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無名の新人が(ミステリの)鬼監督のスカウトにより、伝統と格式を守る創元推理文庫に入団決定!

スタジアム 虹の事件簿 (創元推理文庫)

スタジアム 虹の事件簿 (創元推理文庫)

いつも優雅なドレスに身を包み、綺麗な靴を履いて観客席に現れるおっとりした女性・虹森多佳子。超弩級の野球音痴でありながら、なぜかプロ野球球団・東海レインボーズのオーナーを務める彼女は、奇妙な謎を次々と解決に導く才能も持ち合わせていた。安楽椅子探偵の冴え渡る推理と、優勝の夢に向かって疾走する万年最下位球団の奮闘を描いた、値千金の愛すべき本格ミステリ


本書の探偵役・虹森多佳子はプロ野球の球団オーナであり、「安楽椅子探偵」ならぬ「球場観客席探偵」である。球団の親会社社長であった夫の急逝によってオーナーに祭り上げられた彼女は、ホームランとファールの違いも分からない超弩級の野球音痴。そこで一般客に混じり観客席に座り野球を学んでいるのだが、同時に周囲に座る観客の訳ありの会話や怪しい行動を次々に解決に導いていく…。
紛うことなき野球ミステリである。と言っても、読者が野球素人でも問題ない。なぜなら探偵の多佳子がそうだからである。彼女は球団関係者から野球のルールを一つずつ学んでいくので、読者もそれに乗じればいい。本書は野球のルールや戦略と謎解きが連動しているのが特徴である。確かに野球には素人には不可解にしか映らない行動が多いだろう(私も興味ない)。なぜこうなるのか、なぜそうならないのか、という疑問だらけの多佳子は同行の解説者(役)に教えを請う。それと同様に謎や不安を抱える観客に多佳子は解説をしていく。ルールを知れば野球は100倍楽しく、抱える謎もその理由が分かれば人生はまた虹色に輝き始める。
本書は短編集でありながら、連作であり1冊の本としてとっても楽しい。1試合1試合に白熱した試合展開があり、またプロ野球ペナントレースを1年間戦っていく醍醐味も楽しめる。そして多佳子同様に、色々なドラマを抱えた人が観客席に座っているのだと分かる。最終話である第五話目なんて謎そっちのけで試合の方に熱中した。また500部の自費出版から創元推理文庫入りを果たすというのは、多佳子の球団・東海レインボーズとまるで同じ展開ではないか!と作者自身のドラマも熱い。
不満があるとすればミステリとしては謎解きに強引さを感じるのと、作品の質や多佳子の人となりに反して各編で殺人が起こる点である。これは多分、本書が紛うことなき野球ミステリだからであって、「死」と関係する野球用語があるからだと思われる(が、どうだろう)。また折角なら、全九話作ってほしかった気もするなぁ…。
読書中は天藤真さんの『鈍い球音』東川篤哉さんの『殺意は必ず三度ある』を思い出した。野球ミステリは明るい作品が多いのか?

  • 「第一話 幻の虹」…怪我のため試合に出られない不人気球団の外野手・朱村が、とある女性と試合を観戦していたのだが周囲は、喧しい客、カバンを抱きかかえる客、態度の悪い売り子の悪環境で…。一気に作品も作者も好きになった1編目。試合展開も不思議な状況もスルスルと飲み込めて、それでいて謎と試合展開がリンクしているという試合運びの上手さ! ただ前述の通り、多分、それがルールとは言え、この急展開と作品の質に合わない犯罪は幕引きとしては重い。「日常の謎」というジャンルが広く普及していれば、内容も違ったのだろうか。
  • 「第二話 見えない虹」…ペンパルと野球観戦に来た女子大生・真波は、隣席に座る元警官らが話す高校教師殺害事件の内容が気にかかり…。恋は盲目その1。小道具の使い方が上手い作品。教師の日頃の行動とそれに反した現場の状況から推理を導く過程が良い。本書の慣例として実行犯が詳らかになるわけじゃないのが残念だけど。野球ミステリで被害者の様な人が登場するのも新鮮だ。登場人物と読者の不安を煽れるだけ煽るのがゲーム中盤までの展開で、安心できないからこそ大逆転劇が面白くなる。多佳子のアフターケアはまさに「日常の謎」っぽい。
  • 「第三話 破れた虹」…オーナー秘書の色摩が球場近くの喫茶店のマダムと野球観戦をする事に。そこには無断欠勤の喫茶店アルバイトの子がいて…。たった一つの、見落としてしまいそうな不思議な、不合理な出来事から演繹的に推理を展開していくのはまさに「日常の謎」。本書の中では平易な野球ルールとの関連もまた見事で、まさか「完全」を目指す者の心境が同じとは。そして喫茶店の話ということで北村薫さんの『砂糖合戦』を思い出した。最初から謎解きと共に試合展開も気になる作品だが、本編からレインボーズの勝利に別の意味が加えられていく…。
  • 「第四話 騒々しい虹」…旅行で留守にする家の植物の水やりを頼まれた小学生の「ぼく」。だけどその家の女性は悪い男に付きまとわれているようで…。うーん、これじゃ嫌がらせの情報が目的の人物に伝わっていないように思うのだけど。更には「ぼく」には秘密を厳守する過去の過ちがあるわけだし。うーん。これなら直接脅迫電話でもかければいいのに。肉を切らせて骨を守る、という野球の高度な判断は楽しかっただけに関連性の低さが気になる。もしかして、この話自体が第五話のミスリーディングを誘っているのか…?
  • 「第五話 ダイヤモンドにかかる虹」…ある日、裕香に掛かってきた電話は同級生のアドレス帳を拾ったと告げる。だが、その持ち主は行方不明になっていて…。恋は盲目その2。裕香という女性の胸の高鳴りと試合の緊張を重ねているのは分かるが、こうやって謎が解けると、裕香の自意識の高さ・勘違いっぷりが痛々しい(苦笑) やっぱり最後まで作品の質と犯罪が合わない。謎を日常にすれば何倍も評価が上がった気がする。また観客にこれまでの登場人物がいる、って描写があっても良かったかな。しかし1冊の本の終わり方としては最高だ(特にラスト1行)。オーナーはお飾りではないけど、謎なんて飾りです!

スタジアム 虹の事件簿スタジアム にじのじけんぼ   読了日:2013年05月19日