を付けて渡す透。
胸キュン展開と同時に、少し恐怖も感じる場面です。
透は徹底的なロマンチストなのだろうけど、
女子高生に一人暮らしの合い鍵を渡すって、なかなかの行動だ。
みな からすれば、肉食獣に捕食されに行くようなものだ。
部屋に入ることが、OKサインになりかねない。
何をされても文句は言えまい。
でも透にしてみれば、下心よりも精神的充実度が高いのだろう。
この辺り、初彼女に浮かれて、大仰なことをしてしまうウブな少年なのである。
「馬鹿みたいに純粋」というのは姉であり、彼女でもある湊(=みな)の談。
「誰のことも好きになれなくて可哀相だったから」というのは透のたった一人の友人・桂くんの談。
ヤドカリ好きという設定の透。
実は透がヤドカリを飼っていることを、
一人暮らしをして みな の姿になって初めて存在を確認した湊。
ということは姉が部屋に入らなくなってから飼ったのだろうか。
これまでも実家で会話する時は、湊は部屋に入らないし、
透も巨体で部屋内を見せないようにしたり、ドアを閉めたりと気遣いが見える。
※ネタバレになりますが、このヤドカリは姉への想いの凝縮させたものなのかな。
離れていった姉の心を慰めるために自分の好きなもので満たす。
それなら姉への気持ちを大々的に発表出来る時、ヤドカリも「湊」の前に姿を現わすのかな。
しかし家はバラバラになったけれど、姉弟として近づく距離もある。
実家に帰らない息子を心配した母からお使いを頼まれ、料理を運ぶ湊。
湊として初訪問した部屋では、中に招かれ、お茶を飲み会話をする。
(ヤドカリは目隠しをされる。目隠しというのが透の気持ちに通じている気がする)
湊の便利なところは、彼氏を演じる必要のない透の心を知れるところ。
遠距離恋愛からの自然消滅を狙う作戦も、透の覚悟を聞いて大仰な物に変化することになる。
そして、湊の前でも透は彼女「みな」に対して、誠実であることが分かる。
彼女のことを聞こうとする湊を邪険にする訳でもなく、
素直に照れるし、素直に心情を話す透。
しかし本気度が高ければ高いほど みな の罪は高く積みあがっていく。
湊は結構なトラブルメイカーである。
じゃなきゃ、物語は進まないんだけど。
嘘を重ねないためにも、自分の幸せのためにも、透に別れ話を切り出す湊(みな)。
自分がついた嘘が誰かを不幸にする。
湊は業の深さで来世はろくなことにならないと思われる。
しかし実体はあるけど実在しない彼女の海外移住とは、
モテない男の架空の彼女の嘘に限界がきたから こしらえる別れのようである…(苦笑)
これが みな主役の少女漫画ならば、空港のシーンになるところですね。
でも本書では本題ではないので、透の部屋が最後の別れのシーンとなります。
湊が みな として透と一方的に別れた罪悪感は烏丸との交際にも影響する。
これは完全に元カレのことを上手く忘れられない女性の心理ですね。
別人格の別れだから湊の中では時間差はゼロ。
だから生々しく、上手く整理が付かない。
だれも幸福にならない嘘を、湊はついてしまいましたね。
湊は不器用だから一つのことにしか集中できない。
透との交際をしながら烏丸と交際しない倫理観はいいのだが、
透と別れる一連の流れであれこれ考えていたら烏丸を放置してしまった。
そして烏丸と交際してからは透のことが頭から抜け落ちて、
別れで変調をきたす透の異変に気づけなかった。
この時も、湊として本来ならば見られないはずの、
別れた彼氏の近況を垣間見てしまう。
ドア越しに見える部屋は荒れ、本人は目の下に隈を作って落ち込んでいる。
この年の最後の1週間。
湊は自分が誰と一緒にいたいかを考え、結論を出す。
恋愛漫画としての答えは出ました。
ただ それは、湊本人が幸せになれない結論。
湊は来世どころか、現世で嘘をついた罪を償わされる。
彼女は決して幸せになることができない…。